あなたに謝りたいのに
「どういう事なの……これ……?」
次の日、マリアが朝の散歩から戻ってくると、部屋の中には様々な種類の高価な宝石や、美しい装飾が施された色とりどりのドレスが並べられていた。
あまりのきらびやかさに怯んでしまう。マリアは部屋でドレスを整えていたカミラに尋ねる。
「カミラ、このとっても高価そうな宝石やドレス達はどうしたの?」
「マリア様、これは――――」
「僕が用意させたんだ」
「レイヴン様!?」
後ろから声がしてマリアが振り向くと、そこには扉に寄りかかっているレイヴンの姿があった。
レイヴンに会う心の準備が出来ていなかったマリアは、驚いて思わず一歩後ろに下がってしまう。
それを見たレイヴンが眉根を寄せてマリアを睨み付けると、そのままマリアの部屋に入ってきた。
「お前には華やかさがないからな。その普段使いのドレスだって、地味すぎるだろう。だからこれは買ってやったんだ。全部お前の物だ」
「す、すみません! でもこんなに豪華なドレスをたくさん頂いても、私が着ると恐らくドレスより私が負けてしまうかと思います……」
ああ、また令嬢らしくないと思われるだろうか。マリアは俯き、ドレスの裾をぎゅっと握る。
けれどこの豪華で高価そうなドレスは数十着以上はある。
マリアは自分のせいで、レイヴンに余計な散財をして欲しくなかった。
レイヴンの顔色を窺うと、レイヴンはイライラした表情で自分の爪を噛んでいる。
そして近くにあった宝石を手に取り、マリアに突きつけた。
「ドレスが気に食わないのはわかった。でも宝石ならいいだろう。お前の触媒として使っているネックレスのペリドットは小さいタイプで、思う存分力が発揮できない。僕が持っているこの宝石と代えろ!」
「っ! これは亡くなった母の形見で、いくらレイヴン様と言えど、聞けません!」
マリアはとっさに自分の首にかかっているネックレスを手に取り、レイヴンに隠すように背中を向けた。
レイヴンの頬が一瞬にして赤く染まる。
「っ――――! もういい! お前なんて知るか! しばらく僕に近寄るな!」
レイヴンはそう叫び、マリアが呼び止める間もなく、部屋を出て行ってしまった。
マリアはしばらく呆然と扉を見つめていたが、そのまま力を失くしたように、ぺたんとカーペットに座り込んでしまった。
「マリア様! 大丈夫ですか!?」
事の成り行きを見守っていたカミラが、慌ててマリアの元へ駆け寄る。
マリアは目に涙をためて、カミラにすがりついた。
「どうしようカミラ……レイヴン様に嫌われてしまったわ。昨日の事を謝ろうと思っていたのに……!」
どうして自分はこんなにも可愛げがないんだろう。レイヴン様がせっかく用意して下さったプレゼントなのに。
自己嫌悪で吐きそうになるマリアを、カミラは優しくマリアの背中を撫でた。
「……マリア様、大丈夫です。今は二人とも気持ちの行き違いをしていますが、絶対にまた仲のいい二人に戻ります。私が言うのだから絶対です」
どこからそんな自信が出てくるのだろうか。マリアは不思議でたまらなかったが、そんなカミラの言葉に、少しだけ元気をもらった気がした。
マリアがレイヴンと口論になって3日が過ぎた。
その間、毎日していた魔法研究にも呼ばれなくなり、別棟にこもっているのか屋敷でレイヴンを見かける事も無くなった。
もう限界だわ……! レイヴン様に会って今までの事を謝ろう!
マリアはそう決意し、別棟に通じる扉を開けた。廊下を歩きながら、いつも二人で魔法研究をしていた部屋を目指す。
もう会ってもらえないかも知れない。会ってもらえても、許してくれないかも知れない。また傷つく事になるかも知れない。
そんな事を考えながら、それでもマリアはレイヴンに会いたくて会いたくてしょうがなかった。
魔法研究をしている部屋の前に着いた時、マリアは少しだけ扉が空いているのに気が付いた。
マリアが部屋を覗いてみると、中にはレイヴンが工具を手に取り、机で何か作業をしている姿が目に入った。
珍しい……。レイヴン様のような魔法使いなら、魔法の力で何でも作れそうなのに……。
マリアが不思議に思っていると、後ろ姿のレイヴンが声をかけてきた。
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