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第18話 南島の雷 3/4

〜南国雷虫コピアヌィラ登場〜


「さあ、行きましょう!」

 月美が先頭に立って工場内に踏み込む。

 入った途端、埃と共に熱い空気が4人を迎えた。入り口のすぐ先にはもう一枚扉があり、奥の作業場に続いている。玄関口だけ吹き抜けになっているらしく、扉の真上には二階の手摺も見えた。そして右側からは二階に続く木製の朽ちかけた階段が伸びている。どうやらここは元々二階建てだったのではなく、大きめの倉庫の上の方に床板を付けて階を増設したらしい。


 辰真が周囲を見回していると、横にいたメリアが突然体をビクッと震わせる。

「メリア、どうした?」

「ドアの向こう、とても強いマナを感じます」

「やっぱりこの奥にプラズマを生み出してる異次元生物がいるんですね。早速行ってみましょう!」

「ちょっと待て稲川、さっきの攻撃を忘れたのか?車も動かなくなる電撃をまともに食らったらどうするんだよ」

「心配ありません。あのプラズマの動き、とてもゆっくりでした。さっきは至近距離だったからぶつかっちゃいましたけど、気をつけてれば充分避けられます。では出発です!」

 そう言うと月美は扉を開けて突入していく。毎度ながら、この手のことに関しては頭の回転が妙に早い。仕方なく辰真も後を追って中に入る。


 扉の内側には作業台が何列も並び、部品や工具らしき物があちこちに放置されていた。窓からの僅かな光を頼りに、月美と辰真は台の間の細い通路を進む。

「稲川、気を付けろよ」

「心配しすぎですよ森島くん。マナの力を持った子たちとはいつも分かりあえてきたじゃないですか。きっと今回も_」

 月美の言葉は、作業場の奥から響いてきたバチバチという音に遮られた。彼らは反射的に身構えるが、音はすぐに消え去り周囲に静寂が戻る。

 ……いや違う。経験から来る直感に従い、2人はその場から急いで後退する。その直感はすぐに当たった。数秒前まで彼らが立っていた場所に、何か巨大な物体が落下してきたのだ。


 予想通りだ。2人はそのまま距離を取りながら、落ちてきた何かを視認しようとする。しかし残念ながら、その物体を見た時点で足の方の動きは止まってしまった。

 全長は3m以上、黄色地に黒い斑模様という毒々しい体色。節に沿って歪に折れ曲がった脚、恐竜の頭骨のような大鋏。湾曲した尾節は二股に分かれ、牙のように尖った先端の鉤針が此方に狙いを定めている。簡潔に言うと、それは蠍の怪物だった。


(こりゃまずいな)

 辰真は足を動かそうとしながら思考する。巨大な蠍が出てきたというだけで単純に脅威ではあるが、更にまずいのはこの場に月美がいる事だ。彼女の虫嫌いは以前に嫌というほど思い知っている。

 巨大な虫といっても蚕くらいなら耐えられるようだが、蠍は許容範囲を超えてるんじゃないだろうか。恐る恐る隣に視線を移すと、月美が膝から崩れ落ちる所だった。辰真はようやく動き始めた足を月美の方に向ける。


「稲川、動けるか?」

 顔面蒼白な月美は返事をする余裕もないらしく、頭を左右に振るだけだ。この調子では自力で逃げ出せそうもない。仕方なく辰真は月美に肩を貸し立ち上がらせようとする。だが、巨大蠍はそんな悠長な動きを見逃してくれるほど寛大ではなかった。2本の鉤針の狭間に、火花を散らすプラズマ球が一瞬の内に出現。蠍が尾を揺らし、光球は2人のいる方向へと飛ばされる。辰真は月美を庇うように横歩きで後ろに下がろうとするが、光の球はみるみる距離を縮め、数秒後には彼らに衝突する位置にまで迫ってきていた。だが辰真が観念する直前、何かが彼らと光球の間に割り込む。


