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第31話 揺木市防災訓練記録 〜SOS薄明山〜 4/5

〜岩石怪獣ペトロス登場〜


「それで奴の弱点は?やはり核の部分ですか」

 ムベンベ車内で、駒井司令が教授に問いかける。

『ええ。核を破壊すれば完全に崩れ落ちますが、既に体の再構成が始まっています。攻撃するには表面の岩を破壊する必要があるかと』

 城崎教授の言葉通り、白い岩を取り囲むように浮遊していた黒い岩石群は、白い核を覆うように次々と結合し始めていた。間もなく白い部分は完全に覆い隠され、最初に現れた時のような真っ黒い岩塊の姿へと戻ったが、それでも合体は止まることはなかった。気付けばペトロスが出てきた地面の裂け目の中からも、黒い岩が次々と浮上してきている。当初よりも更に大きく自身を拡張させ続ける岩石生命体。その拡大が止まった時、ムベンベの前には異形の存在が屹立していた。梯子車をも見下ろすほどの背丈。大地を踏みしめる二本の脚と、その背後に引きずられる尻尾。背中から生える二枚の翼。そして二股に分かれた首。それは、怪獣としか言いようのない姿だった。


 突然怪獣のような輪郭へと変貌したペトロスを、一同は呆然と見上げていた。

『これは一体……?』

 司令の呟きに、ドクターが平然とした口調で答える。

「ふむ。あのようなトランスフォームはペトロスならではの特性だ。ペトロスは周囲の地盤を構成する岩を使用して身体をイクスパンドするが、その時に岩から何らかの情報を読み取っているらしいのだよ。というのも、ペトロスがトランスフォームする姿というのは、その地域に生息する、または過去に存在した生物と奇妙にも一致しているわけだ。つまり、ここユラギであればカイジュウの姿になるのは自然と言える。そうだろうジュンイチ?」

「確かに、おっしゃる通りです。あんな姿の怪獣は記憶にないですが……」


 そんな教授達の話を一つ後ろの席で聞きながら、月美が辰真に問いかける。

「わたしも、揺木であんな姿の怪獣は知らないですね。森島くんはどうですか?」

「いや、俺も知らないな」

 あんな双頭のドラゴンみたいな怪獣に出会ったことはないし、過去の記録にしても、月美や先生も知らないような存在を辰真だけ知ってるなんて事は考えられない。その筈なのだが、何故か辰真の脳は、あのシルエットに対して僅かな既視感を訴えていた。どんな形であれ、あんな姿の怪獣を目撃したことは無いというのに。では、この既視感は一体どこから?辰真は脳細胞を活性化させようとするが、上手くいかない。記憶領域の一部に靄がかかっているかのような感覚。それでも思い出そうとするうち、突如として彼は頭痛に襲われる。

「っぐ…………」

「森島くん大丈夫ですか?」

「いや、平気だ」


 一方のペトロスは、新たに手に入れた二枚の羽根を大きく羽ばたかせ始めていた。周囲に突風が巻き起こると共に、怪獣の体全体が浮遊を開始する。

「あいつ、あの巨体で飛べるのかよ!」

『岩を飛ばしてくるかもしれません。防御の準備をしてください!』

 城崎教授の警告通り、ペトロスは上空10mほどで滞空した後、身体から一部の岩を分離させ始めていた。

「よし、じゃあこの機能を試してみよう。メインラダー変形!」

 袋田が高らかに叫ぶと共にスイッチを押す。すぐにラダーが縦に四分割されると共にグローブが内部へと格納され、代わりに細長い棒状の物体が出てきた。


「おい袋田、何だよあれは?」

「すぐに分かるよ」

「袋田以外は前方を注視しろ。怪物が何か仕掛けてくるぞ!」

 隊長の言葉通り、ペトロスは攻撃体勢に移ろうとしていた。羽ばたきで突風を巻き起こし、大量に浮遊させていた岩石群を自分の前方180度に一斉に振り撒いたのだ。突風によりテントは軋み、見学席の人々も地面へと押さえつけられる。そこに大量の石飛礫が迫り来る__!


「宇沢!」

「了解」

 返事よりも早く、宇沢は梯子車を発進させていた。テントを庇うようなポジショニングへと滑らかに移動していくムベンベ。同時に袋田のコンソール操作が完了し、棒状物体に変化が起きる。本体に巻き付いていた部分が起き上がり、棒の先端を中心とした円形のシールドが張られていく。もっと分かりやすく言うと、それは巨大な傘だった。ムベンベを、そして見物席を守るように張られた傘のシールドは、飛来する岩石をしっかりとシャットアウトする。それだけでなく、柄を回転させることでペトロスの方に次々と岩を弾き返していく。


「どうだ、これが攻防一体の新機能、アンブレラ・ラダーの力!」

「そしてあの布は、消防庁が新たに採用した新素材製!何を隠そう僕が調達してきたわけだが」

「あーそうですか」

 ともあれ、投石の効果が見込めないを悟ったのかペトロスは岩石を飛ばすのを中断した。


「よし、今度はこちらからだ」

「了解!」

 隊長の命令で、再びラダーはグローブへと変形。上空30mにまで届くロケットパンチ・ラダーの拳がペトロスを打ち抜かんと何度も突き出される。だが、浮遊するペトロスの動きは意外にも素早く、左右に動いて全ての攻撃を躱されてしまう。

「ちっ、ちょこまかと動きやがって」

「そもそも、あいつはどうやって浮遊してるんだ袋田君!?あんな翼じゃ飛行なんてできないだろう」

「軽く分析した感じだと、体の拡張や浮遊にはオルゴンエネルギーを使用しているみたいだね。クリッターだったらクラウドバスターをぶつければエネルギーを相殺させて撃ち落とせるかもしれないけど、ムベンベは物理攻撃がメインだし……」

「そうか、訓練だったのが災いしたな。最初からクリッターで来ていれば……」


 重苦しい空気を漂わせ始めた時島と袋田を一喝したのは、意外にも高見だった。

「馬鹿野郎!そんな事今言ってもしょーがねーだろうが。今ある物で何とかする方法を考えんだよ!」

 その言葉にハッとする2人。更に隊長も畳みかける。

「高見の言う通りだ。これは既に訓練ではない事を忘れるな。本番では常に、想定を超えた事態が起こり得る。普段のお前達なら、そんな事は言われずとも分かっている筈だが」

「……確かに、我々は心のどこかに油断があったかもしれません。訓練の気分を引きずった、気の緩みが」

「そうだよ!ムベンベにだって、この苦境を切り抜ける手段がきっとあるはずだ」

 袋田の主張に、宇沢も運転席で賛同のクラクションを鳴らす。彼らの心は再び一つになった。まずは、ペトロスに攻撃を通すための突破口を見つけなければ。


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