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第19話 波動温室の植物園 4/4

「宇沢君っ!大丈夫か?」

「……ああ」

 時島が倒れた宇沢に駆け寄り、助け起こす。幸い骨折はしていないようだが脚を傷めたらしく、一人では立ち上がれない様子だ。

「ちくしょう!」

 ヤケを起こした高見が、宇沢が落とした波動放出機を掴んで上空に連射し始める。放出された波動が通信機と干渉し、周囲に激しい雑音が鳴り響く。

「これでも喰らえぇ!」

「止めろ高見、早まるな!」


 雑音はマイクを通してコントロール室内にも響き渡っていた。

「あの馬鹿、完全に冷静さを失っているな……」

「あーもう、これじゃ全然様子が分からないよ」

 波動の放出を止めるべく、袋田がコンソールに手を伸ばす。


 その間にも、放出機の開口部からは波動エネルギーが放射され続けていた。波動エネルギーは無色透明だが、通過時に周囲の空間を僅かに歪ませるため辰真達の肉眼でも放出の様子は確認できる。

 しかし突然、波動に薄っすらと白い色が混じり出す。同時に空間の歪みは強くなり、今まで波動の放射を受けても全く動じなかったシレフレータも、何らかの影響を受けたかのように左右に揺れ始める。

「え?これって……」

 だが、間もなく波動の放出は止まり、辺りに轟いていた雑音もようやく鳴りを潜めた。


「まだまだ……って、あれ?」

「いいから早く戻ってこい高見!」

 正気に返った高見が撤収したところで通信も回復する。

『ふう、やっと静かになったよ。みんな大丈夫?』

「ああ、平気だ……悪い」

 一同の間に多少安堵した空気が流れる中、何かを考え込んでいた月美が、突然袋田に問いかける。

「それより袋田さん、今そちらで装置を動かしました?」

『そりゃ、ダイヤルを回して波動を止めたけど』

「いえ、もうちょっと前です」

『え?いやまあ、波動を止めようとしたら別のダイヤルを間違えて回しちゃったけど、その事?鋭いなあ』

「やっぱり。ちなみにそれは何のダイヤルですか?」

『波長を調節するダイヤルだね。でもそれが何か?』

「あの、ちょっと思いついた事があるんですけど」


『ええっ、アベラントエリアは波動エネルギーで作られてるかもしれないだって!?』

『はい。だって、波動もアベラントエリアも、空間に干渉する性質を持っています。何らかの関係があってもおかしくありません』

「……確かにあり得るかもしれない」

 今までの事件を思い返していた辰真も同意する。確かにアベラントエリア内では、空間に影響を与える怪奇現象や怪獣がよく出現している気がする。言われるまで気にしたことは無かったが。

『でもアベラントエリアと波動が同質なら、互いに干渉し合うはずだ。そうじゃないからこそエリア内でラジオニクス通信が可能なわけだし』

『つまりそこは、波長の違いで説明できるというわけか。待てよ、これは凄い仮説かもしれないぞ』

 城崎教授の声は、通信越しにもはっきり分かるくらい興奮している。


『よし袋田君、波動レーダーの波長を最大にしてくれ。今こそ君の巨大ラジオニクスが真価を発揮する時だ!』

『了解。じゃあこれから波長ダイヤルを最大まで回すから、放出器をエリアの中心、つまりシレフレータに向けてくれ。うまくいけばそれでアベラントエリアを消す事ができるかもしれない」

「よっし、それが分かれば話は早い!」

 放出機を手にしたままの高見が両腕をブンブン振り回す。

「さっきは迷惑をかけたな。俺がもう一回奴の真下まで行くから、お前達には援護を頼む。蔦を妨害してくれ」

「高見……分かった。気をつけて行ってこい!」

 時島が同意し、後方で木に寄りかかっている宇沢も無言で頷く。勿論学生達も異論はない。


「うらぁ!行くぞっ!」

 波動放出機を抱えた高見が単身敵陣に突っ込んで行く。それを目がけて、10本以上の黒い触手が上空から襲いかかる。

「今だ、一斉に撃て!」

 時島の合図で辰真、月美、宇沢の3人がスイコを一斉射撃。熱湯が何本ものアーチを描きながら蔦の群れを迎撃し、萎縮させる。遅れて降ってきた太い花柄は、時島がウモッカを命中させて吹き飛ばす。その隙に高見は、シレフレータの真下へと辿り着いていた。

「花野郎、これでも喰らえ!!」

 高見が再び放出機を上に向け、波動を放つ。波長が最大になった結果、白い霧状に変質した波動エネルギーがモンスターフラワーを包み込むように拡散して行く。

 数秒後、シレフレータは苦悶するかのように全身を大きく振り始め、周囲を覆っていたアベラントエリアも所々薄くなり、隙間から青空が見えだす。


『アベラントエリア崩壊の兆しあり。みんな急いで戻ってきて!』

 袋田の通信を受け、一行は装備を持って撤退を始める。

「皆さん撤収しますよー!」

「宇沢君、僕に掴まれ!森島君も手を貸してくれないか?」

「はい!」

「二人とも、すまない」

「おいちょっと待て、俺の事は誰も気にしないのかよ?ま、待ってくれ〜!」


 巨大振り子のように揺れ続けるシレフレータを背後に、紫タンポポの花畑を横目に、一行は縮小を始めたアベラントエリアを駆け抜ける。そして彼らが運動場に辿り着く頃にはエリアの完全な消滅がレーダー画面上で確認された。


 その後、クリッターのコントロール室内で作戦結果報告会が行われた。脚を負傷した宇沢は揺木総合病院に搬送され短期入院が決定したが、10日ほどで退院できるらしい。

「みんな今回もよくやってくれた。異次元植物のデータが沢山取れたよ。それに何より、アベラントエリアと波動エネルギーの関係について仮説が立てられたのは大きな成果だ。これから忙しくなるぞ、学生諸君!」

 城崎教授はまだ興奮が収まらない様子だ。しかしこの口ぶり、今までは忙しくない感覚だったのか?という疑念を持つ辰真の横で、月美は目を輝かせている。


「高見の行動も本来なら始末書ものだが、今回は先生の顔を立てて免除してやろう。シレフレータ撃退の手腕も見事だった」

 駒井司令も珍しく高見を褒める。

「いやー、そんな大した事じゃありませんよ。それに今回は隊長も活躍したじゃないっすか!」

(おい高見、余計なことを喋るんじゃ_)

「だって隊長が花の名前を知らなけりゃあんだけ早い対応はできなかったし。それにしても隊長、ガーデニングが趣味とか意外と家庭的な_あっ」

「…………高見お前、よっぽど始末書が書きたいようだな」

 こうして高見は報告書の他に2倍の始末書を提出する羽目になり、辰真達も波動エネルギーの研究として資料集めを課される事となった。夏休みはまだまだ長い。

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