「パレカウア!」

「メリア?」

 ひらりと着地したメリアは、プラズマ球に向かって片手を伸ばす。その指先に触れる直前、光球は何かに跳ね返されたように軌道を変え、天井の方へと飛ばされていった。

 それを見た巨大蠍は、旗色が悪いと思ったのか部屋の奥へと撤退していく。

「た、助かったよメリア」

「さあ、早くあのコを捕まえるですヨ!」

「あ、ああ……稲川、無理するなよ」

 メリアは巨大蠍にまるで臆することなく追跡していく。それを見た辰真も月美を気遣いつつ後に続き、その場には月美だけが残された。

「……」

 月美はいかにも面白くないという様子で頬を膨らませ、全身に力を入れる。すると、先ほどまで金縛り状態だった体はあっさり動くようになった。月美はそのまま立ち上がると、無言で2人の後を追った。


 辰真とメリアは作業場の端にたどり着くが、巨大蠍の姿はどこにも見当たらない。だが上方をよく見ると、工場の壁を這い上る巨大な影が見えた。影は天井に空いた大穴の中に姿を消す。間もなく月美と、ビデオカメラを手にした絵理もそこに合流してくる。

「稲川、大丈夫なのか?」

「平気ですっ!それよりさっきの子は?」

「悪い、2階に逃げられた」

「そうですか。でも、森島くんが無事でよかったです」

 全員の無事を確認後、4人は情報整理のため工場の入り口に戻ることにした。

「みんなの証言をまとめると、停電の原因になってるプラズマを飛ばしてるのは大きな蠍ってことね。月美ちゃん、そういう異次元生物に心当たりはないの?」

「すみません、わたしの記憶だとちょっと思いつかないです……揺木のアベラント事件記録は全部読んでるはずなんですけど」

 心底残念そうな様子の月美。その場の雰囲気もつられて暗くなる中、メリアがおずおずと手を挙げた。

「あの、ワタシ、あのコのこと知ってますヨ」



「あのコの名前はコピアヌィラ。マナを持った生き物のひとつです」

「コピ……何だって?」

「コピアヌィラ。雷のサソリという意味です。外の海からやって来たソンザイで、雷を自在に操ると言い伝えられてます。でも最近は人間が電気を使い始めたから、怒って電気を取り上げてるって話ですヨ」

「雷を操る蠍……さっきの子の特徴と一致してます!」

「電気を取り上げるというのは、今みたいに停電状態にするってことかしら?だとすると、今の状況と一致するわね」

「マナの力を持ってるっていうが、さっきの電気玉もマナの力なのか?」

「アエ。あれはマナをハンテンさせたモノです。昔のカフナも、あのようにしてマナを呪術に使ってたらしいですネ。でもあれはウニヒピリのマナで、あまり強くないですから、ワタシのパレカウア(盾)でも防ぐことができました」

「えーとつまり、どういう事なの?」

「メリアならプラズマを防げるってことですよ!」

「それでメリア、この前みたいにあいつを大人しくさせることができるか?」

「コピアヌィラはキョウボウですから、すぐには静かにならないかもしれません。でも、あの黄色の服の人たちが来る前には逃がしてあげたいですネ」

「黄色の服の人?ああ、特災消防隊か」

 特災消防隊は紺に黄色いラインの防災服を着用している。

「あの人たちは別に危険な集団じゃありませんよ。ちゃんと話せば協力してくれます!」

 説得の結果、コピアヌィラ保護に特災消防隊の協力を仰ぐことにメリアも同意したが、彼らの到着前に一度二階へ様子を見に行こうという話になった。


 辰真が先頭に立って二階への階段を上る。

「ドア開けた瞬間に電撃、なんてのは勘弁だが」

「ダイジョウブです。タツマはワタシが守りますヨ」

 メリアが辰真の方に体を寄せてくる。悪い気はしないが足場が狭いのでもう少し離れてほしい。更にその反対側を月美がガンガン音を立てながら上っていくので、ただでさえボロい階段が不吉に揺れ始める。

「ほら、さっさと行きますよ」

「ちょ、稲川、もう少し静かに上ってくれ」

「知りませんっ!」

「……?」

「はぁ、若さっていいわね……」

 後ろの方で綾瀬川記者が何やら呟いていたが、気にする余裕はなかった。


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