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馬車の中で

「…………」

「………………」


 村を出発してから数刻、マリアとレイヴンは一言も会話をする事なく、馬車に揺られていた。


 気、気まずい……! 


 マリアは居心地の悪さを感じ、ギュッとドレスの裾を握る。

 馬車自体は村で一番高級な貴族用の馬車に乗っているため、広さも座り心地も問題はない。

 むしろ羽のクッションのおかげで、普通なら痛くなるお尻が全然痛くないのだ。

 しかしマリアの向かいに座っているレイヴンが先ほどからマリアを凝視しているため、マリアはちっとも落ち着かなかった。


「レ、レイヴン様……疲れてはいませんか? ずっと座りっぱなしですし……」

「疲れてるよ。空間転移すれば、あっという間だったのに、どこかのお人よしが魔法は使ってはダメだって言うからね」

「す、すみません! ……レイヴン様、先ほどから私と二人きりの時は、なんだか雰囲気が違うような……」


 リシャールやエドワードの前では完璧な紳士として振る舞っていたレイヴンだったが、マリアと二人きりになってからは、気難しい子供のようだった。

 レイヴンは背もたれに寄りかかり、足を組みながら、まるで出来の悪い生徒を諭すようにマリアに告げた。


「僕はアルゼバード家の当主だからね。その地位に見合った振る舞いが必要なんだよ。疲れるけど、しょうがない」

「えっと、じゃあ私の時はなぜ――」

「何で僕がお前の前でも気を使わないといけないんだ?」

「ですよね……」


 レイヴンの辛辣な言葉に思わず同意するマリアだったが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

 初めて会った時もレイヴンの素が見え隠れしていたし、完璧な紳士のレイヴンよりも、こちらの方が年相応な感じがして逆にマリアは安心した。

 

 実際私は気を使ってもらうほどの人間ではないのだし、あの人から助けて頂いただけでもありがたいわ。


 マリアがそう思った時、今までマリアの向かいに座っていたレイヴンが、マリアの隣に移動してきた。

 予想外のレイヴンの行動に驚き、思わず動揺するマリアに、レイヴンはある質問をした。


「お前さ……エドワード・ストラトスに何をされたの?」

「っ! それは……」

「言っておくけど、拒否は許さないから。仮にとは言え、婚約者の事情は把握しておかないとダメだろ? ちゃんと婚約者の言う事を聞けよ」

「…………」

 

 レイヴンの言い分はすごく理解ができる。婚約者の身辺を調べるのは、貴族にとっては当たり前の事だからだ。

 けれど、どうしても答えたくない。他人に話して、穢れた娘だと、思われるのが何より怖かった。

 言葉を発しないマリアに、レイヴンはため息を吐いて、ある提案をした。


「記憶……消してあげようか?」

「え……」

「嫌な事って、人に話すと楽になるって言うだろ? でもそれほど言いたくない事なら、僕が消してあげてもいい。……それならお前も楽になるんじゃない?」

「レイヴン様……」


 バツの悪そうな顔で、そっぽを向くレイヴンだったが、マリアはレイヴンの不器用な優しさに、心に暖かな物が染み込むのを感じた。

 

「ありがとうございます、レイヴン様、でも大丈夫です。私、ちゃんとレイヴン様にお話しします……」


 そう言って、マリアはゆっくりと話し出した。



 エドワードにされた事をすべて話し終えたマリアは、自分の身体が強張っているのを感じた。

 昔の事とは言え、あの這いずりまわった手の感触は、なかなか忘れる事はできない。

 

 マリアが俯いていると、それまで黙っていたレイヴンが口を開いた。


「……そんなの、全然たいした事じゃない。僕が、上書きしてやる」



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