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第十話 特災消防隊VS火焔蟹獣 2/4

            ~火焔蟹獣ダイガ登場~


 午前10時過ぎ、揺木大学キャンパス北。城崎研究室所属の学生である森島辰真は、いつものようにプレハブ小屋に向かっていた。アベラント事件の調査準備のためである。城崎教授達は既に現場に向かっているので、現在室内は無人のはずだ。

 辰真は単位の関係上外せない授業があったので後から合流する予定だったのだが、肝心の合流場所についての連絡が未だに来ていない。恐らくアベラントエリア内に入ってしまっているのだろう。そのような場合に備え、城崎研究室では、本部内に資料や書き置きを残しておく決まりになっている。


 そういうわけで小屋へ急いでいた辰真の足を止めたのは、遠くから響いてきた自然のざわめきだった。木々の揺れ。鳥の羽ばたき。そして、微かに聞こえる地滑りのような音。

 辰真の視線は小屋を飛び越え、キャンパス奥に広がる林野地帯、そして更に奥に佇む薄明山や朧山の方面へと向けられた。かなり遠くの木々の間から煙が立ち上っているのが見える。オブロスの時のような砂煙ではなく、黒い煙だ。正直嫌な予感しかしないが、今は研究室での情報収集を優先させるべきだろう。


 辰真は小走りで小屋へと向かいドアを開けた。室内はやはり無人だったが、書物やらアウトドア用品やらが床に積み上げられ雑然としている。つまりいつも通りだ。同じく地図やら駄菓子やらが散乱したテーブルの中央に資料が一式置かれていた。

 資料の一番上に置かれたメモ用紙には、同期である稲川月美の綺麗な筆跡で「梢ヶ原」とだけ書かれ、その横にデフォルメしたカニのようなイラストが添えられていた。辰真はため息をつく。恐らく、嫌な予感は的中した。



 梢ヶ原…薄明山と朧山の中間あたりに広がる面積1k㎡ほどの荒野。数百年前、揺木の地に人々が移住して間もない頃には居住地として使われていた記録が残っているが、魔境にほど近いこともあり早い段階から不吉な場所として忌避されるようになった。現在は市の管理地域。

(出典:YRK制作の冊子「揺木の名所百選」23)


「揺木本部より各小隊へ。現在朧山の山中複数箇所で出火を確認。最低でも1km四方の森林が被害を受けていると推測される。誘導に従い至急消火場所に移動せよ」

「こちら揺木第二分署、A地点に到着、消火を開始します!」

「貝田市にも応援出動を要請中です!」

 クリッターは揺木街道を北に疾走する。車内にはノイズ交じりの防災無線がひっきりなしに鳴り響く。通常の火災であれば自然な光景だが、今回に関しては既にアベラントエリアが拡大している事を示しているので安心はできない。無線の音とは対照的に、特災消防車の車内では誰もが無言だった。


 山間部に近付くと、既に街道の大学沿いから先は揺木市警がバリケードを張り巡らせていた。周囲には学生達の避難誘導をする警察官や、揺木街道沿いの消火栓を確認する消防士の姿が見える。バリケード内をしばらく進んで左折、工事現場跡地を通り過ぎ、でこぼこの林道を突っ走る。

 やがて林道は終わりを告げ、クリッターは梢ヶ原へ飛び込んだ。木々が途切れ、灰色の地面がむき出しになっている荒れ地。その隅に巨人が作った焚き火のような威容を持つ火柱が上がっていた。職業柄、思わず火を凝視する隊員達。視線を火柱の根元に移すと、そこには薪ではなく巨大な黒い影があった。


 多数の棘や凹凸で装飾された六角形の岩山のような甲羅。山腹からは何対もの歩脚が地面に伸びて岩山を支えているが、一番上の一対の脚は宙高く振り上げられ、その先端には鉄骨でも切断できそうなほどの大きさの鋏が付属していた。


「あれは、カニ……だよな」

「カニだと?このクリッターよりも大きいぞ!?」

「……ワタリガニに似ている」

 宇沢がぼそっと呟いたとおり、その大ガニはシルエットだけならアメリカ東海岸のシーフードレストランの看板を務めていそうな形だった。もっとも、振り回される大鋏と背中から激しく燃え上がる炎柱が彼らを威圧していたために食欲増進の効果は全く無かったのだが。


