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第27話 海中からの贈り物 2/4

 


 一行が最初にやって来たのは、波崎の有名観光スポットの一つである咲浜神社だった。波崎北部にある小さな砂浜「咲浜」。その名を冠した咲浜神社は、揺木の角見神社にも引けを取らない歴史を持つ名社で、この日も多くの参拝客が訪れていた。


「この神社は、角見神社と昔から関係が深くてね。神職同士の交流も盛んに行われているのよ」

 鳥居をくぐり、石段を登りながら玲が一行に解説する。

「白麦はここに来たことあるのか?」

「勿論、よく来るわよ。最近お守りと御朱印のデザインが変更されたから、丁度来たいと思ってたのよね。……どこぞの守銭奴巫女がいる神社みたいに、値上がりしないとも限らないし」

「そうか……」

 その守銭奴巫女も咲浜神社と意見交換している可能性はあるので、油断ならないというわけだ。神社側も大変だと思うが、節度を守った商売をしてほしいものである。


 参拝を終え、各々が境内を見て回っている中、辰真は参道の片隅に立てられた看板の前で足を止めていた。そこには咲浜神社が祀っている「ナムノス」なる神獣の説明が記載されている。

「タツマ、なんて書いてあるですカ?」

 メリアの質問を受け、彼は内容の要約を試みる。

「そうだな、昔この辺りの海でナムノスっていう怪物が暴れまわってたんだが、この神社の偉い人が法力で懲らしめたんだそうだ。怪物は反省して神社に宝物を差し出し、その後は海の守り神となったらしい。その宝物が今でも祀ってあるんだと」


「そうよ」

 作務所で買い物を済ませてきた玲が口を挟む。

「波崎の沖合いには、昔から海流が激しく渦巻いてる「波巣」と呼ばれるスポットがあるの。「ナムノス」は波巣に潜んでいると言い伝えられてきた怪物で、その名前は「波巣乃主」がなまったものと言われているわ。ある時、地上に星が降り注いだ夜にナムノスが突然上陸し、暴れ出した。そして、この神社を建立した應蔵上人がそれを調伏し、怪物は宝珠を差し出した。その宝珠が今でも本殿に祀られているそうよ」

 流石はYRKの代表と言うべきか、職員顔負けの説明である。


「そしてこのナムノス、正体は謎に包まれている!」

 今度は米さんが口を挟む。

「何しろ波崎でも一番有名な怪物であるからして、昔から識者の間では多くの議論が交わされてきた。一般には龍神とされているが、それに基づいたリヴァイアサン説の他にも、巨大な魚説やクジラの仲間説、巨大イカ説に宇宙生物説など多種多様。だがいずれにせよ、UMAだという見解は一致しているのだ!」

「米さん、いきなり口を挟まないでください!ナムノスは龍神信仰の一種と考えるのが自然です。UMAな訳ないじゃないですか」

「何を言う、我々の間では定説なんだぞ」

「そんな定説は「アトランティス」の中だけですっ!」


 言い争いを始める米さんと玲を横目に、辰真は看板に描かれたナムノスの絵を眺める。確かに龍にしては全体的に丸っこく、顔ものっぺりしている。強いて言うなら、昔見た妖怪図鑑に載っていた海坊主に近い。

「ナムノスって、どのくらい大きいんですカ?マヒマヒ(シイラ)くらい?」

「マヒマヒは分からんけど、この絵を見る限りだと10m以上はあるな」

「レイ、「地上に星が降り注いだ夜」っていうのは、どう言う意味なんですか?」

「流星群が観測された日ってのが定説ね。でも、近い年代で流星群が見られた記録が残ってなくて、時期は絞り込めてないみたい」


 月美の質問に答える玲だが、ここでも米さんが割り込んでくる。

「宇宙から、大量の隕石が地上に降り注いだという説もあるぞ!ナムノスもその時同時に地表に到達したという、ナムノス宇宙生物説の根拠だな。火星、じゃなかった、宇宙からの贈り物というわけだ」

