なんかわかんねぇけど頑張ろうな!
コさんは満月を連れてお店を出て行った。
「本当に満月を預けても大丈夫なんですかね?」
「それは心配いらないわ。私はあの人を良く知っているし、あの人にも大切な物があるの。絶対に変なことはしないわ、だから安心して」
もうすぐピークタイムを迎える。
お店も忙しくなってきたので全員が各持ち場につく。
夕方くらいには拓馬さんも到着してお店も集中モード。
店長がいないので僕がたまにキッチンをサポートする。
と言っても簡単な料理のお手伝いなのだが。
拓馬さんがメインで焼き鳥を焼いて料理長がそれのサポート。
後の一品物や鳥の刺身など全般を料理長がこなす。
ドリンクはラムさんと優羽がすべてこなす。
僕はフロアを見て接客したりキッチンに入って手伝っての繰り返し。
次第にお店も落ち着いてきた。
忙しい時は時間が早く過ぎるものだ。
これはうれしい。もう十時前だ。やっと帰れる。
だが落ち着いたのもつかの間、やはり満月のことが気になる。
それをラムさんに伝えると帰る時にコさんに電話をしてくれるそうだ。
十時を過ぎた。
僕は着替えを済ませラムさんの接客など仕事が終わるのをまっている。
そうしているとキッチンのカウンター越しに料理長が話しかけてきた。
「お前のやりたいこと。ハッキリしとかんと後でえらい目にあうぞ。そうでないとあの子の為にもならん。お前なりのできることを考えるんだ」
「はい、わかりました」
「わかったならそれでええ。ごくろうさん今日の賄いや」
そう言って料理長は一本前歯のない笑顔で賄いを渡してくれた。
今日の賄いは鳥刺しささみ丼だ。
やったー!月に一回あるかないかレア賄いである。
「うおー!あざっます!」
「うわ~ええなーエータちゃんうらやましー」
「お前ははよ仕込みしろネギ全然終わってないやんけ」
「ういっす~」
拓馬さんはグーで料理長に小突かれた。
僕は店の端っこのカウンター席に座り賄いを頂く。
優羽は少し前に帰宅している。
明日弓道の大会があるみたいだ。
そんな日にわざわざご出勤ありがとうございます。
「エータ。電話つながったわよ~」
ささみ丼を貪っていた僕にラムさんがスマホを渡す。
「はい、変わりました」
「お、ジャスティスエータお元気かしら」
この声は間違いなくコさんだ。
「さっきぶりです。全然元気です。ところで満月のことなんですけど」
「全然元気よ~今日はね沢山デートしたの~お洋服も買ってあげたりとても楽しかったわ」
「あ、ありがとうございます」
「私これからお仕事なの。でも安心して私たちファミリーが責任をもって満月ちゃんを守るわ~警察が来てもグーパンよ!」
「頼りになります」
何故だろう、ビビってるというかすごい気迫に圧倒されている。
「今日はしっかり預かるわ。店長さんにもヨロシク伝えてね」
「助かります、それと満月に代わってもらえませんか?」
「いいわ。少し待っててね」
電話の奥はすごく騒がしい、オカマばっかりなのか。
結構うるさい。
「はい」
「満月?」
「ジャスティスエータさん?」
「そう呼ぶの!」
電話越しで奥から大爆笑が聞こえた。
「普通にエータでいいから、お願いだからジャスティスエータはやめて」
「フフ」
満月も笑っていた。楽しそうで何よりだ。
ぶっちゃけこれで十分だ。
「皆ね、皆ファミリーっていうんです。この人たち。目も笑っている」
「そっか。楽しそうで何より!ほんとなにより!」
「泣くのを辞めて今度は笑おうって言ってくれたのはジャスティスエータさんでした」
「くっせ~~!!」
「中二病だわ!さすがジャスティスエータね!」
ギャハハハ!と笑い声と野太いおっさん共の意地悪が確実に聞こえた。
「フフフ」
「シバく……」
僕は顔を真っ赤にした。
「え?」
「いや、なんでもない!なんかわかんねぇけど頑張ろうな!」
「はい!オノヨココさんに変わりますね!」
「どう?元気そうでしょ?」
「いらん事吹き込んでますよね……」
「いや~ん!ウチではアナタ大人気よ!今度遊びにおいで」
「まだ未成年です」
「あらヤダ。お酒呑めないね~でもいつでも遊びにきていいわよ~」
「考えときます。ともかく!満月を頼みます!」
「頼まれたわ。もう坊ちゃんはおネンネする時間でしょ?早くお布団入りなさい」
「はい!失礼します!」
「はぁい」
坊ちゃん……。




