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第35話 太陽が来た 3/4

〜灼熱毛魂ソルパサラン登場〜


「な、なんか急に暑くなってきてません?」

 月美がいち早く異変に気付き、辰真から手を離す。

「確かに。また熱波が来たのか?」

 プールサイドの温度計を見ると、針が時計回りにぐんぐん動き始めている。熱気により周囲の景色は再びじわじわと歪みはじめ、呼吸のたびに肺に熱さを感じる。彼ら3人が浸かっているプールも、いつの間にか温水プールへと変貌。周囲の人々も異変に気付き、次々に室内へと避難を始めている。


「タツマ、ツキミ、こっちへ!」

 2人はマナの結界を展開していたメリアへと近寄る。結界内は温度が一定に保たれているらしく、本当に温泉に入っているような絶妙な快適さだった。だが、彼ら以外の客達は全員暑さに耐えられず避難済みで、プールには3人だけが取り残されていた。そして3人の眼前で、プールの底に沈んでいた物体が再び浮上してきたのである。


「あ、あれは……」

 水中から姿を現したのは、スイカ大の毛玉のような物体だった。丸っこい本体の表面は鮮やかなミントグリーンの毛でびっしりと覆われ、目や手足などの器官は確認できない。一見するとその辺の玩具屋で売っている縫いぐるみのようにも思えるが、よく観察すると全身の毛がゆらゆらと揺れ動いている。先ほどまで水に浸かっていたはずなのに、濡れている様子は全くなかった。


「……一体何なんだ」

「大きなイカイカに見えますネ」

「見たことないですけど、きっと異次元生物ですよ。この異常気象の原因に違いありません!」

 月美の言う通り、周囲の気温上昇は明らかにこの毛玉と関係があるようだ。3人の目の前で、緑の毛玉は再度プールへと潜航する。


「捕まえますカ?」

「その方が良さそうだ」

「任せてください。久しぶりのラヴァイッア(魚捕り)ですネ」

 メリアは辰真達にマナを分け与えると、毛玉を追ってプールへと飛び込んだ。水中を弾丸のように疾走する毛玉と、それを人魚のように滑らかな泳ぎで追跡していくメリア。プールの上からは二つの影が高速で追いかけっこをしているようにしか見えない。そして毛玉は、プールの隅の方に徐々に追い詰められていく。


「また水から出てきますよ。わたし達で捕まえましょう!」

「分かった」

 月美と辰真はプールの角付近に立ち、丸い影の動きを注視する。徐々に逃げ場を失った毛玉は遂に上空へと進路を変えて空中へと飛び出すが、その先には両腕を伸ばした月美が待ち構えていた。

「捕まえたー!」

 しかしそれを察知したのか、月美の腕の中に飛び込む直前で毛玉は進路を90度変更。無事に回避したかと思いきや、残念ながらそこには辰真が待機していた。

「よしっ」

 辰真は毛玉を両手でしっかりとホールドする。毛玉は逃げ出そうともがいているが、男子大学生の腕力に負けるあたりそれほど力は無いらしい。


「ヒパヒパ!」

「やりましたね森島くん!」

 月美とメリアも辰真に近付いてきた。既に大人しくなっていたので、辰真も腕の中の毛玉の観察を試みる。感触は縫いぐるみのように柔らかく、毛並みも猫のように滑らか。危険な所は何もないように見える。しかし__


「どうしました?」

「痛っ」

 ゆらゆらと揺れていた毛が急に逆立ち、辰真の腕全体をちくちくとした刺激が襲う。大した痛みではないものの、驚きで手を緩めかけた瞬間、毛玉は素早く逃げ出そうとする。掴み直そうとして前方に手を突き出し、はずみでバランスを崩した辰真は、毛玉もろともプールへと落下した。


「タツマ!」

 水中でもがきながらも毛玉を掴んでいた辰真だったが、今度は毛玉の温度がどんどん上昇し始める。同時に体色も緑色から黄色へと変化を始める。やがて完全なレモンイエローとなり、掴み続けるのが難しいほどの温度になった毛玉は、とうとう辰真の手を離れて蒼水の彼方へと消えた。


「森島くん、大丈夫ですか?」

 メリア達の手で辰真は救出されたものの、謎の毛玉は再び行方不明になってしまった。一行が計画を立て直そうとしていたその時、場違いな電子音が周囲に鳴り響く。その発信源は、月美が手首に付けている厳ついブレスレットのような物体だった。

「あ、着信です」

「何だそれ、波動通信機か?」

「はい!防水タイプの試作品を貸してもらったので、せっかくだから持ってきたんですよ。いつアベラント事件の連絡があるか分かりませんから」


『もしもし、稲川君か?』

 通信してきたのは、予想通り城崎教授だった。

『今君達のいる付近で、異常な熱波が起きてないか?』

「ビンゴです!今森島くん達とプールにいるんですけど、急に周囲が熱くなったかと思ったら、毛玉みたいな生き物が降ってきたんです。異次元生物ですよね?」

『熱波と共に毛玉のような生き物?詳しく聞かせてくれ』

 これまでの経緯を月美達に聞いた後、先生は早くも正体の絞り込みを始めていた。

『今までの情報からだと、僕の知識では該当生物は一種類しか思いつかない。そいつはソルパサランかもしれない』

「ソル……パサラン?」


『ああ。ケサランパサランの仲間と思われる生物で、南米でしか目撃報告がない。聞いた話ではエルニーニョ現象のために海水温が上がっている時期に時々現れるらしいね。特に海の上を浮遊している所を船乗り達に目撃されるケースが多いようだ。今回の状況と似てると思わないか?』

「確かに、この熱さとプールに現れたシチュエーションは一致してますね!他に特徴はありますか?」

『それが、これ以上の情報はほぼ無いんだよ。何しろ海上でしか目撃されてないし、ボートで近付こうにもあまりの熱さで諦めたという話もある。ソルパサランに触れた人間は、森島君が史上初なんじゃないかな」

「オー、すごいですネ!」

「いや、本来なら熱さで動けなかったんだから、全面的にメリアのお陰だよ。じゃあ先生、ソルパサランの生態とかは殆ど分からないんですね?」

『そういう事になる。ソルパサランが気温上昇を引き起こしているという説もあれば、その逆で温度上昇に引き寄せられているという説もあるが、何が真実なのかは不明のままなんだ。そこで君達に頼みがある』


 先生は一旦言葉を切ると、こう続けた。

『今の君達は色々な条件が重なったおかげで、非常に恵まれた立ち位置にいる。つまり、ソルパサランの生態について観察したり、うまくすれば捕獲できる状況にいるわけだ。そこで、ソルパサランの捕獲を頼みたい。こんなチャンスは滅多にないからね』

「ですが先生、特災消防隊あたりの方が暑さにも強いんじゃないですか?」

『そうとも限らないさ。ダイガと戦った時の事を思い出してごらん。防火服は必ずしも熱に強い訳ではないし、素早い動きも不得手なんだ。彼らを派遣するより、君達にそのまま動いてもらった方が効果的だと思うね』

「なるほど!じゃあ、わたし達の今の装備が捕獲に最適ということですね?任せてください」

「ワタシもガンバります」

 月美達はやる気充分だが、辰真としては不安でならない。最適な装備と言っても、実質は単なる水着である。まさかこんな格好で探索をする羽目になるとは、本当に大丈夫なのか?


『では、頼んだよ。ソルパサランについて、何か役に立つような情報がないか僕の方でも引き続き調べてみる。何かあったら連絡してくれ』

 そう言い残すと先生は通信を切る。そして、月美達のソルパサラン捕獲作戦がスタートした。


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