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第38話 夢幻からの襲撃 3/4

 〜夢幻生物ヴォラージェル登場〜


『揺大祭実行委員より、緊急のお知らせです。現在、大学内に怪獣が出現したという情報が入りました。有害なガスをまき散らしている恐れがあるので、参加者の皆さんは速やかに建物の中に避難してください。繰り返します__』

 ヴォラージェルの出現から十数分後、学園祭で賑わっていたはずの大学のキャンパス内は静まり返っていた。各地に学園祭用の屋台やステージを残したまま、学生や参加者だけが消え失せてしまったかのような、異様な雰囲気。そして、その不気味さに呼応するかのように、薄紫色の霧のようなものが構内のあちこちに発生していた。揺木大学は早くもヴォラージェルの脅威に晒されたかに思えたが、実際の所、大きなパニックにはなっていなかった。辰真達が事前に特災消防隊や里中主将、大学職員(祭香)等に危険性を訴えていたお陰で、いざ出現した時には大学・学生・消防隊が連携して避難誘導に当たり、ほぼ全ての参加者を速やかに校舎や体育館等に避難させる事に成功していたのである。


 そして、城崎教授や駒井司令を中心としたヴォラージェル対策班が急遽結成され、対談を行っていた体育館のステージ近辺で対策を練っていた。

「大学各地に備え付けられた監視カメラの映像を警備室から送ってもらっていますが、ヴォラージェルの姿は未だに確認できません。引き続き記録を調べます」

「そうか」

 揺木消防署の一般隊員の報告を受けた駒井司令は、続いて通信機に語りかける。

「こちら本部。何か異常は?」

『こちら高見。キャンパス内を見回っていますが、怪物の姿は発見できません』

 高見・袋田・宇沢・時島の消防隊メンバー4人が、消防車両クリッターに乗って構内のパトロールに向かっていた。車内であればガスの影響を受けないし、ヴォラージェル発見後に即座に交戦可能だ。しかし大型車両なので小回りが利かないこともあり、キャンパス内のどこかを浮遊しながら移動しているらしいヴォラージェルを見つけることはできていなかった。

「了解。引き続き捜索を続けるように」


 一方、城崎教授は先ほどの対談で使用していたPCのデータを調べていた。スクリーンに映し出されていたアベラント事件や怪獣の映像データは、全て発表用の資料内部に保存されている筈なのだが……

「米澤君、例のデータは君にも覚えがないんだね?」

 教授から話を向けられたのは、米澤法二郎こと米さんだった。そもそもPC自体が彼の私物である。

「はい!投影用のデータは事前に全て見ておりますが、あんなデータは記憶にありませんな。ただ、ソルニアス教授に頼まれて本番前に少しだけPCを貸したので、恐らくはその時に仕込まれたかと」

「なるほど……」

 城崎教授は考え込む。先ほどの映像は、研究室付近のどこかの実況中継だろうとは先生も考えついていたが、具体的な場所となると候補が多すぎて絞りきれない。肝心のドクター・ソルニアスは、ヴォラージェル出現のどさくさに紛れて何処かへと姿を消してしまった。頼みの綱は、ドクターの後を追っていち早く体育館を飛び出した辰真と月美の研究室生コンビだ。経験を積んだ彼らであれば、異次元の霧を切り抜けてヴォラージェルかドクターの手がかりを掴んでくれる筈だと期待したいが……


「稲川、急げ!霧が濃くなってきた」

「はい!」

 辰真と月美は、ハンカチを口にあてながらキャンパス北部を駆け足で移動していた。ドクターを追いかけて飛び出したものの、結局その姿を見失ってしまった彼らは、ひとまず城崎研究室に向かう事にした。そちらの方面は霧に侵食されている可能性も高いが、室内に散乱するアウトドアグッズの中には防護マスクもあるので、到達さえできれば霧に対抗できるはずだ。昨日同様、人気の少ない北部地帯を疾走する中、辰真は突然足を止める。

「!!」

「どうしました?」

 彼は無言で道の右側を指差す。そちらは北東に当たる方角だったが、大気が濃い紫色に染まるほど霧が立ち込めていて、後ろを見通すことができない。しかしよく見ると、紫色の壁の手前あたりに横たわる人影が見えた。

「だ、大丈夫ですか?」

「た、助けてくれ……」

 2人は人影に駆け寄り、助け起こす。私服の中年男性で、辛うじて意識はあるようだ。揺大祭を見学に来たついでに、旧校舎を見に行こうとして道に迷った末に霧の洗礼に遭った、といった所か。辰真が肩を貸し、安全な場所まで連れて行こうと数歩歩いたところで、またしても声がかかる。


「Hi!昨日からよく会うわね」

 そう言いながら霧のカーテンの裏から出てきたのは、イェルナ・トゥモローだった。昨日同様、アウトドアウェアに身を包んでいる。

「イェルナさん、そんな所で何を?」

「……ソルニアス教授とは一緒じゃないのか?」

「急にそんな事をいわれても。それより今は、早くその人を助けた方がいいんじゃない?」

「そ、そうでした。イェルナさんこそ、そんな霧の深い所にいて平気なんですか?」

「Don’t worry. 貴方達だって問題ないんでしょ?それと同じ事よ」

「ここらはまだ霧が薄いから平気なだけじゃないのか」

「Oh! 本当に何も知らないのね。この濃度のエーテルに長時間触れていれば、そこの人みたいに意識をロストするのが普通なの。貴方達は既にaberrant側ってわけ」

「アベラント側?」

「どこかでエーテルをたっぷり浴びた経験があるのかもね。その時に耐性でも付けたんじゃない?それじゃ、私は忙しいから。See you!」


 そう言うとイェルナは再び霧の中へと姿を消した。辰真と月美は少しの間、彼女のもたらした情報について思考を巡らせる。俺たちにエーテルの耐性があって、それで霧の中でも平気だって?信じ難いが、残念ながらエーテル絡みの事件には心当たりがある。とりあえず今の状況では、その情報を最大限生かすべきかもしれない。

「稲川、この人は俺が安全な場所まで連れていく。その間、イェルナを追跡してくれないか?」

「了解です!せっかくエーテル耐性があるなら、活用した方がいいですよね!」

「無理はするなよ」

 月美はすぐに霧の中に姿を消す。辰真は本部に連絡を取りつつ、第一校舎へ男性の搬送を急いだ。


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