決戦は月曜日(仮) その2
「あらエータ。いたの」
「ラムさん。おはようございます、いました」
店長は自分のもといたPCの置く席にもどる。
そしてタバコを吸い始める。
「わりぃな。ラムさんも」
「いいわ。たまにはこういうのも悪くない。修学旅行みたいね!あ、エータ。満月は今日も元気よ、喘息持ちだったのね、コさんは慌ててたわ」
ラムさんは可笑しそうにそういう。
「そうだ!忘れてました!薬とか大丈夫なんですかね?」
「うん。血相変えて電話くれたけど心配はいらないわ。知ってるなら教えてくれても良かったのに」
「そうっすね~。すみません」
やらかした。
知っていたのなら教えておいたほうがよかったのだ。
余計な心配をさせてしまった。
「そうな顔しないでよ!」
ラムさんは見た目に寄らず本当にやさしい人だ。
「ありがとうございます」
「よっしゃ、ねみぃからさっさと終わらせるか」
店長が僕とラムさんにこっちへ来いと手招きをする。
「簡単に言うぜ。栄太郎に『太陽と子どもの家』に行ってきてほしい」
僕は首をかしげる。
「そうだろうな。児童養護施設だ」
そうだった。
「あっ」
元々からそういう次元の世界の話だった。
最近ちょっと色々ありすぎて少し浮かれたりもして、
くだらない日常にもどったりして、
満月本来の悩めるものから遠ざかっていたような気がしていた。
紛れもない事実と過去はゆるがない。
「そう、だったですね」
「なんだ?しってたんだ?」
「僕も直接聞いたり、オノヨココさんと一緒に聞いたりして」
「どんな?」
「捨て子であったり、今は養子縁組を組んでそこで暮らしていたり」
「ふーん。なるほどな。こまけぇことは後に回そう。神原さんって人に会ってきてほしい。そこの施設長だそうだ」
「はぁ」
「行けば何とかなるハズだ。気張って来い」
「え~~!何を根拠に」
またデジャヴだ。
「頼りにしてっからよ!」
いつもこうだ!そしてまたこうなる。
変な役ばかり僕に回ってくる。厄介ごと祭りだ。
「私も詳しくは知らないんだけど困ったなら助けるからね」
「おう、接客中以外なら電話出るからよ」
「は、はい」
店長はとても汚い字とミミズだらけの地図を僕に渡す。
「なんスかこれ」
「地図だよ。見てわかんね?」
「わかんねっす」
「私もわからない」
「あくまで参考にしますので後はグーグル先生に頼ります」
「すごい!最近の若者って感じ~!」
「ふつうっす」
「我が『とりどらごん』を次期担う有望なバイトリーダーだからな。なんでも出来ちゃうんだよな!これからも頼むぜ~」
店長が立ち上がり僕の肩に手を回す。
グーで僕の頬をグリグリこね繰り回す。
「よっしゃ~俺は寝よっと!」
呆れた。色々他人任せすぎる。
「あ!」と店長が大声を出す。
僕とラムさんはすごくビックリする。
「作戦名を……」
「ッ!」ラムさんの目がカッ!という感じで見ひらく。
かなりのキメ顔である。
この人は特に何もしていない。
「エータちゃん、天下無双の満月ちゃんを―――」
「決戦は月曜日(仮)だな!」
意外とまともだった。
ラムさんは少しだけ気持ちを落としている。
「ドリカムっすか?」
「あ~なるほど今気づいたわ。店長ドリカム好きなの?」
「マジリスペクトだよ!心が震えるんだよ!神だよ!神!」
店長の人格が変わった。
熱狂的過ぎてちょっとこわい。
「ていうかなんで(仮)なんですか?」
「あ~今日って月曜日だっけ?」
「はい」
「そっか。ドリカム好きすぎて恐れ多いので(仮)なんだよ」
月曜日関係ないのかい!
心の中ではシバきたいほど大げさにツッコむ。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫って手のひらに三回なぞるんだ。そしたらダイジョウブ」
「なんスかそれ」
「歌詞にあるんだよ。何かあったらそうしろ。あ、そんで飲み込む」
店長は簡単なジェスチャーをする。
おまじないは信じないほうである。
「ともかく行けば必ず何とかなるハズだ。気張って来い」
またそれですか。
「何があってもちゃんと向き合え。逃げずに立ち向かえ」
店長は何故か大げさに、こと大きくとらえるような言い方をする。
「その、何故そんな言い方をするんですか?」
「行けば何とかなる。なるなる!」
こいつ……。
「なんか不安です」
店長は僕の頭を右手でガシッと掴む。
「信じてっからよ!それは心配すんな」
タバコを歯でしがんでそういう。
煙が目に入ったのか、急にうなだれる。
「エータちゃんファイト!」
ラムさんはうざいくらいキャピキャピしている。
「よーし、今度はマジで寝よ。ドリカム聞こ」
「私も」
「ラムさんはもう帰っていいよ」
「いやん。今日はコちゃんと会うの~」
「それじゃあ行ってきます」
「いってら」
店長はうつぶせのままそういう。
ラムさんは親指だけ立てる。
こいつら……。




