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第14話 地底からの挑戦 4/4

「こ、これは一体……」

 本部の城崎教授が唖然として呟くと、隣席の権田教授が同じく呆然としながら反応する。

「一体も何もあるまい。信じられん事だが、目の前で披露されては認める他ないだろう。あいつは変形するんだよ。君の言うAからBに、恐らく自在にな」

「と、いう事は……」

 本部の人々の視線がムベンベに、ムベンベ内の隊員達の視線が高見に集まる。

『高見の無茶苦茶な仮説が的を射ていたとはな』

「うん、意外だった」

「そんな、みんなして褒めないで下さいよ」

「褒めてはいないっ!」


 二本足で大地を踏みしめるグラゴンBは、両腕を振りかざしながら空に向かって大きく咆哮した。大気の振動で周囲の木々が怯えるように揺れ、本部のテントが軋む中、グラゴンは付近に停車中のムベンベに向かって真っすぐ進んでいく。

 一方コントロール室でも、隊員達がグラゴンの進行を目の当たりにしていた。

「まずいぞ、こっちに近付いてきている!袋田君、何とかならないのか?」

 焦りを見せる時島をよそに、袋田は嬉々としてコンソールを操作し始める。

「成る程、変形するわけね。ならこっちも変形で対抗だっ!」

 袋田がスイッチを押すと、メインラダーの両脇に格納されていたサブラダー2本が自動で展開され、更に変形して2本のロボットアームになった。

「高見君、時島君、手伝いを頼む!」

「おう」「任せたまえ!」

 2人が袋田の両隣の席に着き、左右のアーム操作をそれぞれ担当する。


「……来るぞ」

 宇沢の呟きと共に、地響きがムベンベ内部まで伝わってくる。彼がハンドルを切り、ムベンベがグラゴンと正面から対峙する形になった。進行方向に立ち塞がる橙色の梯子車に向かい、グラゴンは鋭い爪が生えた右腕を振るう。

「行くぞ!」

 フロントガラスに迫り来る右腕を高見のアームが挟んで阻み、続けて振るわれた左腕を時島のアームがどうにか受け止める。端から見るとグラゴンとムベンベが取っ組み合いをしているかのような光景だ。グラゴンが唸り声を上げて両腕を押し込もうとすると、それに対抗して宇沢がアクセルを踏み込み、両者共に一歩も退こうとしない。更にグラゴンが力を入れると両腕の爪が振動を起こし、挟んでいるアームの金属部分と接触して火花が散る。


「ぐっ、どーすんだ袋田。このままじゃマズいぞ」

「大丈夫!今こそムベンベの真の力を見せる時、っと」

 袋田が別のスイッチを押す。すると、今度はメインラダーが自動で持ち上がり、斜め上方に伸び始めた。梯子は瞬く間に全長の約半分、地上30mまで展開する。

「袋田君、これはまさか……」

「そのまさかさ。メインラダー変形システム、作動!」

 天に向かって聳え立つメインラダーは、まるでブロック玩具で出来ているかのように軽快に変形していく。縦方向に四つに割れたかと思うと先端のバスケットが内部に格納され、代わりに赤い風船のような物体が出てきて先端に装着されるが早いか、空気が入ったかのように膨らみ始める。


「す、すごいです!」

「一体どうなってるんだ?」

 その様子を本部から目の当たりにした一行も、内部からモニターで確認した隊員達も、この変形には驚きを隠せない。

「いやー、メインラダーにクラウドバスターを組み込もうとした時にちょっと失敗して、漏れ出したオルゴンエネルギーをラダーが大量に浴びちゃったんだ。そしたら何故か分からないけどラダーに凄い可変性というか、変形しやすい性質が発現したから、理工学部の京丸教授に頼んで変形機能をつけてもらったのさ」

「マジかよ、すげーなオルゴンエネルギー!」

 袋田が説明している間に風船の膨張は完了し、今やラダーの先端には巨大な赤いボクシンググローブが装着されていた。

「変形完了!ロケットパンチ・ラダー射出!」

 先端にグローブを着けたメインラダーは一旦最短サイズにまで縮むと、眼前のグラゴンに向けて勢いよく撃ち出される。二本のアームで動きを押さえられているグラゴンの頭部に、ロケットパンチがクリーンヒットした。更に二発、三発と拳が撃ちだされ、とうとうグラゴンはアームの拘束を離れて背後に弾き飛ばされる。

「やったぞ!」

 土煙を浴びて倒れるグラゴンの姿に歓声を上げる隊員達。衝撃がよほど強かったのか、グラゴンは起き上がろうとするも果たせず、地上をゴロゴロと転がるのが精いっぱいのようだ。しかし……

