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第35話 太陽が来た 1/4

「遅れて来た猛暑!?秋の大熱波

 ここ数日、揺木市内の各地で記録的な熱波が発生している。その気温は場所によっては40度近く、真夏にも引けを取らないほど。しかも不思議なことに、熱波の影響は最大でも範囲数km程と局所的で、数時間で収まったという報告もある。異常気象の影響なのか、はたまた何らかの異次元生物の仕業なのか。市内の用水路や溜め池が次々と干上がっている現象との関係も気になる。いずれにせよ原因は調査中だが、市民の皆さんは適度な水分補給を心掛け、熱中症には充分注意して欲しい」

(揺木日報社会面の記事より抜粋。記者:綾瀬川絵理)


「ぁ……暑い……」

 森島辰真は、揺木街道の端をフラフラと彷徨っていた。周囲の大気は全てが熱波に晒され、生命維持が危ういレベルにまで温度が上昇。アスファルトからは大量の陽炎が立ち昇り、視界に入る景色がじわじわと歪み始めている。茹で上がりかけた頭脳で考えても、この暑さは明らかに異常だ。真夏でさえこれ程の暑さになることは稀なのに、今は10月、残暑にしても遅すぎるくらいなのだから。この暑さに殆どの揺木市民は耐えられず、ステイホームを敢行しているようだ。全く正しい判断だと思う。俺だってエアコンさえ壊れてなければ、家から出たりしなかったのに。


 そう、辰真の部屋のエアコンは絶妙なタイミングで壊れてしまい、修理は最低でも来週になるらしい。大学に逃げ込むことも考えたが、最悪なことに今日は設備メンテナンスで大学の敷地に入ることが不可能。追い詰められた辰真は、涼しい場所を求めて屋外へと飛び出さざるを得なかったのである。しかしこんな状態で、まともに営業している場所なんてあるのだろうか?


 ……そう言えば、以前にもこんな暑さに襲われたことがあった。確かあちこちで停電が起きていた気がする。あの時はどこに避難したんだったか……辰真は朦朧とする頭脳を回転させ、記憶を頼りに街道を南に下っていった。


「タツマ、アローハ!ささ、入ってくださいネ」

 辰真が辿りついたのは、ハワイアン料理店のSDAHLだった。看板娘でありYRKメンバーでもあるメリアが彼をお出迎えする。……そうだ、今更思い出したが、コピアヌィラ事件の時も、似たような流れでここに来たんだった。


「はい、サービスですヨ」

 メリアが出してくれたココナッツウォーターを一気飲みし、辰真はようやく一息つく。

「ふう、助かったよメリア」

「お外はどうですカ?」

「ああ、めちゃくちゃ暑い。死人が出てもおかしくない」

「アウエー……たしかにサイキンのヤーパナ(日本)は、ホームよりもずっと暑いですネ」

「おかしいよな、夏でもないのに。ハワイだと、暑い時はどうやって過ごしてるんだ?」

「アウ イ ケ カイ!つまり、海で泳ぐのが一番ですヨ!」

「そっか、向こうは一年中泳げるもんな。近くに海があれば、俺も泳ぎに行きたいよ」

「それなら、一緒に泳ぎに行きませんカ?」

「一緒に?そりゃ行きたいけど、揺木に海は無いからなあ。泳ぐなら波崎まで出ないと行けないし、今の季節じゃ海に入れないかもしれないしな」

「ノンノン。これがあるですヨ」


 メリアが見せてきたのは、涼しげなプールサイドの写真が印刷された2枚のチケットだった。

「これは、揺木市民プールの?」

「アエ。ここならずっとオープンしてるですネ。チケットも余ってるし、イッショに行きませんカ?せっかく水着も用意したのに、ハザキでは泳げなかったですから」

「…………」

 辰真はしばし考えた。メリアと2人でプールに行くだって?俺、前世でどれだけの善行を積んだんだろう。チケットもあるようだし、折角の誘いを断るのは揺木市民として失礼にあたる。間違いない。

「OK。じゃあお言葉に甘えて、一緒に行こう」

「ヒアアイ(嬉しい)!キエレ、ちょっと出かけきても__」

 メリアが立ち上がって叔父に呼びかけようとした、その時だった。


「ちょっと待ったぁぁ!」

 テーブル脇に突如として出現した人影が、2人の間に割り込む。そう、それは稲川月美であった。

「ツキミ!?」

「稲川、いつの間に?」

「ついさっき入店したばっかですけど、話はずっと聞いてました!そんな事より森島くん、この異常な暑さの原因は間違いなく異次元生物の仕業です。調査に行かないと!」

「え、調査なら先にやっといてくれないか?俺はメリアとプールに行くから」

「そんなことは神様が許しません!」

「何で!?」


 何故かは不明だが、強硬に辰真を調査に連れて行こうとする月美。図らずも月美とメリアの板挟みになってしまった。

「とにかく調査に行きますよ。被害が広がっていくかもしれないのに、遊んでる場合じゃありません!」

「そうは言うが、もう少し情報が集まってからの方がよくないか?闇雲に探しても、熱中症になるかもしれないぞ」

「アエ。ツキミも暑さのせいで疲れてるです。リラックスした方がいいですネ」

 そう言うとメリアは、エプロンのポケットから3枚目のチケットを取り出した。

「もう1枚あるですヨ。ツキミも一緒に行きませんカ?」


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