栄太郎の憂鬱 その2
気が付けばもう眠っていた。
久しぶりに超早起きなので仕方ないだろう。
電車に揺られながら眠るのはなかなか心地いい。
首を上げてついた駅を確認する。
乗り換える一つ手前の駅だったので一安心した。
時刻は通勤ラッシュと重なる時間だ。
乗客の入れ替わりが激しくなる。
その人の波にのまれながら目的の駅で乗り換える。
グーグル先生に頼りまくりなので迷うこともない。
昨今は便利だな。
ここから先ははじめて行くところだけど先生がいれば安心だ。
その後一回乗り換えをして駅に着く。
「次はバスか」
グーグル先生の示す先まではおよそ十キロ程度だ。
そこそこの人並みの駅からバスのロータリーまで向かう。
手元に飲み物が無かったので近くのコンビニに入りお茶を買う。
残念なことに僕がそのお茶を買いに行っている間、
くしくも僕が乗る系統のバスが来てしまった。
「ちょ!」
コンビニからよく外が見えるのでバスのケツを眺めるしかなかった。
「時間みときゃ良かった……」
悔しさがこみ上げる中、お茶を一口飲む。
時間を確認すると次は十分後の様だ。
しばし待とう。
バスが到着する。
乗り込み窓際を確保。
ていうかバスって何年ぶりだろう。
久しくバスに乗っていなかったのでエンジンのかかる振動にびっくりした。
バスが走り街並みが移動している。
自動車免許も持ってないし、普段が電車くらいなのでちょっと新鮮だ。
横目に過ぎていく街並みに大きな大学を発見する。
「でっけぇ」と、気づかれぬ様呟く。
もし真面目に勉強していてバイトばかりしていなかったら、
僕も大学に入れただろうか。
高望みをしなければ入れただろうかな。
「大学って楽しいんだろうなぁ」と、また呟く。
楽しいサークルに入って彼女作って遊びほうけて。
ウチみたいな安くてうまい居酒屋で遊びまくって。
やりたい勉強してやりたいスポーツをして。
夏休みもめちゃくちゃ長いみたいだし。
青春を謳歌する。とはそういう事なんだろうな。
「はぁ」とため息。
目的地へと到着する。
「意外と早いな」
まだ時間的に今くのは非常識ではないだろうか。
『太陽と子どもの家』はここから十分くらい。
でかい建物もなく、僕の住んでいる街並みに似ているな。
というか大体はそんなもんか。
太陽が照りはじめ気温がぐんぐん上がってくる頃だ。
少し肌寒かった風が日差しのおかげで心地よい時間帯。
朝もたまには悪くないなと思う。
何となく気分も良くなったので常識的な時間になるまでサンボをしよう。
グーグル先生がいるから適当にサンポしていても大丈夫だろう。
誰もにも聞こえぬように歌う。
『そうだ!うれしいんだ』
『生きるよろこび』
『たとえ胸の傷がいたんでも』
普段こうやって知らない街を歩くこともない。
小さな小川。小さな喫茶店。汚すぎる中華屋。
最近建てられたくらいの綺麗な住宅街。
反対に古めかしい日本家屋たち。
町の電気屋さん、おばあちゃんが営んでいる雰囲気のたこ焼き屋。
何かと新鮮だ。
適当に一人歌いながら散策しているといい時間になってきた。
施設の近くまでに向かう。
自然と気が重くなっていく。
『そうだ!おそれないで』
『みんなのために』
『愛と勇気だけがともだちさ』
そうだ。人間には勇気が必要なのだ。
こういう時は特に。
本当にいけ好かない歌詞だ。
人の気も知らないで、正義もくそもあるもんか。
怖いものは怖い。
ビビるものもビビる。
嫌なものは嫌だ。
「はぁ」とため息。
鬱だ。帰りたい。
今度気分の上がるドリカムでも聴こう。




