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第19話 波動温室の植物園 3/4

〜逆天植物シレフレータ他登場〜


全長5m以上の巨大な影が彼らを見下ろしていた。その輪郭は一見すると羽を広げた蝙蝠型怪獣のように見えたが、空中に貼り付けられたかのようにその場を動かない。

 やがて辺りの光量が増えるにつれ、その全貌が明らかになる。翼のように見えたのは三枚の黒い花弁で、その中央からは円錐形をした蕾が何本も突き出ている。そして、地上近くで蠢く蔦も反対側の端は中央部に繋がっていた。一言で言うとそれは、空から生え地上に向けて花を咲かせたモンスターフラワーだった。


「な、何だこいつは!?」

 思わず立ち上がり、スイコを構える時島。銃口から周囲の蔦に向けて熱湯弾が発射されるが、細長い蔦にはまるで当たらない。それどころか蔦の一本が時島の方に伸び、巻き付こうとしてくる。

「うりゃあ!」

 同じく立ち上がった高見が転がっていたウモッカを担ぎ、蔦に向けてぶっ放す。轟音と共に水塊が撃ち出され、高見は反動で後ろに数歩分ずり下がる。アクアランチャーの直撃を受けた蔦は流石に縮み上がり上空へ戻っていくが、大ダメージを与えたようには見えない。


「時島、高見!一体何事だ?」

「あ、あれ……」

 騒ぎを聞きつけ駆け込んできた宇沢と学生達も、巨大植物の姿を目の当たりにして愕然とする。

「おいお前ら、こっちに近付くんじゃねえぞ!」

『こちら本部!どうしたの、何かいた?』

「ああ、君の分析は間違っていなかった。ただ高度を読み違えていただけだ」


 巨大植物の縄張りから逃れようとする2人に加勢するため、スイコを持つ宇沢と辰真が一歩前に出る。

「スイコのトリガーを長押しすると、途切れることなく熱湯弾を撃つことができる。うまく使えば幅広い範囲に着弾させることも可能だ。しかし、一度使うと弾切れになってしまうので充填が必要になる。その時はこれを使う」

 そう言って宇沢は、背負っていた大型水筒のようなタンクを地面に下ろす。

「これはスイコ用の給湯タンクだ。上部にスイコを設置する事で自動的に熱湯が充填される。先ほど何発か撃っているし、事前に補給しておくといい」

「はい!」

 宇沢のアドバイスに従い熱湯をフルチャージした後、辰真は宇沢の横に立ち、彼に倣ってスイコを横向きに動かしながらトリガーを引く。ウェーブ模様を描きながら発射された熱湯弾が直撃したため、周囲の蔦が一斉に縮み上がって行く。この援護射撃の隙に、高見達は巨大植物の攻撃範囲からどうにか抜け出した。だが、モンスターフラワーは威嚇するようにこちらに花と蔦を向けており、対決は避けられそうにない。


 一方クリッター内の対策本部では、隊員達から情報を入手した袋田達が怪植物の正体を検討していた。

「細長い蔦を大量に伸ばす黒い花か……先生、何か心当たりはあります?」

「済まないがすぐには思いつかない。でもひょっとすると……」

「……」

 袋田と教授の視線が駒井司令に集まる。

「……その視線は何ですかな?」

「いえ、司令は観葉植物に詳しいようなので、もしかしたら近縁種を知ってるかもと思いまして」

「はあ、あまり管轄外の事に期待しないでいただきたい。……しかしまあ、今の特徴を持つ花ならタッカ・シャントリエリ、通称ブラック・キャットで間違いないでしょうな」

「凄いですね隊長!そんなに植物に詳しいなんて!」

「待て袋田_」


「いや、そりゃ詳しいでしょう」

 会話に乱入してきたのは、外部の警備状況を本部に報告に来ていた味原警部補だった。

「だって駒井司令の密かな趣味はガーデニングと家庭菜園ですよ?こないだも野菜をおすそ分けしてもらったんですが、これがまた美味くて_」

「警部補っ!」

「へ?」

「……それは今必要な情報なんですかな?」

「いや、つい癖で……すみません」

 珍しく怒気を露わにした駒井司令に、警部補もたじたじとなる。

「と、とにかく袋田君、ブラックキャットでデータベースを検索しよう!」

「そうですね教授!あー忙しい忙しい」


 一方現場の隊員達は、迫りくる蔦に向けて範囲外からしばらく応戦していたが、やはり水弾が当たっても効果は一時的に蔦を縮ませるに止まり、根本的なダメージには繋がっていない様子だ。

