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第十話 特災消防隊VS火焔蟹獣 4/4

            ~火焔蟹獣ダイガ登場~


「うおっ」

「一体何が起こったんです?すんごく暑いんですけど!」

「ま、まずいぞこりゃ」

 3人が混乱する中、運転席付近にいた時島も司令室に駆け込んでくる。

「君達向こうの気温がおかしく、って、こっちも暑い!いや、最早熱いというべきなのか!?」

 更には屋上にいた高見も車内を覗き込み、

「おい下の方はどうなってんだ?って、うわあああアヅイィィィィ!!」

 ……といった調子で梯子を転げ落ちてきた。



 サウナのような状態のコントロールルームに5人が集まる。

『どうした、一体何が起きている?』

「袋田君!これは一体?」

「ごめん、大事なことを忘れてた……」

「大事なことって何だよ」

「この装置は見ての通り、物体に宿るオド・パワーを熱気と冷気とに分けて利用できるんだけど、この2つのエネルギーは必ず同時に同じ量だけ発生するんだ。つまり、あれだけの冷気を発射したってことは、同じ量の熱気が出力源のクリッターにフィードバックされるってこと。ただ……その対策を忘れてたわけ」


「忘れてたんですか……」

「おい、全然駄目じゃねーか!」

「仕方ないだろ。君たちが装置のメンテナンスばっかり急かすから!」

 言い争う高見と袋田を駒井司令が一喝する。

『止めろお前達!いかなる時でも平常心を忘れるなと言っただろう!』

「そうだ!この程度の暑さを耐えられないなど本当に消防士か?心頭滅却!」

「……すみません、それにも限度があると思います」

 辰真が壁の温度計を指差しながら反論する。温度はじりじりと上がり続けている。それに、熱耐性が強そうな消防士はともかく、月美や自分がどこまで耐えられるか。

「先生、氷か何か用意できます?」

『いいけど、少々時間がかかるよ』

「カニがいる以上受け渡しも難しいぞ!」

「防火服を着るのは?」

「この状況じゃより暑くなるだけだ」


 一行の言葉は途切れ、その間にも部屋の空気は重苦しく淀み続ける。突然、袋田が温度計の表示を見て飛び上がった。

「まずいよ!これ以上温度が上がると計器が危ない。僕のラジオニクスが壊れたらクリッターは終わりだ!」


『仕方がない、攻撃中止だ!』

 無線を通して駒井隊長が宣言する。

「ならカニ野郎が動き出す前にもう一遍水をかけてやるか」

 袋田がオド装置を止めようとしている間に高見は司令室を飛び出し、再び窓枠に駆け寄ってホースを掴む。しかし筒先の金属部分に触れた瞬間、

「うわアッツィィィィ!!」

 と叫んでホースを放り投げ、結果的に外に落としてしまった。


『何をしてるんだあいつは……』

「カニさんがまた動き出し始めてます!」

 モニターをチェックしていた月美が叫ぶ。見ると、オドの冷気の力が弱まったために火柱の勢力が盛り返し、外殻表面の氷にもヒビが入っている。

「あと1分だけ冷気を継続できないのか?少しくらいなら我慢できるだろう!」

「君は耐えられても機械は耐えられないの!」

 袋田がダイヤルをオフの位置に回すと、ようやく振動が止まり、車内の温度が下がり始める。時島以外の全員がその場にへたり込んだ。

『みんな、大丈夫か?』

 無線で先生が呼びかける。


「はい、どうにか……」

 辰真が返事をしかけるが、モニターが目に入り絶句する。そこには鋏を振り上げながら猛烈なスピードでこちらに突進してくるダイガの姿が映っていた。 炎を背負った甲殻の塊が消防車を叩き潰そうと迫る!

