居酒屋はつらいよ
気が付けばもう朝が来ていた。
こういうぶっ通しの仕事だと疲れも溜まる一方で家に帰ればばたんきゅー
というやつだ。
汚い一人用のソファーで死んでいる様に眠っていたみたい。
割とよくあるし意外とそれが気持ちいい。
あっ!朝や!寝とった!
ってなるのが気持ちいいのだ。
昨日の夜に見た映画は五分くらいしか見ていない。
電気もテレビもつきっぱなし。電気代がもったいない。
今日も早めの出勤。昨日と同じくらい忙しくなるだろう。
出勤時間までダラダラ過ごし今日も『とりどらごん』へ向かう。
お店につくと店長もいてすでに準備をしていた。
僕の後にお店に入ってきたのはレアキャラの今井君。
「おはようございます」
静かに自動ドアをあけて入ってくる。
僕も挨拶をする。
彼は大学生なのだか髪も長く、とても根暗な人。
半年前から働いているのだかそんなに会うこともない。
故にレアキャラ。担当は洗い場と調理補助みたいな感じ。表には出ない。
店長は昨日の電話の話とか何もなかったかのように普通に接する。
後に料理長とラムさん。今日は店長がキッチンに入る。
「いらっしゃいませ!」
今日も活気のある『とりどらごん』がオープンする。
あっという間に僕の勤務時間は終了。
もうクタクタだ。
「おれが賄いつくってやるよ!」
勝手に店長が僕の賄いを作ってくれるそうだ。
店長が作る賄いは決まって親子丼か焼き鳥定食のどちらか。
それが得意みたいで自慢げにたまに作ってくれる。
今回は親子丼だった。
まずいわけではないんだけど二日連チャンで親子丼の日は気が滅入った。
「いただきまーす」
丁寧に手を合わせて食べる。隣に店長が座る。
「電話のことだけどよ」
「あ、はい」
「わりぃけど明日六時に店に来てくんねぇかな?朝の」
「朝の~!?」
「すまん。片づけ終わって俺寝てるから起こしてくれ」
「え~」
僕は分かりやすく嫌な顔をする。
本気で嫌だ。
「満月の大切なことなんだよ。後でラムさんに話合わせとくからよ」
「ラムさんもくるんですか?」
「ちげぇよ。満月はそっちにいるんだろ?心配だろ?」
「まぁ、そうですけど」
「ほんじゃあ明日ヨロシクな」
店長は僕の肩を叩いて親指でグッと抑え込む。
痛い。
そして僕の異議申し立てを聞くことなく華麗に厨房へ去っていった。
怒涛の休日で忙しい週末はもう終わる。
ホント飲食業界は休む暇がなく忙しい。
「お酒まだっすか~」
「料理来てないんですけど」
「それ頼んでないし!」
「女の子おらんのか~!」
お客さんは無慈悲でお構いなし。
更に今日は今井君がビールの樽交換でヘマをしてドリンク場が大変なことに。
今井君の制服はビールまみれ。ガスの漏れる爆音。
早く慣れてほしい。
トイレにはリバースの跡。
掃除は全部僕!
僕の勤務終了三十分前に急に流れ込んできた十五人くらいの大学生連中。
遊んでる暇あるなら勉強しやがれと思う。
今日も賄いがうまい。料理長には勝てないけど。
明日は休めるみたいだ。うれしいんだけど何か落ち着かない。
そういえば満月は元気にしているんだろうか。
まだ会って数日とはいえ今は誰よりもあの子を知っていると思う。
元気にやっているとうれしいのだが。
そういう意味でラムさんなのか?
一人で考えていても仕方ないので今日も帰ることにした。




