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ずっと嫌な予感

 

「あらあらあらあら」

 神原さんはエプロンで両手を拭い忙しそうに部屋を出ていく。

 僕もそれを見て立ち上がり同じように部屋を出る。

「ケンカですかね?」

「よくあることなんだけどねぇ」

 そういって神原さんは窓から中庭に飛び込んでいく。アグレッシブ。

 僕は廊下の窓から様子を見守っている。


 同じように叫び声を聞いた職員が神原さんと同時のタイミングで中庭に合流する。

「どうしたの?」

 甲高い声の正体はまだ小学生に満たない年長さんくらいの男の子。

 神原さんは子どもの目線までしゃがみ優しく問いかける。

 もう一人の職員も対峙している同じような男の子の隣にしゃがみこむ。

 その男の子は泣きじゃくっている。


「コイツが悪いねん!」

 神原サイドの男の子は爆発しそうなくらい顔を真っ赤にしてそういう。

「おぉ前がぁ悪いねん~~」

 泣きじゃくる子どもは嗚咽がひどく抑揚がとにかくすごい。

 職員さんは優しく頭を撫でている。


 神原さんたちによる説得が続いている。

 このケンカの原因は鬼ごっこをしていて片方の投げた砂が目に入ったと言う。

 それがキッカケとなり砂の投げ合いになりケンカが始まったようだ。


 徐々に男の子たちの騒ぎは収束していく。

「それじゃどっちもどっちやね」と神原さん。

「そやそや、それやったら二人で仲直りしよね?ね?」

 と職員さんが男の子の腕を掴んでそういう。

 二人の男の子は頷く。

「はい、ごめんなさいは?」と職員さん。

「ごめんなさい……」

 泣いていた男の子は俯きそうつぶやく。

「アンタも!」と神原さん。

「ごぉめんなさいいいぃぃ」

 今度は真っ赤にしていた男の子が泣き出す。

「はいはいはい」

 と神原さんは男の子の背中をさすって建物の中へ戻っていく。

 職員さんもそれにつづく。


 ケンカを見守った僕は一息ついてさっきいた部屋に戻ることにする。

 部屋のソファーにまた座って神原さんが戻ってくるのを待つ。


 コンコンコン

 神原さんが戻ってくる。

「ごめんなさいねぇ。ヤツらシャワーにぶち込んでやったわ」

「おつかれさまです。よくあるんですね」

「日常茶飯事よ。んでなんの話してたっけ?」

「えとー忘れました」

 アハハと笑ってなんだっけ~?と話する。


「そだそだ!友樹君の話だったね!」

「友樹?」

「そうそう、少年の話……。あ、個人情報はNGだっけ。しまった」

「苗字はなんていうんですか?」

「んー。社会にはいろいろあるから」

「分かりました。続きを聞かせてください」

 イヤな予感はする。

 俄然聞く気が増した。

「どこまで話してたっけ?」

 神原さんとのやり取りは同じステップを二回踏まなければならないようだ。


「そうそう!彼も孤児だったって話までね」

「そうですね」

「それから、それからえーと」

「全然落ち着いてからで構わないです」

 僕はお茶を一口。

「んー」と言って神原さんも鼻をかむ。

 何となくだがこの人は結婚していないだろう。

 何となくだが何となくわかる。


「思い出した。彼が来てから数ヶ月後のある日、満月ちゃんの養子縁組が突然決まったの」

「養親が見つかったってことですか?」

「そうね、あっという間だった。うん」

 また神原さんは重たい表情になる。

「え?悪い事なんですか?」

「いや、違うの。上手く進み過ぎて。結果的に連絡先もわからなければ住んでいるところもわからないという最悪の現状」

「それ」

「だから生きているってことが分かっただけで本ッ当によかった」

「どうしてそうなるんですか?急にいなっくなったってことですか?」

「そういう表現が近いかも。養親にも会えないまま、とこかへ行ってしまった」

「なす術はなかったんですか?警察に言うとか」

「今の私ならそうしていたんだけど問題はここからなの」

「はぁ」

 イヤな予感しかしない。


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