「やめろ、こっち来んな!」

 高見の叫びも虚しく、怪獣は容赦なく消防車に激突する……直前でクリッターが急カーブした。大鋏が消防車を掠め、甲殻類はそのままクリッターの真横を通過し、数歩進んだところでバランスを崩し岩場に倒れこんだ。


「助かった……」

「よくやってくれた!」

 体勢を立て直した一行は運転席に駆け寄る。高温騒ぎの間も一度として席を離れず、冷静にカニを観察し続けた男、宇沢の姿がそこにはあった。

『平常心を失わなかったのは宇沢だけだったようだな』

「何であの動きを予想できたんだ?」

「そうですよ。カニがいきなり前に動くなんて反則です!」

「カニが主に横移動なのは、歩脚が体の側面に付いているから動きやすいというだけの理由だ。前に動けないというわけではない」

「なるほどな、カニ知識もたまには役に立つもんだ」


「ちょっと、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよ!」

 今度は司令室の袋田が叫ぶ。司令室のモニターには大ガニの姿が映され続けている。ダイガは既に起き上がり前進を始めていた。クリッターの方角ではなく、梢ヶ原の外へと。


「しまった、奴が逃げるぞ!」

 既にダイガは両手の大鋏を振るい始めていた。大ガニの行く手を阻む雑木林は軽々と剪定され、丸太となって地面に散らばる。そこに火柱から火花が降りかかり燻りはじめる。このまま林に入られれば、またしても炎の海が生み出されるのは明らかだ。


『ダイガを逃がすな!』

「畜生、これ以上燃やされてたまっかよ!」

 クリッターがエンジンを吹かし、怪獣の後を追おうとする。しかし、消防車がダイガの方を向いた時には敵は既に林の中に突入していた。速度の差は歴然だ。このまま取り逃がしてしまうのか?


 急にカニの動きが止まり、同時にクリッターが大きく揺れる。

「何だ?」

 ダイガはクリッターの正面10mほどの距離でもがいているが、何故かそれ以上進めないようだ。

「あれ、カニさんに何か引っかかってません?」

 一同が目を凝らしてみると、月美の言う通りダイガの左脚の一本に白い紐のような物体が絡みついている。その紐のもう片方の端は、なんとクリッターに繋がっていた。


「おい、これって……」

『さっき高見が落とした消火ホースだろう』

「高見のミスが功を奏したか!」

「うるせえ。だがこれで行けるよな宇沢?」

 宇沢は小さく頷くと、ギアを切り替え消防車を後退させ始める。タイヤを軋ませながらゆっくりと退がっていくクリッター。ダイガは林の中で抵抗を続けるが、ホースが絡まったこともありうまく動けず、少しずつ後ろに引き摺られ始める。時島達は窓から手を伸ばし、綱引きのようにホースを引っ張っていた。

「なあ、このホース千切れないよな?」

「当然だっ!クリッターが採用している消火ホースには最新鋭の素材が使われていて、耐久性・耐熱性・耐摩耗性のいずれも既存のホースとは段違いの性能を持っている!」

「そういう事にはやたら詳しいよなお前」

 クリッターと隊員達は渾身の綱引きの末、遂にダイガを峠ヶ原へと連れ戻す事に成功した。大ガニは今度は横移動して別方向に逃げ出そうとするが、消防車は荒地の中央方面へと力強く前進し、ダイガを緑地から引き離す。


「おい袋田、さっきのもう一回行けるか?」

 高見の呼びかけに、綱引きの間も装置をチェックしていた袋田が叫び返す。

「うん、ごく短時間なら問題ない!かなり接近して撃つ必要があるけど」

「なら今のうちに近付くべし!」

 クリッターは決着をつけるべく大ガニに接近する。しかし敵も無策ではなかった。ギロチンのような大バサミがホースを握り締め、圧力をかけていく。最新鋭の素材を使い耐久性を高めたはずのホースがミシミシと歪んでいく。


