栄太郎の憂鬱 その1
店を出る。
世間的にはかろうじて朝と言える時間ではないだろうか。
駅に着くとまだラッシュの時間ではないがスーツの男女が見受けられる。
また今日から一週間がはじまるのか、という気持ちになる。
彼らもそういう思いではないだろうか。
店長から渡された地図にはひらがなで『こうべ』と地名が書かれていた。
そのほかは見慣れないので地名とかミミズだらけでよくわからない。
グーグル先生いわく、少し山を越える様だ。
電車での移動だけど少し距離がある。
なんで僕かこんなことしないといけないのだ。
と想った瞬間満月はこの距離を一人で来たのか?と疑問に思う。
流石にその年でここまでの移動を一人で考えるのは可能なのだろうか?
グーグル先生いわく電車を二、三乗り換えないといけない。
店長は悪いヤツがいると言っていた。
ということは誰かが置き去りにした?
そして迷子になった?
だからうちに来た?
なんか無性に心配になってきた。
今は元気にやっているのだろうか。
心配はいらないだろうがやっぱり心配になる。
独りよがりで考えてもしかたないだろう。
ともかくこの『太陽と子どもの家』に行くべきだろう。
まだ朝の七時過ぎである。
早く帰りたい。
電車は準急に乗ることにした。
特急や急行だと早く着きすぎるかもしれないのでゆっくり目に。
あわよくば寝てやろう作戦だ。
ラッシュ前であるか余裕をもって座席を確保した。
高校生の時はほとんど座ることは出来なかった。
座れないヤツはざまあみろだな!
少しばかり時間があるのでここで少しだけ状況整理をしたいと思う。
僕はカバンから仕事で使う手のひらサイズのメモ帳を取り出す。
これからの目的は施設長の神原さんに会う事。
詳しいことは全く聞かされておらず行けば何とかなるという事。
満月を苦しめる何かに関係しているのであろうか。
次に料理長に言われた満月をどうしたいのか。
僕がどうしたいのか。
でも僕が正直になにをしたいかよくわからない。
大したことはなく僕は多少満月のことを知っているだけである。
あるのは違和感、普通と全く違う違和感。
ここで答えが出せるわけではないが僕が願っているのは普通であること。
だろうか。
満月の意志をくみ取り協力してやること。
だろうか。
僕には何が出来るのだろうか。
その違和感の一つは子どもらしくないこと。
子どもってさ。
無邪気でうるさくてよく泣いてよく騒いでよく暴れてよく怒っているイメージだ。
満月にはそれらがまるで無い。
そうあってほしい。




