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第27話 海中からの贈り物 3/4

 夜の砂浜に人影は無く、岬の反対側に聳える波埼灯台の光が、暗い浜辺を時折照らすのみ。言わば貸し切り状態の海岸で、YRKメンバーが思い思いに光の花を咲かせる。


「見たまえ、僕の編み出した回転花火戦法「モンゴリアンデスワーム」ッ!」

「ワオ!」

「すげー、米澤先輩、師匠と呼ばせてください!」

「はいはい、危ないから一人で遠くでやっててくださいね」


 ススキ花火やスパーク花火など、各々が好きな花火を手に持って楽しんでいる中、辰真はバケツに水を汲みながら月美の様子を窺っていた。彼女は玲達と一緒に、火花が迸る様子を見守っている。その瞳は星空のように輝き、少し前までの異常さを微塵も感じさせなかった。その様子を見て、少なからず安堵感を覚える辰真。やがて視線に気付いたのか、月美が彼を手招きした。

「ほら、森島くんも見てないで、一緒にやりましょう!」


 持ってきた全ての花火に火を点け、最後の線香花火の玉が落ちたところで、一行は撤収の準備をする事にした。そして、見慣れぬ物体が落ちているのに気付いたのは、彼らが浜辺を掃除している最中のことだった。


「森島くん、これ、何だと思います?」

 月美が指差す先には、変わった形の石のような物体が転がっていた。

「ん、何だこれ」

 辰真がそれを拾い上げて眺める。野球ボール大の大きさで、球形だが表面に無数の凸凹がある。例えて言うなら、巨大な金平糖のような物体だ。くすんだ色をしているが、灯台の光を浴びると青白く発光するのが分かる。そしてよく見ると、似たような物体が浜辺のあちこちに打ち上げられていた。


「ねえ、何なのこの石?」

 やがて他のメンバーも集まってくるが、これが何なのか即答できる者はいなかった。

「海岸に散らばる光る石……待て諸君。ひょっとすると、これが「地上の星」なのかもしれない。つまり「地上の星」は、海から来たということか!……これは盲点だった」

「海から来たって、これがヒトデか何かとでも言うつもりですか?」


「いや、これはヒトデじゃないと思う」

 いつものように妙なことを言いだす米さんに玲がツッコミを入れる横で、マークが石を観察する。

「こんな棘皮動物は見たことがない。何かの抜け殻とかでもなさそうだな。まあでも、どっちかというと陸じゃなくて海から来たような気はする。単なる直感だけど」

「ほら見たことか。やはりこれは、「地上の星」なのだよ」

「米さん、さっきから言ってる「地上の星」ってのは何なんですか?」

「忘れたのかね?ナムノスが現れたのは「地上に星が降り注いだ夜」だったという事を。すなわち、この星達はナムノス出現の予兆と考えられる」


「はあ、またそんな世迷言を。いいからもう帰りましょう__あれ、メリアは?」

 そう言えば、先程からメリアの姿を見ていない。一行が慌てて周囲を見回すと、彼女はくるぶし辺りまで海水に浸かった状態で沖の方を見ていた。


「メリア?」

 辰真が声を掛けると、メリアが小声で呟くのが聞こえる。

「……来ます。何かが、ウミの中から」

「何かが、来る?」

「アエ。マナは持ってないですが、大きくて強い子がこちらに来るのを感じますヨ」

 メリアは何かの接近を感じ取っているらしい。だが辰真の目に映るのは、細波が静かに打ち寄せる暗い水面のみ。どこにも違和感など……否。よく見てみると、水面の一箇所が明るい水色の光に照らされているのに気付いた。まるで水中から強力なライトで頭上を照らしているかのように。


 そして、水色の光が段々と巨大になるにつれ、水面が少しずつ盛り上がっていく。巨大な質量を持った物体が、海底からゆっくりと浮上してくる。一行が身動きもできないまま見守る中、それは水面を押し割るようにして海上へと姿を現した。


 淡く発光する、小山のような大きさの青い胴体。その輪郭は黄色く縁取られ、背中にも黄色い斑点。頭部と見られる部分には二本のオレンジ色の触覚。いずれの部分も発光しているため、全体的にカラフルな印象を受ける。全身は丸みを帯び、ヒラヒラしたヒレのようなパーツもあちこちに付いている。そして触覚含む頭部はのっぺりしており、表情を全く読み取ることが出来ない。


「こ、これが龍神……?」

「正確に言うとナムノスだな。しかし……」

 玲、そして米さんが言う通り、それは咲浜神社に伝わる海の守護神・ナムノスと考えるのが自然であった。だがその全体像は、ナムノスとはまた別の生き物を思いがけずも彼らに想起させた。


「これはどう見ても……ウミウシだな」

 一行を代表して、マークが感想を述べる。そう、ナムノスの外見は、龍神でもUMAでも宇宙生物でもなく、全長10m越えの巨大なウミウシにそっくりだったのである。


 海底より浮上したナムノスは、辰真達のいる砂浜へと今まさに進軍を始めんとしていた。だがその直後、眩しい光がナムノスの触覚を眩ませ進路を阻む。定期的に海岸を照らす、波埼灯台の光によるものだ。ナムノスが発光源の方へ触覚を向けると、触覚の先端から何かが飛び出した。白くて表面が凸凹した金平糖のような物体。彼らには見覚えがあった。それは明らかに、浜辺に大量の打ち上げられていた「地上の星」だ。やはりあの星々は、ナムノスと共に海底からやって来ていたのだ。


 ナムノスの涙のようにも見える白い星は、流星のように尾を引きながら夜空を横切り飛んでいく。そして灯台に接触した瞬間、真っ白い閃光と破裂音が夜空に迸った。間髪入れず、更に三発の流星が灯台へ激突する。連鎖爆発により夜空が白く塗り潰され、思わず目を閉じる一行。そして音と光が収まった後、再び目を開けた彼らの視界に飛び込んできたのは、波埼灯台の上部三分の一ほどが胴体から分離し、そのまま落下していく光景だった。


 灯台の頭部が海面へとゆっくりと落下し、巨大な波飛沫が立ち上る。長年にわたって波崎の海岸全体を照らし続けた灯台は、今や光を失い、その役目を果たせなくなった。その様子を見て満足したかのように、ナムノスは触覚を砂浜の方へと向け直す。この時ようやく、一行は金縛りから解放された。

「逃げるぞ!」

 辰真の掛け声を合図に、彼らは海を背にして内陸側へと一目散に駆け出した。


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