「まずいぞ……早く仕留めないとまた逃げられる!」

「逆に迎撃されるかもよ。近付かない方がいいんじゃ?」

 意見が割れる。が、消防車は急に止まれない。

『もう時間がない。接近か退避か、早くどちらかに決めろっ!』


「カニにホースを巻きつけるのは?」

 閃いたのは辰真だった。

「そうか、ハサミが届かない位置に巻きつけてしまえば、あのホースなら拘束できるっ!やってくれ宇沢!」

「よし」

 クリッターは宇沢の絶妙なハンドル捌きでダイガから少し離れた位置を通るよう軌道修正し、その距離を保ったまま怪獣の周囲を周回し始めた。しかしダイガの大バサミに激しく圧迫されたホースの端は切断寸前だった。

「させっかよ!」

 高見が手元のレバーを叩き下げる。ホースに再び水流が走り、ハサミの動きが少しだけ弱まった。クリッターはその隙を逃さず周回を続け、二度、三度とホースが大ガニの歩脚に巻きつく。その直後、ダイガの大バサミに挟まれていたホースが鈍い破砕音と共に切断され、地面に落下した。



「今だ!」

 クリッターが動きを封じられたダイガの背後に回り込み、未だ燃え盛る炎柱に接近する。

「もう一度オド・システム作動!」

 袋田が司令室でダイヤルを回す。特災消防車の屋上部に設置された巨大放水管は、照準を合わせる間もなく、至近距離から水色の光流を噴射した。オドの冷気はダイガの背中を、炎の柱を直撃する。大ガニはハサミを振り回して足掻くが思うように動けず、柱が消火されて小さくなるにつれ動きも鈍っていった。そして数十秒後、炎の柱は完全に消滅し、ダイガも動きを止めて大地に倒れた。


 クリッター内部の隊員達は、暑さに耐えながらその様子を見守っていた。

「やった……のか?」

「ダイガの生命反応消失。つまり……」

「俺達の勝利だ!」

「やったね!」

 喜びあう隊員達。駒井司令も無線で彼らを労う。

『お前達よくやってくれた。山火事の方も、揺木と貝田の消防隊の働きで無事鎮火したらしい』

「本当にお疲れ様。遅くなったけど冷たい物持ってきたよ」

 そう言いながら城崎教授がクーラーボックスを持って消防車に入ってくる。箱の中には缶ジュースや炭酸飲料が氷と一緒に入っていた。

「さっすが先生、ナイスタイミングです!」

 月美が真っ先に缶ジュースに飛びつく。

「なんだ、缶ビールは無いのか……ぐあっ」

 小声で文句を言う高見を時島がドツき、他のメンバーもそれぞれ缶を手にして乾杯が始まった。


「いやー、今日はもう解散でもいいよな?」

 緩んだ空気の中、コーラを一気飲みして上機嫌になった高見が口を滑らせる。すると、すぐに無線の向こうにいるはずの駒井司令が反応した。

『ん?高見、何か言ったか?』

「いえ、何にも言ってません!」

『そうか。ところでうっかり言い忘れてたんだが……』

 隊長が笑いを堪えているような口調で付け加える。

『特災消防隊の活動には消防庁の上層部も多大な関心を寄せている。帰り次第全員に詳細な報告書を書いてもらうぞ。特に高見、お前は間接的にホースを壊したから始末書を追加だ!』

「嘘だろ!?結果的にカニ退治に役立ったじゃないすか!」

「高見、規則は規則だ」

 時島がにっこり笑って彼の肩を叩く。

「マジかよ……」

『袋田はオド・システムの動作報告書を出すように異中研から指令が来ている。まだまだ改良が必要なようだからな』

「はあい……」


「何というか……社会人って大変だよな」

 一喜一憂する消防隊員を眺めながら辰真が呟くと、月美が満面の笑みで応じた。

「森島くん、わたし達もレポート出さなきゃいけないの忘れてません?確か今週の授業のレポートも未提出でしたよね?」

 更には城崎先生も乗ってくる。

「そうそう、しっかり提出してもらうからね。今回はせっかく特災消防隊に同行させて貰ったし、分量をいつもの2倍にしようか」

「そんな……」

 社会人でも大学生でも、レポートに振り回されるのは世の常である__

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