『気をつけろ、また奴の動きが妙だぞ!』

 司令が再びムベンベに通信を飛ばす。隊長の見立てどおり、グラゴンはただ転がっているわけではなかった。数度の回転の後、怪獣の姿は二足歩行ではなくなっていた。先端にドリルを着けた地底列車のような姿、グラゴンAだ。そして変形するが早いか、怪獣は大穴へと滑り込み姿を消す。


「マズい!」

 袋田が慌ててモニターに駆け寄る。波動レーダー装置を使った測定によると、車体がある場所の地下付近にはグラゴンが掘ったトンネルが何本も開通済みのようだ。そしてグラゴン本体の影は_

「まずいぞ、この周囲をぐるぐる回ってる!地下からムベンベを奇襲するつもりかも」

『よし、全方位を警戒しろ!』

「了解!」

 高見と時島は室内のモニターを見回し、ムベンベの前後左右に異常がないか見張る。しばらくの間、画面に映し出される景色に異変は見られなかったが……


「9時の方向!!」

 時島が鋭く声を上げた。それに反応して即座に宇沢がハンドルを切り、ムベンベが向きを変える。その時点で既に地面には蜘蛛の巣状のヒビが入っていたが、次の瞬間には巣の中心からグラゴンAが弾丸のように飛び出し、正面からムベンベに突っ込んできた。

「来たぞぉ!」

 袋田がロケットパンチを突き出して応戦を試みる。グラゴンの角がグローブを掠めて軌道を変え、車両の側面に着地すると高速で穴を掘って再び地中へ潜行。

「ふう、衝突するかと思ったぜ」

『よく見ろ、やられてるぞ!』

 すかさず隊長の声が飛ぶ。

 本部からはグラゴンの激突で穴を開けられ急速に萎んでいくグローブがはっきりと見えていた。


「そんな、ロケットパンチが破られるなんて……」

「それだけじゃないぞ」

 追い討ちをかけるかのように、運転席の宇沢から連絡が入る。

「すれ違いざまに後輪を1つやられたらしい」

「何だって宇沢君!?じゃあムベンベはもう動かないのか??」

「いや、まだ動きはするが、機動性は大きく落ちた」

 間もなく、コントロールルーム内のモニターでも二箇所の不具合が確認できた。

「マズいぞ、またグラゴンが攻撃準備に入った!このままじゃ迎撃も退避もできないよ」

「くそ、どうすりゃいいんだ」


 海中から獲物を狙う人食いザメのように、地中で周回を続けるグラゴン。本部の面々も、難破船と化したムベンベを遠巻きに見守るしかない。

『袋田、もう打つ手は無いのか?』

 駒井司令が無線越しに呼びかけると、すぐに返事が返ってくる。

『まだ未使用のラダー変形機能があります!あいつの注意を少しだけでも逸らす事ができれば、準備して一発お見舞いできるんですが……!』

『成る程』

 袋田の返事を聞いた司令が、本部内の面々を見回す。

「状況は以上の通りです。奴の注意を逸らす手段が何かないでしょうか?」

「あの子の注意を逸らすっていうと、やっぱりさっき使ったモグライジングじゃないですか?」

「そうだな。マーク、そこに刺さってるモグライジングは再起動できるのか?」

「今は無理!一回使うと8時間以上の充電が必要なんだよ」

「マジかよ……まだ使ってないモグライジングは無いのか?」

「それがさー、倉庫にあるの全部持って来ちゃったんだよな。在庫一掃的な意味で」

「うむ、それは私が指示した。在庫を捌く千載一遇のチャンスだったのでな」

「そうですか……」


『6割のタイヤが破損、サスペンションもやられたようだ。早く手を打たないとムベンベが再起不能になる……』

 グラゴンの襲撃を受け続ける消防車から、宇沢の悲痛な通信が入ってくる。

「畜生、未使用のモグライジングさえあれば……」

「ん、そういえば」

 本部が暗澹たる雰囲気に包まれ始める中、権田教授がふと思い出す。

「城崎君、以前モグライジングのサンプルを一本渡したはずだが、あれはどうしたね?」

「そうか、あれはまだ未使用でした!」

「今どこにある?」

「……研究室のどこかにあると思うのですが」

 一瞬希望が見えた一同は、またすぐに暗闇に引き戻される。そりゃそうだろう。最後の一本が眠る研究室は地面の下、しかも内部は散らかりまくりで、見つけ出すなんて正直……待てよ?


