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マリアと子供たち

 グエン皇国、この国では古くから魔法が親しまれてきたが、近代の蒸気機関の発達により、生命力を必要とする魔法は徐々に廃れていった。しかし、些細な魔法であるならば、そこまで生命力は必要としない。

 ゆえに、強大な魔法を使う者は、畏怖の対象でもあった――――。




「マリアお姉ちゃーん! ヒルダが怪我した!」

「ロビン! あらあら、ちょっと待っててね」


 グエン皇国の辺境の田舎、その一角の家で、子どもたちのお昼ごはんを作っていたマリアは、スープにかかっていた火を止めて、庭に出る。

 そこには、近所に住む10歳ぐらいの少年がいた。怪我をして火がついたように泣く、幼い妹を抱えている。

 マリアは少女の足の転んだ時にできた擦り傷を見て、にっこりと笑った。


「大丈夫よヒルダ。このぐらいの傷ならすぐに治せるから」


 そう言って、マリアは首にかかっていたペリドットのネックレスを外し、ヒルダの怪我をした場所にそっと当てた。

 そして呪文を唱えると、淡い光が集まり、ヒルダの怪我はみるみるうちに治った。

 ヒルダはキャッキャッとはしゃいでいる。怪我が治ったから。というよりは、魔法が見れて嬉しいようだ。

 ロビンは尊敬の眼差しで、マリアを見上げる。


「いつ見てもすごいなー。マリアお姉ちゃんの魔法。この村で魔法を使えるのはお姉ちゃんだけだもん」

「ふふ、ありがとう。さぁ二人とも中に入って。すぐにお昼ごはんにするから。もう皆集まってるわよ」


 その言葉を聞いて、ロビンとヒルダは嬉しそうに家の中に入って行った。すぐに子供たちの笑い声が響いてきた。

 マリアは微笑みながら、ネックレスを首に戻し、子供たちのいる台所に足を運んだ。


 マリアは幼いころに母親を事故で亡くした。このネックレスは母親の形見で、魔法は母に教わった。

 世間では魔法は生命力を削るからと、敬遠されてる。しかし宝石など、ちゃんとした触媒を通せば、脅威はほぼないと言っていい。

 父親は大学で鉱物学の教授をしている。優しく、マリアにとっては大好きな父親だが、首都にいるため中々会えない。

 ほんの少しの寂しさを感じるが、マリアは平気だった。近所に住む子供たちがマリアを慕い、こうして家に遊びにきてくれるからだ。



「ねぇ~お姉ちゃんはさ。結婚しないの?」


 ジャガイモとベーコンのスープ。焼きたてのパン。そして旬の野菜を使ったサラダを食卓に運び、全員で食事をしていると、子供たちの中で一番おませなアンがマリアに尋ねてきた。


「そうね~。今は結婚しなくてもいいかな。私はこうして皆がいれば楽しいし」

「もう! お姉ちゃんはゆっくりしすぎ! もう20歳でしょ? うちのママが結婚適齢期すぎるって心配してたよ」


 それを聞いてマリアは苦笑いをした。確かにこの国では16歳から20歳になるまでに結婚するのがほとんどだ。マリアと同年代の人達はほとんどが結婚をしている。

 さて、何て返事しようかとマリアが考えていると、マリアの近くに座っていたロビンが声を上げた。


「マリアお姉ちゃんは結婚なんてしなくていいんだよ! 結婚なんてしちゃったら、もう俺らとは遊んでくれなくなっちゃうじゃん!」

「そーだ! そーだ!」

「お姉ちゃん結婚しちゃやだあああああ!!」


 ロビンの声に周りの子供たちが賛同し、最終的には泣き出す子まで出てきた。アンは何も言えなくなり、マリアは慌てて泣いている子をなだめる。

 騒ぎで食事はめちゃくちゃになってしまったが、マリアは結婚の話題がそれた事に心底ほっとしていた。


 マリアが結婚をしない理由。それは誰にも言えない事だったからだ。



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