第37話 アベレスティアルの逆襲 1/4
「第33回 揺木大学学園祭 開催のお知らせ
今年もこの季節がやって来ました。揺大生が学生生活の集大成として取り組む、展示や企画の数々をお楽しみください。もちろん揺木市民の方々との連携による、揺大祭ならではの地域性の高いイベントも満載です。
日程:20XX年10月△日〜×日
※当日は予約なしで入場頂けます」
学園祭。年に一度開催される、揺木大学最大のイベント。大学中の学生団体ほぼ全てがこぞって参加し、当日は多くの市民が入場して盛り上がりを見せる。辰真達が所属するY R K(揺木大学歴史研究会)も例外ではない。代表の白麦玲を始めとするメンバーは、今までの活動で集めた古文書や骨董品、アベラント事件の資料などを展示し、揺木の歴史に切り込むという趣旨の研究発表を行う予定だった。しかし開催直前になって、思わぬ事態が進行していた事が判明する。そう、それは学園祭の前日、辰真と月美が展示のために借りた空き教室を訪れた時の事だった。
展示用資料を持って教室に入った2人の眼前に飛び込んで来たのは、大量の紙資料をパネルに貼りまくる人物の姿。そして、それは玲ではなかった。
「米さん?」
そう、YRK前代表の米澤法次郎その人だったのである。
「遅かったな諸君。さあ、君たちのスペースはそこだ。急いでくれたまえ」
「あの、米さんが参加するって聞いてないんですけど」
「レイは来てないんですか?」
「ああ、実は昨日連絡が来てね、急用ができて遅れるから準備を手伝うように頼まれたのだよ。人助けついでに、折角だから僕の独自研究で発表を賑わせてあげようと思ってね」
得意げにパネルを指さす米さん。そこに貼られていたのは、『揺木最古の伝説・百畳湖のヒャクゾウの謎に迫る!!』だの、『独占取材!大学に突如大量発生した次元ツチノコ捕獲作戦!』だの、『真夏の特別出張版!ナムノスからソノンゴまで、波崎の名物大集合スペシャル!』だの、玲が見たら卒倒しそうなレベルのオカルト大特集の数々だった。いずれも本当に体験した出来事とはいえ、玲が考えていた発表の趣旨に真っ向から喧嘩を売っているのは間違いない。
「我ながらいい出来だ。白麦君もきっと喜ぶことだろう」
腕組みしながら自画自賛を始める米さんを横目に、辰真は淡々と自分の発表を貼り始める。
「稲川、そっちの端持っててくれ」
「はい!テープもありますよ」
「……そしてもう一つ、サプライズで企画を用意している。これを見たまえ諸君!」
2人は米さんの持っていたチラシを覗きこむ。そこには、『緊急対談!!揺木市における異次元事件の歴史、そしてあるべき未来とは?』という文字がでかでかと書かれ、その下に3人分の顔写真が載っていた。総合司会役として、米さん。ゲストの1人として、我らが城崎教授。そしてもう1人のゲストは、あのARAの研究家・ソルニアス教授だった。
そして迎えた、学園祭1日目。午前中教室の当番をしていた辰真と月美は、遅れてやって来た米さん及びマークと当番を交代する事にした。
「やあやあ諸君、お勤めご苦労!」
「お疲れーっす」
「おはようございます!米さん、講演会の準備はいいんですか?」
「心配ない。昨日だいたい根回しは済んでるから、展示の案内しながらで充分さ」
「マークは大丈夫なのか?研究室とか」
「ああ、うちは全然平気だ。教授がそういうのに興味ないし、新入生にも困ってないしな。それより白麦部長は?」
「今日も来れないって連絡があったんですよ。何か新しい掘り出し物でも見つけたのかもしれませんね、この様子だと」
「まあとにかく、留守番は我々に任せたまえ。君達は休憩がてら遊びに行くといい」
というわけで、2人はしばらくの間キャンパス内を散策する事にした。
「結局、客はほとんど来なかったな。来年以降のYRK存続は大丈夫か?」
「まだまだこれからですよ。いつも本番になるのは2日目以降ですから。それよりわたしは、来年度の城崎研究室の方が心配です。本当に新入生は来るんでしょうか」
「事件に追われてYRKみたいな展示もできなかったもんな」
「はい。アベラント事件の数は年々ずうっと増え続けてるのに、専門家の数が少なすぎます」
「全くだ」
2人はそんな会話をしながらキャンパスを歩いていく。始まって間もないとはいえ、学生やその他の市民が多数来訪し、大きな賑わいを見せている。特に正門から繋がるメインの歩道は人で埋まり、往来が難しいほどだ。辰真達は人混みをかき分け、歩道沿いに並ぶ屋台の一つへと向かった。
「タツマ、ツキミ!こっちですヨ」
近づく2人にいち早く気付いて大きく手を振っているのは、ハワイからの留学生であるメリアだ。彼女もYRKの一員ではあるが、今回は経済学部の友人達と屋台を出店するとのことで展示には不参加だった。南国風の装飾を施した屋台の前には一際長い行列ができていて、女子学生が揚げたての何かを客に手渡している。
「メリア、何を売ってるんだ?」
「マラサダ!ハワイのソウルフードで、日本でいう揚げパンですネ。食べてみるですカ?」
「わー、美味しそう!いただきますっ」
食べてみると、確かに表面に砂糖がまぶされている所は揚げパンっぽいが、中身は更にふわっとしている。しかも揚げたてで熱々。
「どうですカ?」
「んー!とっても美味しいですよ」
「ああ。今年の学園祭の覇権は決まりだな」
長蛇の列を捌く作業に戻ったメリアと別れ、辰真たちはキャンパス中央の方面へと向かう。第一校舎手前の広場には、学園祭用の簡易ステージが設置されていたが、そこでも何らかのイベントが開催中らしく、大勢の群衆が舞台前に集まっていた。
「なになに、ミスター&ミス揺大コンテスト……?」
「去年もやってた気がしますが、今年はすごい盛り上がりですね」
「当然です、我々が協力してますから」
2人の後ろからいきなり声をかけて来たのは、合気道部主将の里中藍子だった。
「え、里中さん?じゃあ、合気道部が主催なんですか?」
「いえ、正確には体連がミスコン実行委員会をバックアップしています。参加者の募集・確保からイベントの設営まで、体育会メンバーをフル活用してますよ。お陰様で殆どの部活は合気道部の指揮下に入りましたからね」
「す、凄い」
そういえば里中主将率いる合気道部は、辰真達も関わったハリノコ騒動を通じて体連の実権を握っていたんだった。
「でも、なんで体連がミスコンとかに関わってるんだ?スポーツにはあまり関係なさそうだが」
「一番盛り上がりそうなイベントを選んだというだけです。それよりも大事なのはイベント開催によるコネクションの形成ですよ。既に揺木の様々な企業にスポンサーになってもらってますし、将来の活動にも役立つというわけです」
「そ、そうか」
やはり里中主将は底知れない。将来は揺木市長にでもなるつもりだろうか。
「今は2次予選中です。森島さん達も見て行きませんか?一番前の席を用意しますよ」
「ありがたいけど、他の所も見てからにするよ」




