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悪魔を退散させるため

 思わず叫んだマリアに、レイヴンはエドワードに聞こえないように舌打ちをした。

 そしてマリアの腰に回していた腕を下にずらし、マリアのお尻をギュッとつねる。


「ひゃうん!?」


 マリアは顔を真っ赤にし、レイヴンのあんまりな仕打ちに思わず涙目になる。

 しかしレイヴンは何事もなかったかのように、エドワードと会話を続ける。


「私から話すより、マリア嬢のお父上から話したほうがいいでしょう。……リシャール殿?」


 レイヴンが指を弾くと、また煙が辺りを覆い、その中から眼鏡をかけた初老の男性が現れた。


「お父様! ご無事でよかった……」

「すまないマリア、心配をかけた……!」


 マリアはすぐに父の腕に飛び込んだ。強盗に合ったと聞いて、血の気が引いたが、無事な父親の姿を見て、マリアは心から安堵した。

 リシャールも愛娘を抱きしめ、久しぶりに会えた喜びを分かち合う。

 しかし、すぐにリシャールは毅然とした態度で、エドワードに向かい合った。


「エドワード様、以前にも申し上げましたが、強盗の件に関しましてはご心配には及びません。こちらにいらっしゃいますレイヴン様は、私の研究の後援者です。事情を説明したところ、すぐに盗難にあった宝石を補填すると仰って頂けました」


 苦虫を噛み潰した表情のエドワードが呟く。


「……その話とマリアとの婚約が、どう繋がるのでしょうか? 年齢にも差があるし、なにより身分が違う」


「そこは僕がお話ししましょう」


 そう言って、レイヴンはマリアの側に寄り、マリアの肩を引き寄せる。

 身長差があるせいか、レイヴンがマリアの肩を抱くのではなく、マリアがレイヴンを抱いているような感じだ。

 

「僕は以前からリシャール殿からマリア嬢の話を聞いていました。マリア嬢は魔法を使うと聞いて、僕はとても興味を持っていたのです。僕自身が魔法使いであるため、パートナーも魔法を使える者が望ましい。

その事をリシャール殿に伝えると、リシャール殿から快く返事を頂きました。身分の差ですが、リシャール殿の職業は上流階級に当たります。年齢差は僕が大人になれば済む話です。なので、何も問題はありません」


 レイヴンは理路整然とエドワードに説明をすると、今度はマリアの前で跪き、マリアの薬指に口づけた。


「マリア嬢、突然の訪問をどうぞお許しください。すべて話したとおりです。初めて会った時から、僕はあなたに一目ぼれをしてしまいました。この哀れな恋の奴隷を、少しでも救いたいと思って頂けるならば、どうか僕と結婚の約束をして頂けますか……?」


 幼いとはいえ、美少年のプロポーズに、年頃の娘ならば「ぜひ!」と言うしかないシチュエーションだ。しかしマリアの頭の中は、自身に起きている事が整理できず、今にも卒倒寸前であった。


 ど、どうしよう。え、でも相手は子供だし、そんな風には見れないよ……! 嘘だよね? 冗談だよね?


 しかし次の瞬間、ぞわりとした寒気がマリアを襲った。

 それは嫉妬で醜く顔を歪ませたエドワードからの視線だった。


 マリアは今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。体中から冷や汗が噴き出してくる。

 しかしそんなマリアを落ち着かせるように、レイヴンはマリアの手を優しく撫でてくれた。


 大丈夫、僕が君を守るから。


 まるで、そう語り掛けるようなレイヴンの行動に、マリアは勇気を奮い立たせて、エドワードを睨み付けた。


「わ、私マリア・グレイデルは、レイヴン・アルゼバード伯爵の結婚の申し出を受けます!……彼に永遠の愛を捧げると誓います!」


 そう叫び、レイヴンの体を抱きしめる。


 今起きていることが嘘でも何でもよかった。ただ、ただ、目の前にいる悪魔を、マリアは退けたかった。


 エドワードはしばらくの間、マリアを怒りの込めた目で睨み付けていた。しかし、大きくため息を吐いた後、玄関の方へと足を向けた。


「いいでしょう。今は帰りましょう。………いずれまたご挨拶に伺います。ではマリア、また……」


 そう言い残し、エドワードはマリア達の前から去って行った。



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