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少し変な人

 僕の緊張が解けぬまま社長室的な部屋に案内される。

 神原さんは「お座りになって」と一言。

 その後、どこかへ立ち去る。

 自分一人の空間。

 立つのも疲れるので言われる通り黒いふかふかのソファーに座る。

 前かがみになり、両手を組む。

 待たされる、待たされる。

 キョロキョロ辺りを見渡てみる。

 特に何もなく普通サイズのテレビだけがある。

テーブルの真ん中に花瓶。

 待たされる。


 コンコンコン 

 お茶とお菓子をもって神原さんが入ってくる。

 「ごめんなさい。お待たせして」

 目の前にオフィスとかで見るプラッチックの

 コップと有名なグリコの赤いお菓子が二袋を渡す。

「今緑茶しかないんです。お菓子と合わないかもだけど」

「いえ、いえお構いなく」

 お茶を一口。熱い。

 ビクビク精神冷えた体にはちょうどいい熱さだ。

 正面に神原さんが座る。


 神原さんはひとため息。

「何から話せばいいだろう……」

 目線的に左上を見て腕を組んでちょっと笑ってそういう。

「……」

「無事で……よかった。うぅ……」

 神原さんは俯いて急に泣き出す。

 この人、僕よりかなり年上のだろうし何よりも初対面だ。

 そして会って数分で泣く人なんて初めてだ。

 神原さんは手で顔を覆う。

「謝らなければいけないのは私。ごめんなさい」

 ちょっと前にも似ている体験をした。

 僕は時間旅行でもしていてまた同じ体験をしているだけなのだろうか。 

 目の前で泣いている人が違うだけでシチュエーションが同じなのか。

 嫌な事悪い事苦手な事とか立て続けに重なる。

 そういう状況を世間は一言で負のスパイラルという。


「あなたがどんな人かわからないけどありがとう」

「はいぃ」ガチガチに強ばる僕。そして引いている。

「元気している?」

「げ、元気しています」

「ぶふぅ」


 まだまだ神原さんは泣いている。

 僕的には正直困っている。

 初対面で泣かれた人ランキングに入りそうだ、僕。

 勝手に泣かれて勝手に喚いている。十数える以上。延々と。

 おかげで僕の緊張は解けた。

 快適なくらい。


「人の親にはなれなかった。なったつもりでいた……」

 自分自身を責め続けている神原さん。

「情けなぁ……満月ちゃん、ごめんねぇ。ぶへぇぇ」

 神原さんにとっては懺悔のつもりなのか。

 よくわからない自身の罪を数えてそれを謝る。

「今じゃなくていいから今度謝らせて。グスッ」

「はいぃ」

 引き気味の僕。


 まだまた神原さんは泣き続ける。

 僕はそれが落ち着くのをただひたすら待つ。

 目が合わないことを理由にキョロキョロ周りを見渡す。

 居心地はよろしくない。



 やっとこさ神原さんも落ち着き始める。

「会ったばっかなのに泣いちゃってごめんなさい。こんなことになるなんて思わなかった。はぁぁ」

気づけばテーブルには神原さんのティッシュで溢れている。

「全然、全然、気にしないでください」

 神原さんは思い切りズズズと鼻をすする。

 また新しいポケットティッシュを取り出して鼻をかむ。


「ふぅ。私のせいなんです。両親に会わせるはずだったんだけど」

 神原さんは鼻声でいう。

「それってどういうことなんでしょうか」

「甘かった」

「……」

「満月ちゃんを危険な目を合わせた」

「どういう事で……」

「私のせい……うぅ」

 神原さんは眉間にしわを寄せて握りこぶしを作っている。

「あ、あの、初対面の方に言うのもアレなんですが、ご自身を責めすぎなんじゃないでしょうか。僕には何もわからないんですけど普通にしたほうが」

 神原さんは眉間にしわを寄せたままそれを聞く。


 少しだけ不気味な間があって神原さんは「フフフ」と薄ら笑う。

 目に涙を浮かべたまま。

 思い詰めていた表情が緩くなる。

 そして神原さんは優しい微笑みに変わり始める。

「フフ、あなたいくつ?」

「今は十八です」

「若い。若さは偉大だね」

「恐縮です」

 初めて「恐縮です」を使った。

「そういえばお名前聞いてなかったね。改めて神原と言います」

 神原さんは頭を下げる。

「朝日と申します」

 僕は一回名乗ったはずだと確信している。

「満月ちゃんは元気?」

「元気しています」

 このやり取りも二回目だと確信している。

「朝日君、ありがとうここへ来てくれて。急なんだけどあなたと満月ちゃんの関係を教えてほしい。そして私たちのことを聞いてほしい」

 神原さんは改めソファーに座ったまま深く深くお辞儀する。

 すごくかしこまられる。

 ある種、僕も心のどこかでは腹はくくっていた。

 こういうカタチにになるとは全く想像していなかったけど。

「分かりました」

 僕も深くお辞儀する。

「ありがとう」

 そうして僕は神原さんに対し、満月との出会いから、

『太陽と子どもの家』を訪れるまでの経緯をなるだけ話した。


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