「森島くん!?どこ行くんですかっ?」

 気付けば辰真は本部から飛び出していた。ムベンベがグラゴンに痛めつけられる現場とは反対側、地面に空いた大穴へと一直線に走っていく。縁にかかったままの梯子を下り、洞窟内に取り残された研究室へと踏み込む。思い出せ、どこにあった?暗闇に包まれた室内をゴーグル越しに眺め、先ほど自分が倒れていた場所へと移動する。テーブルの奥側、資料類と地球儀の間に転がる金属製の筒。これだ。今ならこの筒の使い方が分かる。残された最後の希望、未使用のモグライジング。

 安堵してそれを抱え上げた所で、辰真はふと我に返る。何で俺はこんな地の底に単身飛び込んでるんだ?そういう危険な役目は消防隊にでも任せとけばいいのに。……そうは言っても、勝手に体が動いてしまっていたのだから仕方がない。まあ、ここにモグライジングがあるのを知ってたのは自分だけだし、暗視ゴーグルを付けてたのも自分だけだった。一刻を争う中ではこれが最善、適材適所というやつなのだろう。そんな風に自問自答しつつ、辰真がモグライジングを担いで梯子を上っていると、頭上に月美がひょっこりと顔を出した。


「森島くーん、こっちですよ!」

「稲川?」

「もー、いきなり走り出すからビックリしましたよー!でも、しっかりモグライジング持ってくるなんて流石_」

 ここで突然グラゴンの衝突音が響き渡り、トンネル内も激しく揺れる。

「こ、ここも危ないので、早く上がってきてください!」

 月美が伸ばした手を掴み、辰真とモグライジングは地上へと帰還した。


「それでは早速、これをこうして!」

 辰真から受け取ったモグライジングを月美が手動で起動させ、その場で地面に突き刺す。金属筒はすぐに稼働を始め、周囲の揺れも俄かに収まる。

「さ、グラゴンが来る前に早く逃げましょう!」

「ちょっと待て、もう少し余裕を_」

 辰真は落ち着く暇もなく、ふらふらとした足取りで本部に戻る。月美に手を引かれていた事に気付いたのは本部に辿り着いた後だった。そして学生二人と入れ違いになるように、地底怪獣が大穴方向へと移動を開始する。


 防戦一方の消防車内でも、宇沢がすぐに怪獣の移動を観測した。

「グラゴンの攻撃が中断、こちらから離れていく」

『袋田、今のうちだ!』

「了解!メインラダー変形システム、第二段階!」

 袋田が立ち上がり、大げさな動きでスイッチを押す。ボロボロのメインラダーが再び動き始め、音を軋ませながら変形を開始。今度はグローブの代わりに金属製の棒のような物体が出てきて先端に装着され、瞬く間にムベンベの背に巨大なハンマーが出現した。

「これぞメインラダーの第三形態、ハンマー・ラダー!高見君、モグラ叩きは得意?」

「へ、得意に決まってんだろ!」

「じゃあ任せた!」


 袋田に代わり操縦席に着いた高見が手元のスティックを巧みに動かすと、メインラダーは真っ直ぐに伸びていく。やがて天高く伸び切った鉄槌梯子は下降を開始、そして先端の金属棒が勢いをつけて地表に落下し、穴の縁にうずくまるグラゴンの頭部に寸分違わず振り下ろされた。真上からの痛烈な打撃を受けたグラゴンは唸り声を上げてよろめき、轟音を上げながら大穴を落下して行った。


「グラゴン、完全に沈黙。無力化しました!」

 固唾を飲んで見守っていた車内と本部内に安堵が広がる。激闘を終えたムベンベの周囲一帯は、巨人が大地に水玉模様を書きこんだかのように穴だらけになっていた。



 数日後、辰真と月美はグラゴン騒動の跡地を訪れていた。

「無事に解決して良かったですね!一時はどうなることかと思いましたけど」

「そうだな」

 あの後、大穴の底でノビていたグラゴンはクレーンで引き揚げられ、特殊なコンテナに収容されて異中研へと輸送されていった。異次元怪獣の生きたサンプル入手はかなり珍しく、今後の研究発展が期待される。一方デビュー戦ながら廃車寸前に追い詰められたムベンベはレッカー車でけん引され、工場で修理の最中だ。そして2人の眼前には、地の底から蘇ったプレハブ小屋が鎮座していた。クレーンがグラゴンのついでに引き揚げてくれたので、洞窟から少し離れた場所に再設置したのである。


「ほら、研究室もすっかり元通りですよ!」

「元通り……なのか?」

 プレハブ小屋は原型こそ保っているものの、度重なる衝撃のせいでガタガタに歪んでいて、あちこちに傷や凹みが見られる。

 そりゃ研究室が二度破壊される事態よりは遥かにマシではあるが。それより問題なのは、部屋の中の方だ。

「さ、早く入りましょう」

「……俺はできれば遠慮しときたいんだが」

「ダメです!こういうのは手早く始めないと。夏休みの宿題と一緒ですよ?」

「分かってるって」

 辰真は月美の後から渋々研究室に入る。何度も小屋ごとシェイクされた結果、今までよりも遥かに荒れ果ててしまった室内が彼らを出迎えた。城崎研究室の大掃除は、まだ始まったばかりである。


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