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第16話 実録!異次元社会学教室 1/4

〜風船鯨バロナ他登場〜


(以下、揺木大学ホームページより引用)


 近年、超常現象や未確認生物が関係した怪奇事件の発生数が増加していますが、これらの怪奇事件(通称アベラント事件)の発生率は今後も上昇し、多くの社会問題を引き起こす事が予測されています。揺木大学ではアベラント事件の頻発地域であるという立地を生かして早くから研究に取り組み、将来のアベラント事件問題に対応できるような人材を養成するため、現在日本で唯一「異次元社会学」の講座を開講しています。


○現在、期間限定で異次元社会学の課外授業の様子を動画公開中!

 ※本動画は前学期に収録されたものです

 協力:揺木日報


(引用終わり)


 6月、揺木大学第一校舎。

「__このように、国内におけるアベラント事件の発生数は十五ヶ月連続で前月比プラスとなっており、それに伴い民間人からの目撃情報も増加を続けています。更にここ最近では、揺木以外の場所でも怪獣らしき生物の目撃報告が相次いでいます。

 現在日本政府はアベラント事件の存在を公に認めておらず、そのために民間人のアベラント事件認識率も依然として低いままですが、この状況が続けば政府も考えを改めざるを得ないでしょう。では次に、この前出現したダイガの資料を見てください_」


(おい、体育館の改修工事ってもう始まってたか?)

(明日からだけど今日の午後から準備するから使えないってさ)

「…………」

 揺木大学社会学部三年生の森島辰真は、「異次元社会学基礎」講義が行われている大教室の最前列で眠気と戦っていた。

 辰真が所属している研究室の専攻は異次元社会学であり、指導教授の城崎先生の講義は当然必須科目である。とはいえこちらは正にダイガを始めとするアベラント事件のおかげで書きかけのレポートを二本も抱え、おまけに睡眠不足まで併発している身。この授業で追加されるレポートの事を考えると、文字通り気が遠くなりそうだ。あと後ろの席の連中、頼むからもう少し小さい声で話してくれ。


「はあ……」

 ため息混じりに隣を見る。長机の反対側の端で熱心にノートを取っているのは、同じく城崎研究室所属の稲川月美である。ここ数日の負荷は辰真と同等のはずなのに、この気力はどこから出てくるのか。ちなみに月美は、辰真が居眠りした時にはノートを見せてくれない。なお悪いことに、今日は揺木日報記者の綾瀬川絵理が授業の取材に来ていて教室内を撮影してたりもする。仕方がない、もう少し頑張るか。辰真が気合を入れ直そうとしたその時、教室内に電子音声が鳴り響いた。

 この音声は聞いた事がある、先生が持っている市役所からの緊急連絡用携帯の着信音だ。つまり、この音楽はアベラント事件発生のお知らせとほぼ同義なのだ。先生はすぐに授業を中断すると、教室の隅で小声で応答を始める。


「まーたレポート、いや、事件か……」

「ひょっとして出動ですか?」

 最前列で月美達が様子を見守っていると、電話を終えた先生が二人を手招きする。駆け寄った二人に教授は小声で切り出した。

「参ったね、アベラント事件が発生したようだ。授業中だというのに」

「やっぱりそうですか」

「どうします?わたし達で先に行ってましょうか?」

「どうするかな、聞いた感じではせいぜいUQ3程度で脅威度は低そうだけど……そうだ!」

 先生は壇上に戻ると、後方に座っている約20名ほどの学生たち(ほとんどがモグリである)に呼びかけた。

「諸君!つい先ほど、アベラント事件の通報があった。これから授業を中断して事件の対処に向かうが、希望者には見学を許可しよう。これは課外授業扱いなので、参加者は今回のレポートを免除する。勿論モグリの諸君も着いてきていいよ」