「この装備じゃ奴には勝てそうにない。どうする高見?」

「くそ、一旦戻って火炎放射器か何かを持って来るしかねえか」

「ああ、そうだな_」

『それは駄目だ!』

 今度は駒井司令が現場の会話に割り込む。

『ここに火炎放射の装備は無い。仮にあったとしても、消防隊としてそのような装備の使用は断じて許可しないっ!』

「司令……消防隊の矜持、忘れる所でした!」

「森島くん、消防隊も色々あるんですね」

「まあ、言われてみれば当然のような気もするが」

(なあ、隊長怒ってないか?やっぱさっきの家庭菜園の件が……)

(静かにしろ。さっきの会話は聞こえなかったふりをするんだ)


 その間にも本部の教授達は異次元植物の検索を続け、とうとう正体を突き止めることに成功した。

「これだ!逆天植物シレフレータ。空間を歪ませて上空から地上に向けて花を咲かせ、ブラックキャットによく似た長い花柄を垂らして獲物を捕らえ養分を吸収する。特性的にも間違いないですよ」

「ああ、こいつがあのアベラントエリアを作り出したんだろう」

『でかしたぞ袋田!それで、そのシレ何とかの弱点は何なんだ?』

「うん、火炎放射器」

『だ・か・ら、火炎放射器はNGなんだよ袋田君!他に何か無いのかっ?」

「そうだね、周囲の空間の歪みを正常に戻せれば逆立ち姿勢を維持できなくなるらしいけど、具体的な方法までは書いてないね」

『空間の歪みを正すって、要するにアベラントエリアを消すってことだろ?それができれば苦労しねえよ』

「うーん、巨大植物対策と言えば、炭酸ガス固定剤は使えるんでしたっけ先生?」

「いや、残念ながらあれはまだ実験段階だ。試作品を取り寄せるにしても時間がかかりすぎる」


 一方現場の隊員達は、蔦の攻勢にやや押され気味だった。辰真も隊員たちに混じって前線でスイコを連射していたが、やがて弾切れになり給水のために下がってくる。

「森島くん、大丈夫ですか?」

「ああ。でも戦況は良くないな。気付いてるか?さっきからあいつの攻撃範囲が少しずつ広がってる」

「はい……」

『アベラントエリアも拡大を続けてるみたいだし、植物だから成長が早いのかも。どうにか食い止めないと……』

 事実、シレフレータの花柄は数分毎に攻撃距離を伸ばし、隊員達は後退を余儀なくされていた。そんな中でも果敢に最前線に踏み込み、花の中枢に向けてウモッカを乱射していた高見に、一本の蔦が迫ってくる。

「おっと、捕まるかよ!」

 背後に大きく跳んで黒の触手から逃れる高見だったが、担いでいたウモッカが跳ね上がった瞬間、忍び寄っていた別の蔦が大砲に素早く巻き付き奪い去る。


「!?」

 ウモッカは見る見るうちに空中高くへと持ち上げられていく。なお悪いことに、巻き付かれた衝撃でホースがウモッカ本体から外れ、地面に落下してしまう。

「しまった、メインウエポンが!」

 呆然と立ち尽くす高見の方角に、一人の男が猛然と駆け寄ってくる。短距離陸上選手のような綺麗なフォームで近付いてきたのは宇沢だった。彼はそのまま上方に高く跳び、空中のウモッカにギリギリで飛びつく。

「いいぞ宇沢!」

 尚も上昇を続けるウモッカにしがみついた状態で、宇沢は激しく体を揺らし蔦に抵抗する。やがて体重を支えきれなくなったのか、花柄はウモッカを解放。宇沢はすかさずウモッカを担いで落下、見事地上に帰還を果たす。だが地上数mからの落下に脚が耐えられず、着地と共に地面に倒れ込む。

「宇沢!」


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