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第16話 実録!異次元社会学教室 3/4

〜装星生物メンダス他登場〜 


 揺木大学に隣接し、一部の揺大生にとっては生命線でもある角見商店街。この見慣れた街の上空に、小惑星帯から迷い込んできたような歪な形の岩塊が浮かんでいた。商店街の外からでも視認できるほどの大きさだ。


「角見商店街に危機が迫っています。皆さん落ち着いて行動してください!」

「先生、ど、どうすればいいんですか?」

「まず君たちが落ち着くんだ。よく見てごらん、石は空中で浮遊している」

 言われてみれば、確かに隕石は落下することなく、その場で僅かに上下運動を繰り返しながら浮遊しているようだ。


「では、もっと近くで観察してみよう」

 城崎教授は学生達を連れ、隕石のちょうど真下にあたる場所に近付いていく。そこは商店街の外れ、ドラム缶などが転がっている寂れた空き地だった。


 先陣を切って空き地に入った先生は、隕石が垂直に降ってきた場合の落下予想地点を慎重に計測すると、そこを中心に半径数mの円を描いて立ち入り禁止にした。

「真下がこういう場所で良かった。民家なんかに落ちてきたら大変だからね」

 円の外縁に立って隕石を見上げながら先生が呟く。彼らの斜め上方10mほどの位置に岩が浮遊している。近付いて見てみると大きさはそれほどでもなく、せいぜい全長1m程度のようだが、それでも落ちてきたら大惨事になるのは間違いない。


「それで先生、あの石の正体は?」

 もはや恒例とも言える流れで綾瀬川記者が城崎教授にマイクを向け、教授も当然のように答える。

「あれは一見隕石のように見えますが、正体はメンダスと呼ばれる岩石状の生物です。あのように上空に浮遊する習性を持っているのですが……では、ここで問題です。メンダスは何故あのように浮遊してるんだと思う、森島君?」

「え、俺ですか?ええと、生き物なんだから餌を取るためじゃないですかきっと。獲物が下を横切ったら落下して仕留めるとか」

「鋭いね、半分は正解だ」

「へ?」

「メンダスの別名は装星生物、つまり星に擬態する生物だ。通常メンダスは夜間に現れ、夜空の星々の光を反射して同じ色に輝く。こうして文字通り星に成りすますと、近くを飛ぶ小鳥や寄って来た羽虫なんかを捕食するのが目撃されている。非常に興味深い生き物だね。あ、人的被害はまだ報告されてないよ」

「でも、どうして今回は昼間に現れたんでしょう?」

「分からないが、異次元から迷い込んだばかりなのかもしれない。まだ謎が多い生物だし、あそこに居座られると騒ぎの元になりそうだから、どうにか捕獲したい所だが……そうだ!君達ちょっと来てくれ」

 先生は突然閃いたように叫ぶと辰真と月美を呼び、何かを小声で指示した。2人はすぐに空き地から駆け出していく。

「先生、彼らはどこに行ったんですか?」

「研究室に秘密兵器を取りに行ったんです。なに、すぐに帰ってきますよ」

 先生の言葉どおり、学生達は間もなく空き地に戻ってきた。単に戻ったのではなく、銀色に輝く巨大な金属板のような物を2人で左右から持ち上げ、水平状態にして運搬してきたのである。


「お疲れ様、よく持ってきてくれた」

「いつも研究室の隅に立てかけてあったこれを使う時が来るとは思いませんでした!……何に使うのか分かりませんけど」

「そうですよ先生、この板は何に使うんですか?」

 周囲を代表して綾瀬川記者が質問する。

「その前に、メンダスについて説明します。あの生物は周囲に特殊な磁場を作り出す事で浮遊している。この磁場についてもまだまだ謎は多いですが、どうやら地磁気を利用して構築されたらしい事が分かっています。つまり、地磁気を乱してやればメンダスも浮遊していられなくなるわけです。そこで、こいつの出番です」

 先生は銀の板を指差しながら続ける。

「これはアンチマグネティックシート、略してAMシート。これを広げることで、周囲の磁気を無効化し、いわゆる「ゼロ磁場状態」を作り出すことが可能です。つまり、メンダスの真下でAMシートを広げてやれば、地磁気が乱れて落下してくるというわけです」

「そっか、落ちたところを電波遮蔽網とかで包んじゃえば無力化できますもんね!昔から「隕石には電波遮断」って相場が決まってますから」

「え、そうなのか?」

「その説明はまた今度にして、今はAMシートを使ってみよう。折角だから君達にも手伝ってもらおうかな」

 先生が研究生以外の学生達を見回しながら言うと、彼らの士気が一気に上がった。


「いいぞ。そのまま広げてくれ」

 辰真達が折り畳まれていたAMシートを展開していくと、シートは空き地のほとんどを覆い尽くすほどの大きさになった。

「よし。それじゃ諸君、準備はいいかな?せーの_」

 空き地を囲むように散開していた学生達が合図と共に一斉にシートに手を伸ばし、上に持ち上げた。特殊合金でできているシートは一切たわむことなく空中に垂直移動する。

「いいぞ、そのまま高度1m、地面に水平な状態を保ってくれ!そこ、もっと角度上げて!」

 先生が巻き尺片手に空き地を周回し、シートが理想状態を保持するよう調整していく。そして数分後、彼らの頭上で浮遊するメンダスの挙動が急にギクシャクとし始めた。目には見えないが、AMシートが効力を発揮し始めたらしい。装星生物は突然強くなった引力に抗って上昇するかのように激しく上下運動を繰り返し、やがて糸が切れたように地上へ落下を始めた。

「来るぞ。皆、力を入れてくれ!」


 メンダスは地上1mに固定されたAMシートの中心に衝突。板を通して学生達にも振動が伝わるが、彼らが衝撃に耐えたおかげでシートは傾くことなく水平を保ち続ける。

「よし。こっちに少しづつ傾けてくれ」

 シートの角で先生が叫ぶ。学生達が力を加減して板を傾けると、隕石は教授のいる方向へ転がっていき、角に設置されたドラム缶の中に落ち込んだ。すかさず辰真が缶にフタをし、月美が上からテープを貼る。ドラム缶の内側からメンダスがガンガン体当たりする音が聞こえてくるが、缶を破ることはできずメンダスは捕獲された。


「これで三連続でアベラント事件解決。流石ですね先生!」

 メンダスを入れたドラム缶が大学に搬送される中、綾瀬川記者が城崎教授に尊敬の眼差しを向ける。

「いえいえ、大した事じゃないですよ。今後もアベラント事件はどんどん増加していくことが予想されますからね。このように、異次元事件に迅速な対応ができるような知識を身に着けることができるのが異次元社会学なのです」

「そうです!わたし達も先生の授業のおかげで命を救われてますから!」

 さりげない講義アピールを忘れない教授たち。ややわざとらしい気がしないでもないが、実際学生達の教授を見る目は明らかに以前と違っていた。この分なら研究室のメンバーが増えて楽になるかもしれない、と辰真は密かに期待する。しかし、そんな彼らの楽観的空気をぶち壊しにするような事態が密かに進行していたのである。


 その第一報は、本日四度目となる電子音声と共にもたらされた。

「はい、城崎です……え、な、何ですって?体育館が!?」


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