悪いヤツがいる
満月が楽しそうで何より。それが一番うれしい。
自然に笑っていて自然と会話をしている。
僕も元気が出た。
料理長に賄いのお礼を言ってラムさんにスマホを返す。
「元気そうだった?」
「とても元気そうでした!」
「それはよかった。少しは力になれたかしら?」
「なってます!」
「アナタも元気そうね。ふふ」
「お陰様ですよ!」
電話の途中で途切れていた賄いを食べきる。
「気を付けて帰りなよ~」
帰る準備をしていると。
「エータちゃん元気そうね?彼女でもできたの?」
話を割って拓馬さんが入ってきた。
「そんなんじゃないっすよ」
「お前のそんな顔久しぶりに見たな?いや、初めて……?」
何故か拓馬さんはホラー映画を見ているかのような表情をしている。
「お前ははよ仕込みしろタマネギスライス全然終わってないやんけ」
「ういっす~」
これはデジャヴだ。間違いない。
改め料理長にお礼を言って僕は帰ることにした。
一つ思い出す。あの人たち絶対僕をコケにしてるよね。
帰り道の電車の中、それを思い出し恥ずかしさで胸がいっぱいになった。
さあ、わが家へ。
飯も食ったし満月のこともひとまず大丈夫だし。
後は風呂入って寝るだけだろう。
今日は少し気分もいいし、気楽に映画でも借りに行こうかなと思っていた。
RRRR
スマホに着信が来る。
僕のスマホが音を出すときはテキトーなゲームの通知音と
仕事場からの連絡くらいしかない。
店長からの着信だ。
「もしもし」
「よぉ元気か?」
「店長お疲れ様です」
「おうおう。今日は仕事の話じゃねぇんだ」
「満月ですか?」
「おう、頭良いな。今どこにいる?」
「えーっと。ラムさんの知り合いの所にいます」
「ほー誰だよ?」
「オノヨココさんって人なんですけど」
「あ~多分知ってるわ!有名人っしょ!」
「そうなんすか」
「あ~でもちょうどいいタイミングだ。お前の所に満月はいないってことだな?」
「そうなりますね」
「お前に行ってほしい所があるんだよ」
「いつですか?どこに?」
「明日」
「明日ぁ?明日も出勤ですよ」
「んじゃ明後日」
「明後日もです」
「明後日は休め。病欠にしといてやるからよ」
「ん~なんか複雑です。買い物行けばいいんですか?」
「アホめ!満月が前に住んでいた所が分かった。そこに行ってきてくれ」
前に住んでいた所?
「何をやればいいんですか」
「単純にいえば情報収集。一つ裏を掴んだんだ」
「……裏?」
「あいつらは何かを隠しているようだ。満月が逃げてきた関連と繋がるはずだ」
「え?どういう」
急に何を言い出すのか。さっぱりわからない。
「要は簡単に言うと悪いヤツがいるってことだ」
「意味が」
話が見えない。唐突過ぎるし、裏ってなんだよって話。
「わからないです。どういう事でそうなるんですか?」
「ある知り合いがいるんだよ。それだけだ。でも明日は店が忙しいから忘れてくれ。詳しいことは明後日に行くときに話す」
「はぁ」
「んじゃな。明日もヨロシク」
店長はそういってすぐに電話を切った。
腑に落ちない。元々店長が自信が蒔いた種だろう。
元々面倒になることは嫌いなのに自ら面倒を持っていくという所か。
災難去ってまた災難。
いや、災難はまだ一つも去ってないんだけど。
折角いい気分でいたのに台無しである。
あまりにもあの人は無慈悲である。
ドギマギするのでやっぱりDVDを借りることにした。
気分がよくなるピ〇サー映画でも借りようと思う。




