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第34話 マイクロスコーピック・ジャーニー 1/5

(前回までのあらすじ)

 揺木に現れた「幻の蝶」を追っていた辰真と月美は、怪しい男が落としたオルゴン装置の光を浴びた影響で全長約2cmにまで縮小してしまった。2人は元の姿に戻るため、再度幻の蝶を探し始めるが、巨大なアリと遭遇したのと同時に更なるサイズの縮小が始まってしまう__



 たった2ヶ月ほど前、わたし達は恐るべき体験をした。異次元社会学研究室に入って早半年、怪獣や異次元人と遭遇するようなスリリングな体験は数えきれないほどしてきたけど、あの時ほど命懸けの、強烈な体験は無かった……ように思う。


 思えばあの事件が始まったのは、異世界の探索を行う暫く前、薄明山の近くにゾグラスの足跡を調べに行った時……だった気がする。あの場所で入手した魔石メギストロンに、わたし達は翻弄されていった。そしていつの間にか魔石に魅入られ、石が発する異世界の幻影が頭から離れなくなり、結果としてあの異世界、冥海への旅へと駆り出された……のだと思う。


 先ほどから曖昧な言い方ばかりなのは、未だにあの頃の記憶がはっきりしていないからだ。特に魔石に取り憑かれ、奇妙な言動をしていた(らしい)時の記憶が。後から話は聞いたけど、例の本を読み込んだり、不気味な話を語っていたような記憶は全く無い。自分ではない別の人格が憑依していたのでは?と思う事さえある。


 でも、異世界に足を踏み入れてからの行動は、ぼんやりと覚えている。その頃のわたしの意識は蜃気楼のようで、例の神殿に向けて黙々と足を進めたり、手帳に手記を書き込んだり、いつの間にか所持していた古書を読み返したりといった自分自身の肉体的行動を、他人の言動を横から眺めているようなイメージで脳の片隅で傍観していた、そんな風だったように思う。今考えると、やっぱりあの時の自分は何らかの意思に操られていたに違いない。多分、あの本を最初に読んだ時から、その意思は脳内に入り込んでいたのだ。それは徐々に思考を支配して、わたし達が異世界へと旅立つよう仕向けた。そして溟海を彷徨っている頃には、ほとんど乗っ取られかけていたのだ。わたし自身の意識が消えかかるほどに。


 でも、辛うじてわたしは自我を取り戻し、溟海への旅から帰還することができた。それはココムの繭玉をくれた玲やメリアのお陰でもあるし、おそらく翼竜の追撃から助けてくれたトバリの尾羽のお陰でもあるし、行方不明になっていたわたし達を迅速に捜索・救助してくれた先生達のお陰でもある。そして何より、あんな状態のわたしを見捨てないで最後まで助けてくれた森島くんのお陰だ。今まで口にする機会はなかったけど、あの時の恩返しがしたいってずっと思ってた。その機会が、こんな時に来るとは思わなかったけれど。とにかく、今度はわたしが守る番だ。


 この状況を切り抜けるためには、まずは乗り越えなければならない。目前の脅威と、過去の恐怖を……あの時、神殿の最深部でわたしは一瞬だけ目撃した。闇の中に蠢く巨大な異次元生物の全貌。幸運にも、長い時間視認したわけではない。仮にそうしていたら、心が完全に壊れていたかもしれないから。それでも、その姿は記憶の奥底に焼き付いているはずだ。思い出せないのは、多分記憶から無意識に目を逸らしているから。わたしの心には、未だに恐怖が巣食っている。でも、いつまでも恐怖に怯えているわけには行かない。生き残るためには、立ち向かわないと。


 月美は決意を固め、すっくと立ち上がる。そして、力なく地面に倒れている辰真を庇うように前方へと歩いて行き、眼前に迫る脅威と対峙した__



 もはや人間社会からの捜索は不可能なレベルのミクロ空間で、未知の異次元微生物の脅威に1人立ち向かおうとする月美。この状況に至った理由を説明するためには、時計の針をしばらく巻き戻さなければならない。巨大なアリと遭遇した直後、更なる縮小化が始まってしまった時まで。


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