「無駄口を叩いている場合か!私は作戦本部で一旦降りる。お前達は先にあの化けガニの所に行って足止めしておけ」

 駒井隊長が唖然としている隊員達を叱咤すると、カニとは別の方向を指差しながら言った。差された先、梢ヶ原の反対側の端には机が何卓も並べられ、消防隊の指揮官格や市職員、研究者らが慌ただしく動き回っている。そこが仮設の作戦本部なのは間違いなかった。

「了解!」


 クリッターが作戦本部に近付く。消防車から飛び降りて作戦本部に合流した隊長に白衣の人物が駆け寄ってきた。

「駒井隊長、お疲れ様です」

「もう来られてたんですか。流石は城崎教授だ」

「いえ、今回も研究室の近くでしたから。これから本部で指揮を執られるんですよね?」

「ええ」

「私も本部から離れられないんですよ。そこでなんですが、うちの研究室の学生達を私の代わりにクリッターに乗せていただけませんか?アベラント事件については経験もあります」


 言葉どおり、城崎教授は2人の学生を後ろに連れてきていた。特災消防車の上から様子を見ていた高見達も彼らには見覚えがあった。オブロス事件の際に情報提供してくれた学生達だ。1人はボブカットに橙フレーム眼鏡の小柄な女子大生で、クリッターを見て目を輝かせている。もう1人は登山バッグを背負った男子大学生で、相方とは対照的に落ち着いているが嬉しくはなさそうな表情を浮かべていた。

「まあいいでしょう。中の方が却って安心かもしれません」

「ありがとうございます。ではよろしくお願いします」


「こんにちは!城崎研究室の稲川ですっ」

「どうも、森島です」

「ああ、よろしく頼む!」

 学生2人を内部に迎え、クリッターは再び大ガニに向かってゆっくりと前進。相手の行く手を阻むように停車した特災消防車と燃え盛る大ガニが睨み合う。


「……俺さ、ガキの頃から梢ヶ原に怪物が出る話は散々聞かされてきたけど、今になって本当に怪物と戦うことになるとは全く思わなかったぜ」

 フロントガラスを通して化けガニの様子を眺める高見が呟く。運転席で相手の動きを窺い続ける宇沢が応じる。

「奴の後ろを見てみろ」

 高見も気付いていた。大ガニの背後、本来なら豊かな自然が広がっているはずの山林地帯は見るも無残な焦土になっていた。地面はどす黒く染められ、巨大な炭と化した木々が散らばっている。

「……こいつは許せねえな」

「気持ちは分かるが無駄口を叩いている場合ではないぞ!とにかくあの忌々しい火柱を何とかしなければ。高見、クラウドバスターに備えるんだ!」

「おい時島、なんでお前が仕切ってんだよ」

「隊長がいない以上、僕が一番指揮官に向いているからに決まってるだろう!」

「はあ?」

「袋田君、クラウドバスターの準備はできているかー?」

 不満を垂れようとする高見を無視して、時島が車両奥に向かって呼びかける。袋田は学生2人を連れて奥のコントロールルームに引っ込んでいたが、間もなく2人を連れて部屋から出てきた。


「呼んだ?」

「ああ、早速クラウドバスターを起動させてくれないか?」

「ごめん、クラウドバスターはメンテナンス中でしばらく使えないんだ」

「……なんだって?」

「前回出動した時、オブロスにクラウドバスターを長時間使用したでしょ?あの時装置に過剰な負荷がかかったらしくて、安定して作動しなくなったんだ。だから今はオルゴンタンクごと異中研に送ってる」


「おいちょっと待てよ。お前さっき装備は大丈夫だって隊長に言ってたじゃねえか」

 高見が袋田に詰め寄るが、袋田は慌てる様子もなく高見を反対側に押し戻す。

「大丈夫なのは本当さ」

「本当ってどういうことだよ。クラウドバスターなしでどうやってあいつと戦うんだ?」

「今彼らに説明しかけてたんだけどさ、オルゴンエネルギーとクラウドバスターが使えないなら、別の異次元エネルギーと装置を使えばいいじゃない!って事」

「じゃあ別の装置があるのか?」

「イエス」

 袋田は得意気に周囲を見回すと宣言した。

「今回使うのは、神秘のオド・パワーさ!」


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