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第28話 恐怖の蜂鮫大襲撃 3/4

 一方その頃海水浴場では、学生達が心配した通りの惨状が巻き起こっていた。水着姿の人々で賑わう砂浜。そんな中、観光客の1人が沖に目を向けて違和感を覚えた。何かが砂浜に向かって海上を走り寄って来る。それは漁船のようだったが、周囲に黒い点のような物が多数群がっているように見える。


 やがて船が接近するにつれ、黒い点の正体が露わになった。それは異海の神秘にして、ビーチにとっての悪夢。羽根の生えた飛行ザメの集団だったのである。サメ軍団は船を追い越し、我先に浜辺へと押し寄せてくる。

「サメだー!」

 1人の叫びに反応して、観光客達も次々と異変を察知した。そして、その大部分はサメを確認した瞬間パニックへと陥る。


「キャーッ!」

「邪魔だ!」

「ママー!」

 迫り来る蜂ザメを背景に、浜辺を右往左往する群衆。鳴り響く警報の音。「こちらに避難してください!」と叫ぶライフセーバーの声も、人々の耳にはなかなか届かない。

 ようやく人の流れが海水浴場の出口に向かい始めた頃には、サメ軍団は波打ち際にまで接近していた。砂浜に打ち捨てられた浮き輪やパラソルが、サメ達に群がられてズタズタになっていく。人々の避難が数十秒遅れていたら、現場は目も当てられない事になっていただろう。


「こりゃ、酷いな」

 息を切らしながらも海水浴場に辿り着いた学生達は、坂の上からその惨状を見下ろしていた。

「でも、皆が避難済みで良かったですよ。それにあの子達、陸地の奥までは入ってこないみたいですし」

 月美が指差したとおり、サメ達が暴れ回っているのは海からせいぜい数mの所までで、それよりも陸側には進出していなかった。

「あいつらの生態はまだ分かんないけど、飛行はできても海からあまり離れられないのかもしれないぜ」

「それなら一安心ね。後は弱点を伝えれば」

「ウィークポイントでマノーをツイホウですネ!」

 そう、ミカンや魚をうまく使えば、サメ達の興味を引くことができるかもしれないし、沖の方への誘導も可能だろう。しかし……

「波崎市の警察署、やっぱり電話繋がらないです。市民の皆さんの通報が殺到してるのかも」

「でも、ここから下に行くのは危険すぎるな。サメの群れの真ん中に降りることになる」


 電話も通じず、直接浜辺に降りることもできない。辰真達が崖の上で孤立してしまったその時だった。

「おーい諸君!こっちだ!」

 聞き覚えのある呼び声を耳にして、一行は崖の下を覗き込む。海水浴場からやや離れた、小さな入り江のようになっている場所。サメの被害が及んでいないその場所に、一艘の小型クルーザーが近付いてきていた。そしてデッキから手を振っているのは、我らが米さんこと米澤法二郎その人だった。


 岩場から崖下に伸びる細い階段を下り、辰真達5人はクルーザーへと乗り込む。

「米さん、助かりました!」

「でもこの船、一体どこから……?」

 玲が甲板を見回しながら問いかける。小型とはいえかなり立派な造りのクルーザーで、2階の甲板は6人を乗せても充分なスペースがあり、1階部分にはキャビンも設置されている。レンタルするだけでも相当金がかかりそうだ。

「なに、怪奇博物館のオーナーに借りてきたのだよ」

「……博物館のオーナーから?」

「うむ、元々館長とは知り合いでね。本来は明日の標島渡航用に借りる予定だったのだが、非常事態なので一日前倒しで貸してくれたというわけだ」

「じゃあ、標島にもこのクルーザーで行く予定だったわけですか……」


 こんな高価そうなクルーザーを所有していて、ポンと貸してくれる館長って何者なんだろう。波崎怪奇博物館のオーナーというだけで只ならぬ人物なのは間違いなさそうだが。

「それだけじゃないぞ。稲川君からの連絡が入った後、追加の品が入り用になったと話したら、快く準備に協力してくれたのだ。つまり、これをだ!」

 そう言いながら米さんが、甲板の隅に置かれていた荷物らしき物体、の上に被せられていた布を取り去る。

「こ、これは!」

 出てきたのは二つの木箱。一つには波崎特産の柑橘類こと小波が、もう片方には波崎港で獲れたと思しき青魚が、ぎっしりと詰まっていた。

「……波崎の名産品詰め合わせですか?」

「そうだけど違う!君達が突き止めた、蜂ザメの好物に決まってるだろう。館長のツテで、短時間にも関わらずこれだけかき集めてもらったんだ。ここに船と好物が揃った……もうどうすべきか分かるね?」

「ラワマノー、つまり、サメ釣りですネ!」

「その通り。今からこの魚とミカンで、あのサメどもを沖合いへと誘導する!現在港の周囲は、灯台の修理に来ていた海上保安庁の巡視船達が封鎖している。彼らにも連絡が行っているから、我々が向かっても不都合は無いだろう。さあ、分かったら早速出発だ!」


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