 教室内にざわめきが走る。

「俺、参加したいです」

「私も!」

「課外授業なら撮影してもいいですよね?ね?」

 教室のあちこちで参加の声が上がり、数分後には授業出席者総出で課外授業に出発した。



 一行が向かったのは、揺木市南部繁華街外れにある揺木街道沿いの交差点である。交差点内は、突然の異次元生物大量発生により閉鎖状態にあった。クジラと風船を足して二で割ったような外見をした小型浮遊生物が十字路の中央スペース内に密集し、信号や標識を覆い隠して車の通行を妨害している。彼らが到着した時点で、街道側には巨大なトレーラーを始めとする車両の列が長々と形成されていた。

「今回事件現場となったのは、明道6丁目の交差点です。見てください、この大量の異次元生物の目的は何なのでしょうか?」

 ナレーション付きで現場の映像を撮っているのは、もちろん綾瀬川記者だ。

「先生、あれはどんな生物なのですか?」

「あれはバロナと呼ばれる異次元生物です。一見するとクジラの仲間にも見えますが、実は中身の殆どは特殊なガスで満たされていて、内臓は殆どありません。構造としては飛行船に近いですね。基本的には無害なのですが、ある時期だけ特定の物体に引き寄せられる習性があります。ほら、君達もバロナの群れの動きをよく見てごらん」


 先生の言葉を受けて、学生達が風船クジラの群れを凝視する。なるほど、狭い場所に密集しているので分かりにくかったが、よく見るとバロナ達の動きには一定の規則があるようだ。具体的には、群れは信号機の周りに集まっていて、一定の時間毎に隣の信号機に移動しているように見える。これが意味するのは……

「……ひょっとして、信号の色ですか?」

「あっ」

 月美の言ったとおりだった。バロナ達は青信号の周りに群がり、信号が赤に変わると今度は90度隣の信号機が青になるのでそちらに移動、を繰り返している。

「そう、その通りだ。バロナは青信号の、つまり緑色の光に引き寄せられる習性がある。バロナには発光能力がある事が確認されているんだが、どうやら繁殖期に異性にアピールするために使う色が緑のようなんだ。でも大丈夫、もう手は打ってある」

「流石ですね先生!」


「バロナの存在自体は15世紀頃から報告されていたが、緑色の光に集まる習性が初めて確認されたのは1920年代、アメリカのデトロイトにおいてだ。丁度アメリカで電気式信号機が導入され始めた頃だね」

 数分後、十字路の前で先生が課外講義をしていると、やがて上空から機械音が聞こえてきた。先生が呼んだ揺木市所有のレスキューヘリが到着したのだ。ヘリは上空から、交差点の中心に向けて何かを投下する。アスファルト上に落下したのは、野球場のナイター照明で使われるような大電球を横に並べた装置だった。すぐに電球は点灯し、濃い緑色の光を放ち始める。その明るさは周囲の信号機よりも数段強く、バロナ達が一斉にそこに集まってきた。


「あれはバロナ対策のためにアメリカで考案された特殊照明さ。念のために市役所に取り寄せておいたんだけど、こんなに早く役に立つとはね」

 先生が話している間にもバロナは続々と集まっていき、遂に全ての個体が照明に群がった所でヘリが真上から再び何かを投下した。それは落下しながら空中で広がり、バロナの群れに覆いかぶさる。

「あのように、集まったバロナを猛獣捕獲用ネットで捕らえる。アメリカでは既に確立された手法だよ」

 バロナを文字通り一網打尽にしたヘリが高度を上げ始める。

「さて、あの子たちを異中研に引き渡すまでの間、どこかに収容しておく必要がある。大学の中で空いてる場所は無かったかな?」

 それについては、辰真に心当たりがあった。

「今体育館が改修工事の準備で閉鎖されてるらしいので、少しの間なら使えると思いますよ」

「なるほど。では体育館に運んでもらうとしよう」

 こうして、あっさりとバロナ騒動は解決した。

「さて、それでは授業に_」

 一行が大学に戻ろうとしたその時、再び先生の懐から電子音声が鳴り響く。

「はい、城崎です……え、また事件ですか?」


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