第16話 事務所での話
《登場人物》
アラン・ダイイング 探偵
マリア・シェリー 探偵助手
モーリス・レノール シュゼット警察刑事部捜査1課警部
カール・フリーマン 同刑事 モーリスの部下
-被害者-
エリー・アンダーマン シュゼット国立中央図書館司書(第1被害者)
イーライ・ゲイル ブレーンスタイン博物館職員(第2被害者)
アリス・パルマー シュゼット国立中央図書館司書(第3被害者)
-容疑者-
ジョルジュ・カイマン シュゼット国立中央図書館司書
シリル・プレヴェリネ 同 司書
エリック・シルヴァ 同 司書
クロード・モーマン 同 司書
ロビン・フィリモア 同 館長
― 5月3日 ダイイング探偵事務所 ―
ダイイング探偵事務所にレノールとフリーマンが来ている。
「さあ、聞かせてもらおうじゃないか。ダイイング」とその言葉をぶつけたレノール、その対面側にアランはソファーにゆったりと座っている。フリーマンは、建物の柱の角に寄りかかって、話を聞く体勢でいる。
マリアは自分の立ち位置である椅子に座ってアラン達を見つめていた。
「いいだろう。3人に教えてしんぜよう。犯人はシュゼット国立中央図書館で勤務している職員の誰かだよ」
「本当か!?」
レノールは反応し、思わず驚いた。
「ああ」
アランは首を縦に振り、話を続ける。
「被害者は3人とも中央図書館に関わっている人間だ。これで分かるとおり外部犯の犯行はありえない。無差別を考えるなら、もう少し関係を持たない人間を襲うはずだ」
レノールは少し考えながら答えた。
「ああ、そうだな。強盗だったとしても、物取りにしてはあまりにも不自然すぎていたしな」
アランは続ける。
「それに3人とも、暗号を遺している。ただ、奇妙なのは、エリー・アンダーマンとアリス・パルマーが遺した暗号さ」
フリーマンはアランの言葉に対して確認した。
「《F・56・A3TR》と《54・U4・TF/R》でしたっけ? 確かに全く違いますね……」
「でも、分かる事は、この文字列が示しているのは2つとも同じ意味だって事だよ」
アランの説明に対して、場にいる3人は全く理解できていなく、探偵自身は呆れてため息をついた。
「ありゃりゃ。お分かりでないか。マリア、紙とペンとってくれ」
「あ、はい」
マリアはアランにボールペンと1枚のA4を手渡す。
「ありがとう。マリア」
アランは、ボールペンで被害者たちが遺した暗号を、横に書き、上下、同じ位置になる様に記した。
「此処に《F・56・A3TR》が《54・U4・TF/R》がある。で、これを、並べていく」
《F・56・A3TR》
《54・U4・TF/R》
アランは説明していく。
「この暗号は、図書番号ではない。それは分かるな?」
レノールは紙に書かれた暗号を確認した後で、頷いた。
「ああ。そうだな」
「で、ここで56と54の数字を見てくれ。何か分からないか?」
フリーマンは、首をかしげながら言う
「うーん? 何ですか?」
アランはため息をつき、両手を肩まで挙げた。
「やれやれ、フリーマン君。これが分からんかね? ……まぁいい。教えよう。これは日付だ。56は5月6日、54は5月4日だ」
「なるほど!」
その後でレノールも反応する。
「そうか! で、でも、これが何の意味を表しているんだ?」
質問に対して、アランは答える。
「もし、これが、図書館に運ばれている芸術品や美術品に関わっているとしたら?」
3人は、アランの話に興味と感心で頭がいっぱいになっているのが理解できた。
「もし、この暗号が、あの博物館強盗の犯人達に関わっている物だとしたら……?」
警部は、探偵の言う言葉に対して大きく反応した。
「まさか!?」
レノールの予想通りな反応を嬉しく感じながら、笑みをこぼし、説明する。
「そう。この暗号は、あるイベントを示していたんだよ。いわゆる図書番号に見せたトラップ暗号でね」
「なるほど、とすれば。これが示している暗号も……」
アランは首を縦に振り、説明を続けていく。
「そう。で、特に重点を置いてほしいのはこの《R》というところだ」とアランは足を組み、シャツの胸ポケットに入っているレモンティー味のガムを噛み始めた。
マリアはアランに確認する。
「この《R》? ですか?」
ガムを噛みながらアランは説明していく。
「《R》っていうのはおそらく人名の頭文字を示した物だよ。ほら、手紙を送る時にしないかい? 最初のファーストネームの頭文字だけ入れるやつ……」
レノールは頷いて、関心のある風に答えた。マリアは
「なるほど。しかし、犯人は誰なんです? この2つの暗号が合っているとしたら? 《R》の他に残っている暗号文字列の意味は?」
レノールはアランを見つめた。アランは一枚のメモを取りだした。
「ほかの暗号文字列は、全て、これに帰結するわけだ」
そう言ってアランはソファーから立ち上がり、机の引き出しから1枚の新聞記事を皆に分かる様に示す。
「それは博物館の強盗襲撃が載っている新聞記事か?」
レノールの反応を置いて、アランは話を続ける。
「今日は、何日だっけ?」
フリーマンがアランの質問をカレンダー付きメモ帳を取り出して答えた。
「え~っと、あ、5月3日ですけど、それがどうかしたんですか?」
アランは3人に告げる。
「いや~実はね。事務所に戻って話したいと言ったのはね。あの図書館にいて話すのはまずい事だと思ったんだ。だから……」
「だから……?」とレノールは訊いた。
その隣で、マリアは期待の目線をアランに当てる。
「なんですか? 教えてくださいよ! 先生!」
アランはレノールの表情を見て、不敵な笑みを浮かべた。
「今から言う事を聞いてくれ。準備をしなくちゃいけない事がたくさんあるからね」
「えっ?」
レノールは自信満々なアランに対して不安しかなかった。
第16話です。さてだいぶ進行しまして、終わりに近づいてきていますね。
では、次回をお楽しみに! ではでは~!




