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まだ一日が始まったばかり

 目的の場所へ到着する。

 外観は小学校とみたいで二階建てのつくり。

 名札に『太陽と子どもの家』とある。

 児童養護施設とはどんなところか知らなかったけど大きい建物だ。

 子どもたちの元気に騒いでいる声も聞こえる。

 

 手のひらをみてそれを握りしめて深呼吸して中に入る。

 すぐ隣に事務所があり、数台パソコンが置かれている。

 一人だけ職員がいる。

「すみませ~ん」

「はい~どうしました?」

 白いカッターシャツの若いメガネの男性がやってくる。

「あの、神原さんという人にお会いにしに来たのですが」

「施設長ですか?ご用事はなんですか?」

「人に頼まれごとをされまして……」

「ん~ちょっと待っててくださいね」

 男性は少し考えたフリ?をして事務所奥へ立ち去っていく。

 どうしよう。何を言えばいいだろう。

 テンパる。テンパる。

 怒られそう。

 

 四分くらいまたされて現れたのはピンクのエプロンを付けた女性。

 事務所奥から現れる。

 見た目的には三十代中盤くらいか。

 優しそうな第一印象。


「はい、私が神原ですが」

「は、は初めまして朝日と申します。あ、あの、えと神原さんをお尋ねしに来たんですけれども」

 誰がどう見ても緊張しているふうに見えるだろう。

 恥ずかしい。

「はい、存じ上げております」と笑顔で遠くから言うので逆に恐い。

「えとー、えとー」

 僕は何をしに来た。

 何が行けば何とかなるだよ。

「あ、あの~満月ちゃんと友達になりまして、えとーご挨拶を」

 神原さんの目の色が変わった。

 エプロンで両手を拭い、速足でこちらに向かってくる。

「いま、なんて」

 距離がドンドン詰められていく。

 事務所のカウンター越しに僕の目の前に立つ。

「今、なんて言いました?満月ちゃん?」

 神原さんは不自然なくらい早口になっている。

「は、はい」

 強ばる僕。

「本当なのね?どこにいるの?一緒にいるの?」

 神原さんは僕の両肩をカッシリ掴み目を見つめられる。

 かなりの力である。

 僕はその威圧に圧倒される。


「え、い、いまはいないです。僕一人です」

「会ったことあるのね?知ってるのね?今どこにいるの?なぜあなたが満月ちゃんを知っているの?」

 うまく聞き取れないほどの早口でそういう。

「え、えと」

 僕はその質問攻めに怯み、言葉が出せない。

 神原さんの瞳が揺らいでいる。


 神原さんは僕の肩を掴んだまま離さない。

 しばし、無になる。

 時間にして三秒ほど。

 何一つ物音なく子どもの声も聞こえず。

 僕も神原さんも口を開かない時間が三秒ほど。


 神原さんが両手を離し、一歩下がる。

 そして上を向いて深呼吸する。

「ごめんなさい。少し取り乱したわ」

「いえ、大丈夫です」

 僕の緊張は解かれない。

「一つだけ確認させて。満月ちゃんはちゃんと居るのね?」

 神原さんはダメ押しで「ちゃんと」を強調していう。

「はい。それは」

「わかった。とりあえず落ち着きましょう。少しお時間貰える?」

 たとえ僕が冷静だとしてもあなたが落ち着いてなど口が裂けても言えない。

 僕は頷く。

 

神原さんに案内され施設の中に入っていく。

 内部には中庭があったり遊具もあったりする。

 低学年か、年長さんくらいの男の子たちが遊んでいる風景が窓から見て取れる。

僕の通っていた小学校とは似ていないけれどなんとなくだがこの雰囲気は懐かしい。

全体的に木造建築で床のワックスがけされた油の匂いやささくれ立った木の扉など。

一言で言うと趣がある。

その趣感満載の応接室に案内される。


 時刻はまだ朝の十時過ぎ。

 僕にとって今日というこの日はまだ始まったばかりである。

 


  

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