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第39話 アベラント・インディケーション 前編

 side:白麦玲


 これは、辰真達が揺大祭で騒動に巻き込まれる少し前の出来事である。YRK現代表の白麦玲は、揺木市の中央部にひっそりと居を構える揺木市立博物館の中にいた。既に閉館時間を過ぎており、職員達も殆ど帰ってしまっているが、彼女が館内をうろうろしていても特に問題視されることはない。何故なら玲は、博物館の売店でアルバイトしながら、資料の整理など学芸員の見習いのような業務もしていたからである。大学卒業後は学芸員として正式に就職を考えている彼女にとって、ここでの仕事は願ってもないものだった。


 そんな彼女は目下、とある書物を熱心に解読していた。メギストロンの事件の際に月美達から渡された緑色の古書「揺木神獣活動録」。既存の記録には一切残っていないが、玲はこの書物が本物である事を確信していた。程なくして月美達が行方不明になる事件が起き(溟海の探索者参照)、月美が一時入院する事態にまでなったため、気を遣って合宿時も話題に出してはいなかったが、玲は夏休み中も密かに解読を続けていた。そして学園祭も近付いてきた最近になってようやく全貌が掴めてきたのだが、どうしても解読できない所が数箇所あり、博物館の資料に助けを求めることにしたのである。


 玲は展示室の一つに向かった。この部屋では主に江戸時代に編纂された書物が展示されているため、必然的に異次元生物や怪事件の記録書も多い。今までの彼女であればその手の資料は信憑性が低いとして重視していなかったが、辰真や米さん達とアベラント事件に何度も巻き込まれるうち、玲も考えを多少は変え、異次元事件と真面目に向き合うようになっていた。そんな中で月美から託されたのが「揺木神獣活動録」であり、玲としては友人のためにも、独力で解読を成し遂げようと密かに情熱を燃やしていたのである。


 人気がなく薄暗い展示室の中を歩き回り、展示台を一つ一つ見ては資料を確認していく。予想通りではあるが、大学の図書館や城崎研究室にある資料との重複が多い。その辺りにある資料は既に閲覧済みなので、この部屋で新しい手がかりを得るのは困難だろう。こうなると、もうバックヤードの収蔵室に行くしかないか__そう考えて玲が展示室を去ろうとしたその時だった。


 薄暗い部屋の後方で、不意に何かが光った気がした。観覧者の落とし物か何かだろうか。振り返った玲は、光が見えた方角へと向かう。そこは部屋の片隅で、小さな展示ケースが一つポツンと置いてあるだけだった。ケースの中に展示されているのは、一冊の古書。紫色の見事な装丁が目を惹くが、肝心の中身が全て白紙という奇妙な書物である。説明板には「江戸時代頃 倉池の古民家より収集」という簡易な文章が添えられているのみ。数年前に先輩職員が面白がって展示した物だが、玲は特に気にしたこともなかった。


 玲は展示ケースを覗き込む。やはり気のせいではなかった。書物の内側、つまりページの部分の隙間のあちこちから、薄紫色の光が微かに漏れている。そして僅か数秒後、古書はケースの中で勢いよく開き、菫色の鱗粉状の光を周囲に撒き散らした。眩しい光に晒され、玲は思わず顔を覆う。


 後から分かった事だが、この時周囲に放出されたのは高濃度のエーテルエネルギーだった。彼女が持っていた「揺木神獣活動録」に古書が反応したのか、それとも後日揺木に起こる大異変の前兆だったのかは定かではないが、いずれにせよ常人ならば触れたら即座に失神するほどの分量だったのは間違いない。玲が無事だったのは、肌身離さず身につけていたココムの繭玉のお陰だった。


 そんな事はつゆ知らず、玲は再度目を開け、驚くべき光景を目の当たりにした。その書物には何も書かれていない筈だった。だが今は違う。ケース内で開かれた白紙のページ上に、紫色の文字が次々と浮かび上がり、次々と文章が構成されていく。

「こ、これは__」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『白紙の書物から文章が浮かび上がる』………まるでキテレツ大百科みたい。
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