「真面目に解説してるのに、茶化さないでくれませんか米さん?」

「何を言う、僕はいつだって真面目だよ」


 再び言い争いを始める米さんと玲。それを呆れた顔で見ながら、マークが辰真に尋ねる。

「なあタツ、YRKってのはいつもこんな調子なのか?」

「まあ……すぐに慣れるよ」


 そんなこんなで、「本殿に忍び込んで宝珠を拝みたい」と言い張る米さんを引きずりながら一行は神社を後にし、他の観光場所に向かった。中部の波崎港の端に建つ、市の資料館を併設した波埼灯台や、南部にある八沢総合美術館などを巡っているうち、あっという間に太陽は西に沈み、夕焼けが町を覆う。一行は宿に戻り、夕食をとることにした。


 咲浜から徒歩5分の距離にある小さな民宿「椿屋」。辰真がこの宿を選んだのは、揺木大学の学割制度の対象となっていたため相場よりもかなり安く予約できたからだ。


 家族経営のアットホームな雰囲気で、帰ってきたYRKメンバーを女将さんが笑顔で出迎えてくれる。

「お帰りなさい。どう、波崎は楽しんでる?」

「はい、お陰様ですごく楽しいです!明日は海水浴場に行くんですよ!」

「それは良かったわ。明日も天気はいいみたいだけど、この時期はまだ人も多いから、いい場所を取りたいなら早めに出発するといいわよ」

「早めにですね、了解です!」

「じゃあ食事の準備はできてるから、いつでも食べに来てね」


 夕食は、波崎港で獲れた地魚の活け造りとキンメダイの煮付け、それに天麩羅と名産のミカンという豪華ラインナップで、食欲旺盛な大学生達にも好評をもって迎えられた。


「ンー!このイッア(お魚)、甘くておいしいですネ」

「ああ、キンメダイは深海魚だけど、日本だと高級な魚として有名で、この辺りでは特に水揚げ量が多いんだよ」

「マークお前、本当に生物学専攻みたいだ」

「みたいって何だよ、みたいって」


「無論、波崎に伝わる怪物伝説はナムノスだけではない!UMA界隈では、「陸の揺木、海の波崎」は日本を代表する二大都市として有名なのだよ。もちろん日本政府を始めとする色々な組織の工作で、これらの情報は巧妙に隠されているがね。真実を知るのは、未だに検閲から逃れ続けている情報誌「アトランティス」の読者のみさ」

「わー、「アトランティス」って凄い雑誌なんですね(棒読み)」

「米さん、ナムノス以外だとどんな伝説があるんですか?」

「そうだな、他にメジャーなものと言えば、標島の半魚人伝説があるな。これについては明後日に、嫌でも知ることができるだろう」

「楽しみです!でも、標島って今は無人島で定期船もないんですよね。どうやって行くんですか?」

「それも明後日に分かるさ。楽しみにしていたまえ!」


「それでね、霧の洞窟でココムの親子に糸を吹きかけられたよ。あの時はもうダメかと思ったわね」

「幼虫の時点で全長2m超えのカイコか……ヨナグニサンより余裕でデカいな」

「マナを持ってるプレレフア(蝶/蛾)なら、ワタシの地元にもいるですヨ。でもどこかの島には、もっと大きくて、平和の神ロノの化身と言われるプレレフアがいるって噂ですネ」

「南海の孤島に眠る巨大蛾。神秘的ね」

「メリアちゃんの故郷ってハワイでしょ?いいよな〜、俺も行ってみたいよ」


 ひとしきり盛り上がった所で、既にビールを浴びるように飲んでいる米さんがやおら立ち上がる。

「注目だ諸君!宴もたけなわ、このまま二次会に突入するのも悪くないが、我々にはこれがある!」

 そう言って、背後に隠してあったビニール袋を掲げる米さん。その中には、近くのスーパーで買ってきた手持ち花火が大量に詰め込まれていた。

「カオレレ(花火)!」

「いつの間に!?」

「さっすが米さん!」

 揺大生達は、喜び勇んで夜の咲浜へと繰り出していった。


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