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突然の婚約宣言

この事件があって以来、マリアは大人の男性が苦手になった。自分に性的な目で見られると、恐怖でどうにかなってしまう。何よりその事で、相手の男性を傷つけてしまうのが怖かった。



 その元凶が、今目の前にいる。フン、と息を吐いたエドワードが、気を取り直したように話し始める。


「私は先ほど、この村に帰ってきたんですよ。……あなたのお父上が、強盗に会いましてね」

「ご、強盗!? 父は! 父は無事なんですか!?」

「ええ、お父上は無事ですよ。だが、宝石のブラックダイヤが盗まれてしまった。あれは大貴族がお父上の研究のためにと、貸し出されていた物で大変高価な物だ。強盗にあったからと言えど、賠償はしなくてはならない。おそらく3千万ガルドは下らないでしょうね」

「そ、そんな……! うちにそんなお金はありません」


 あまりの高額に、思わず動揺してしまう。そんな金額を一度に払えるのはよほど裕福な中流階級か、上流階級である貴族しかいない。

 マリアのその反応を待っていたと言わんばかりに、エドワードは含み笑いをする。


「そう心配する事はありません。私が払って差し上げましょう。私の実家は貴族ですからね。すぐに用意ができます。ただし……あなたが私の妻になるなら、の話ですが」


 そう言ってエドワードは無理矢理マリアの体を引き寄せる。


「い、いや! やめて! お願い離してください!」


 マリアは身体をねじってエドワードの腕から逃れようとする。しかし逆に抑え込まれ、エドワードはマリアの耳元で囁いた。


「いいんですか……そんなに抵抗して……。ここで賠償金が払えないと、あなたのお父上は管理不行き届きで捕まりますよ。私なら、あなたのお父上を助けられます」

「……!」


 あの優しいお父様が捕まる……? そう聞いた途端、身体の力が抜けてしまう。

 その反応に満足したエドワードが、ゆっくりとマリアに顔を近づけた。

 その時、


「やめろバカー! マリアお姉ちゃんを離せ!」


 ロビンがエドワードに体当たりをした。よろめいたエドワードが尻もちをつく。マリアの前で恥をかかせられたエドワードが憤怒の表情で、ロビンを睨む。

 

「く、このクソガキがあぁぁ!!」

「っ! やめて――!」

 エドワードはロビンを突き飛ばし、持っていた棒状のムチをロビンに振り下ろそうとする。マリアがロビンをかばおうとしたが間に合わない。


 次の瞬間、閃光が走った。


 バチィィィィィン!!


「ぐっ……!? だ、誰だ!」


 衝撃音がしたかと思うと、エドワードのムチが弾き飛ばされていた。エドワードとマリアは光が放たれた場所に目を向ける。

 目を向けた場所にはもくもくと煙が出ていた。

 その煙の中からゆっくりと、少年が現れた。


「エドワード殿、子供にムチ打ちとは、いくらなんでもやりすぎなのでは……?」


 その少年は漆黒の髪を顎のラインまで伸ばし、瞳は見た事のない真紅の色をしていた。一目見ただけで上流階級だとわかるシルクの衣装と帽子を身にまとい、その手にはサファイアとダイヤが散りばめられた杖を持っていた。


 こんなにきれいな男の子は見た事がない。


 まるで美少女と見紛う、その風貌に、マリアは思わず見惚れてしまった。

 しかし、はっと意識をロビンに向け、慌ててロビンに駆け寄る。


「大丈夫ロビン!? 怪我はしていない?」

「う、うん。俺は大丈夫だけど、あいつはいったい……」


 その答えを聞きたいのはマリアの方だと思った。マリアは少年を見つめながら、高鳴る胸を押さえる。


 すごい……! あの子、高度魔法の一つの空間転移をしたんだ。まだあんな小さい子が、すごい!


 思わず尊敬の眼差しを送ると、その少年と目が合った。少年は瞳を逸らすことなく、マリアを見続ける。


 え? え? なに? なんでこの子私を見つめてるの?


 マリアがそう思った時、少年の姿を確認したエドワードが、驚愕の声を上げた。


「あ、あなたはレイヴン・アルゼバード伯爵……! あなたがなぜこのような場所へ!?」


 マリアもその名前は聞いた事がある。3大貴族の一つ、アルゼバード家の若き当主で、その聡明さと強大な魔法の力で、皇帝陛下の賢者とも呼ばれる存在だ。


 マリアにとってはまさに雲の上の住人。本当になぜ彼がここにいるのだろうと、考えていると、レイヴンはマリアの前までやってきて、マリアの手を取った。


 そして、マリアの手に優しくキスをした。


 えええええええ!? 


 心の中で叫び声を上げ、レイヴンの突然の行動に、思わずマリアは手を引っ込めようとした。

 しかしレイヴンの手がマリアの手をぐっと握り、それを許さない。

 力の強さに思わずマリアは下を向くと、冷たい表情のレイヴンと目が合った。


『お・と・な・し・く・し・て・ろ』


 そう感じ取ったマリアは思わず頷く。レイヴンは満足そうな笑みを浮かべ、マリアの腰に手を回した。

 まるで恋人のような振る舞いに、マリアは動揺と混乱を隠せない。

 しかし今までの行為は序の口だったのだ。レイヴンはエドワードに微笑み、そしてこう告げた。


「僕がここにいるのは、何もおかしい事はありません。だって彼女は 僕 の 婚 約 者 ですから」


「えええええええええええええええええ!?」


 今度は思わず声に出してしまったマリアだった。


 

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