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第30話 廻れよカメ 4/4

 13:00 PM


 第一校舎の中庭。最初にグノーミーが現れたこの場所に、辰真達は先回りして張り込んでいた。生け垣の奥に身を潜めながら、亀が出現する筈の中庭中央を見張っていると、午後の授業開始を告げるチャイムがキャンパスに鳴り響いた。

「試験が始まってしまった。さよなら、俺の単位……」

「もう、気にしすぎですよ。それにしても、こうやって何度も時間をループしてると体内時計がおかしくなりそうですね。またお腹が空いてきた気がします」

 緊張感のない会話をする辰真と月美を制すように、シェセンが短く告げる。

「静かに。あれを見てください」


 彼女が指差した先、中庭の中央部分に、先程までとは明らかに違う変化が生じていた。どこからともなく、キラキラと光る金色の粒子が発生して周囲を漂い始めている。その外見はグノーミーが振り撒いていたタキオン粒子にそっくりだが、カメの姿はまだ見えない。これはどういう事なのか。辰真達が戸惑っていると、粒子が密集している一点に突如として小さな物体が出現した。


 それは植物だった。細長い茎の先に小さい葉が密集して生え下がり、生きた線香花火のような外見だが、最大の特徴は全体が金色に輝き、風に吹かれて揺れる度に金の粒子を振り撒いている点だ。

「タイム・パピルス……!」

 シェセンが息を呑む。

「何だって?」

「タキオン属性を持つ異次元植物です。もしかするとグノーミーは、これの出現を予測して__」


 次の瞬間、彼らの頭上に影が落ちる。中庭へと飛来したグノーミーは、黄金のパピルスにゆっくりと近付いていく。カメの目的があの草なのは疑いようがなかった。

「不味いですね。あれを捕食されると、再びタキオンエネルギーがチャージされてしまいます」

「そんな!また最初からやり直しなんて……」

 そう、ここで捕食されたら今までの彼らの努力は台無しだ。なんとしても阻止しなければ。辰真は意を決して生け垣から離れ、カメの真後ろへと回る。


 タイム・パピルスにゆっくりと接近するグノーミーを、そろりそろりと追跡する辰真。あまり近付くと気付かれるリスクがあるが、遠すぎても捕食を止められなくなる。位置取りはかなり難しい。


 苦悩しつつも早足で尾行を続ける辰真だったが、彼が充分に接近しきる前にグノーミーはパピルスまで1mほどの距離まで到達してしまった。こうなったら止むを得ない、捕食の直前を狙って一気に飛びつくしか__


 跳躍の姿勢に入った辰真が膝を伸ばす直前。彼及びグノーミーの目前に、別の影が飛び込んで来た。亀とパピルスの間に割り込んだ月美が、そのまま横たわりながらパピルスをホールドしている。

「!?」

 突然の事態に動きが止まる亀と辰真。だが臆病なグノーミーは、すぐに硬直状態から回復して時の巻き戻しを始めようとする。しかし、更にその直前、月美が手にしたパピルスを揺すってタキオン粒子をグノーミーへと大量に振りかけた。タキオンによる目潰しを食らった亀が顔を背ける。


「森島くん、今です!」

 月美の掛け声に触発され、辰真は跳躍して亀の背中に飛びつく。既に周囲の世界は収縮し始めているが、構わず甲羅にしがみつきながら手を伸ばし、もう一本のエネルギー帯を引き抜く。抜けた!確かな感触を得た次の瞬間、彼の身体は亀から離れ、そのままタイムトンネルへと放り出された。



 12:00



「……ここは」

 気付いた時には、辰真は中庭の中心で転がっていた。月美とシェセンが心配そうに見下ろしている。そして右手のエネルギー帯は、やはり崩れて消滅していく所だった。

「今、何時だ?」

「12時過ぎです。ですが、もうこれ以上巻き戻ることはありません。グノーミーはタキオンを使い果たしました」

「そりゃ良かった。でも、最後の瞬間は一体何があったんだ?時間が巻き戻ってる途中なのにタキオンを引き抜けた気がするんだが」

「グノーミーが時を巻き戻すよりも一瞬早く、稲川さんがパピルスで時間を巻き戻しました。その影響でグノーミーの周囲の時間が数秒だけ停止したようです。……あんな現象が起こるとは、思いもしませんでした。まさか、知っていたのですか?」

「いえいえ、偶然ですよ。あの時は必死でしたから」

 月美が首を大きく横に振って否定する。だが、その機転のおかげで助けられたのは間違いない。


「そういえばグノーミーは__」

 まだ来てないか、と言いかけながら空を見上げた辰真は、あるものを見つけて言葉を止めた。上空から彼らを見下ろすように浮遊しているのは、まさしくグノーミーであった。金の粒子を失いつつも、なお悠々と空中を遊泳する廻りの亀は、何度か上空を旋回した後、薄明山の方角に飛び去っていった。

「どうやら危機は去ったようですが、念のため、タイム・パピルスは後で私が回収しておきます。ご協力ありがとうございました」

「こちらこそ、アベラント事件解決への協力ありがとうございます!今後ともお願いしますね」


 シェセンと別れた後、辰真と月美は再度食堂へと向かっていた。

「本当に占星術を使えるとは、世の中には不思議な奴がいるもんだな」

「そうですね。もっと時間があれば、わたし達のことも占って欲しかったんですけど……まあ、またすぐ会えますよ!」

 辰真は正直占いに興味は薄かったが、時間があればシェセンに聞きたいことはあった__のだが、それが何だったのか、今となっては思い出せない。先ほどまで気になっていた事の筈なのだが……

「それより、せっかく試験に再挑戦できるんだから、一緒に予習しましょうよ。試験内容は変わってないはずですから……ね?」

「そ、そうか!よし、早速予習に行くぞ!」

 こうして、時の巻き戻しによって僅かながらアドバンテージを得た辰真達は、無事に単位を確保できたのだった。


 一方、シェセンは立ち去る二人を見送りながら、口元に薄く笑みを浮かべていた。

「城崎研究室の森島辰真と稲川月美……予想以上の逸材ですね」

 様々な異次元事件の経験と知識、機転。そして何より、あの特殊体質。

「彼らならば、再び見つけだしてくれるかもしれません。我が一族の使命……魔石メギストロンを」


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