第8話 倉庫の内容
《登場人物》
アラン・ダイイング 探偵
マリア・シェリー 探偵助手
モーリス・レノール シュゼット警察刑事部捜査1課警部
カール・フリーマン 同刑事 モーリスの部下
-被害者-
エリー・アンダーマン シュゼット国立中央図書館司書(第1被害者)
イーライ・ゲイル ブレーンスタイン博物館職員(第2被害者?)
-容疑者-
ジョルジュ・カイマン シュゼット国立中央図書館司書
シリル・プレヴェリネ 同 司書
エリック・シルヴァ 同 司書
クロード・モーマン 同 司書
アリス・パルマー 同 司書
ロビン・フィリモア 同 館長
― 1時間後 5月2日 図書館地下4階 特別倉庫 ―
アランとマリアの2人は、館長の許可をもらい、博物館から移動した芸術品や美術品が運ばれ、保管されている倉庫に来ていた。
倉庫は巨大で、およそ石油タンカーが1隻入るか、ぎりぎり入らない程度の広さと大きさがあった。
どおりで、地下用のエレベーターに2階と3階がない理由がそれなわけでアランは心の中で半分、感じている。逆にもう半分は、図書館にこんな広くて大きい倉庫が必要なものなのか? 国の政策も分からない事するものだと感じていた。
案内係という係も兼任しているクロードが説明する。
「ここが特別倉庫となります。大きいでしょ?」
高台というのは意外と高くて、安全ガードの柵といえるものが設置されており、そこから倉庫の一望ができるところである。そこから見る倉庫の中はとても興味深い。
マリアは倉庫の景色に驚いているが、その隣でアランは軽い皮肉交じりで反応した。
「いらないほどにでかいな」
「先生っ!」
マリアの注意が探偵の耳に響く。
クロードは2人のやり取りを笑顔で見つめながらもすぐ自分の仕事を続けた。
「えーよろしいですか? お二人? この倉庫は主に書物は勿論ですが、あちらを見て頂くと分かります通り、博物館の芸術品や化石標本、美術品を運んで保管します」
クロードが指を指している所を見ると、博物館の職員達と図書館の職員達が国家の役人に指示されながら、芸術品を運んでいるのが分かる。さっき図書館に入る際に見かけたマンモスの牙が入った木箱もゆっくりと職員達によって丁寧に保管作業に入っていた。
保管作業の光景をマリアは見学しながら案内係に美術品について訊く。
「美術品は何点運ばれているんですか?」
資料を見ながら案内係は答える。
「およそ400点となります。ブレーンスタイン博物館の美術品芸術品はどれも国指定の最重要文化品ですからね」
「なるほどねぇ」
クロードの安定感ある説明は、聞いていた探偵や助手にも簡単に理解できる説明。
案内係としての配慮はまだまだだが、それなり上手の説明は、今後とも期待できるだろうと探偵は思っている。
アランの目線は、そのまま、地下倉庫全体を見渡し始めるが、ある事をクロードに確かめてみた。
「モーマンさん。ここの倉庫の監視とか管理についてはどうなっているんですか?」
そう言われた案内係の彼は、軽く眉間にしわをよせた。
「んー。それに関しては秘密事項ですので、お答えは、差し引かせていただきたいのですが……」
アランの心は《やっぱりね》という5文字の言葉。マリアもちょっと疑わしそうな苦めの表情。
その2人を見て、クロードは資料で口元を隠しながら、答える。
「今から言う事は、聞かなかった事にしてくださいね」
まさかの態度にアランは、黙ったまま頷き、聞き耳を研ぎ澄ませた。
「搬入の際や保管の際は、館長及び図書館・博物館の幹部職員もしくはグレード3以上の国家職員のみここに立ち入って作業する事が可能です。入ったばかりの新入社員ではここに入る事は出来ません」
「なるほど、ちなみに、モーマンさん以外でここに立ち入れる職員の方はどれぐらいですか?」
「そうですね。今の職員表を見ないといけませんが、現時点で、それぞれの担当書物のリーダー数人と、部長級職員が数名、私の周りで考えるなら、今はカイマン君ですかね」
「んーそうですか」
倉庫が生み出す独特な空気を探偵は感じ取り、マリアは倉庫の色々な所を見ては、心に衝撃を与えている。軍にいた頃の地下のイメージは大きく違うから、彼女にとって心の衝撃がすごい。
「アンダーマン君もここに入れましたよ。いまではあんな事になってしまって、カイマン君に変わったのですがね」
アランは、クロードの言葉を聞いて、鋭い視線を彼に向ける。
「えっ……? どういう事ですか?」
クロードはアランの視線に少々驚きながらも反応した。
「か、彼女は、殺される前まで、外国書部門のリーダーでしたから、もう働きぶりはすごかったですよ。利用客想いでしたし……」
アランはその話を聞きながらさらに深く掘り下げてみる。
「ちなみに、博物館の職員も入る事もできるとか?」
案内係は首を縦に振っている。肯定。
「ええ、そうですが」
「イーライ・ゲイルという職員はこちらに入る事はできますかね?」
クロードは、アランの言葉にちょっと焦燥を感じながら、対応し始めていく。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね。えーっと、イーライ、イーライ、イーライ・ゲイル、イーライ・ゲイルはーっと……」
クロードは自分に対してその名前をインプットさせながら、倉庫の入室許可記録と職員表から一つずつ調べ始める。
その間、アランはにっこりとした笑顔で倉庫の周りをよく見渡して、倉庫の構造やカテゴリーにおかれている美術品、芸術品についてしっかりと自分の目を凝らす。
その間、ちょっとしてからクロードの声が上がった。
「ああ! ありました。ありましたよ」
彼は、アランとマリアによく見える様に、リストを見せる。そこには、イーライの名前とエリーの名前もあった。
「確かに載ってますね」
「そうですね。あ、くれぐれもご内密にお願いしますね」
クロードの答えにアランはある程度の満足感はあった。
「勿論ですよ」
彼女やイーライが遺した暗号に対しては見えなかったが、彼女が遺そうとした理由についてもしかしたらと思える選択肢がアランの脳裏には2.3つ浮かび始めていた。
第8話です。今回はシュゼット国立中央図書館の地下倉庫にまつわる話ですね。
いつも読んで頂きありがとうございます。これからもますます頑張っていきますのでよろしくお願いいたします!!
話は続きます。