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第12話 告発の代償

《登場人物》


 アラン・ダイイング    探偵

 マリア・シェリー     探偵助手

 モーリス・レノール    シュゼット警察刑事部捜査1課警部

 カール・フリーマン    同刑事 モーリスの部下


 -被害者-

 エリー・アンダーマン  シュゼット国立中央図書館司書(第1被害者)

 イーライ・ゲイル   ブレーンスタイン博物館職員(第2被害者)


 -容疑者-

 ジョルジュ・カイマン  シュゼット国立中央図書館司書

 シリル・プレヴェリネ    同         司書

 エリック・シルヴァ     同         司書

 クロード・モーマン     同         司書

 アリス・パルマー      同         司書

 ロビン・フィリモア     同         館長

  

 

  ― 5月3日 シュゼット国立中央図書館 午後2時前 ― 




 アリスは、屋上で話をする為に待っていた。アランとマリアにもその旨は伝えている。準備は万全。

 しかし外の空気は万全ではないらしく、太陽が雲に隠れようとしている。天気は夕方から悪くなるらしい。大雨が降るかもしれない。

 それと同時にアリスの心の中も、エリーが死んでからずっとくもりがかったガラスだった。だがそれも今日で終わり。今日の結果によってそれが晴れるかもしれない。そう期待して彼女は人を待つ。

 それにしても話す相手の意外性には驚いた。まさかあの人がこの事件の容疑者だと、アラン・ダイイングが見せた暗号の中に、人名が入る事に気づくまでは知らなかった。

 あれで間違いない。そう心で思う。

 あの暗号を解いた時にその人のイメージが大きく音を立てて崩壊。今まで信用し、図書館内の評価や仲間達がイメージしていた人物とは大きく異なる人格を持っていた事を理解した。

 今回、話をして、そのイメージを表に出し、自分の正体について恥と罪を知ってもらう。それと同時にエリーへのせめてものの手向けができればと思っていた。

 そう考えている時に、屋上のドアが開き、相手が現れる。アリスはドアが開いた事を開いた音で聞き取り、視線をドアの方に向けた。

 相手が立っている。

 アリスは軽く手を振り、自分がいる事を相手に知らせた。

 どうやら、相手もそれには分かったらしくすぐアリスのもとへと歩いて向かってきた。

「来ましたね」

 相手は黙ったままでアリスを見つめている。相手の沈黙に彼女は気味悪く感じたが、話をしないと前には進まない。 

 気にする事なく彼女は相手に告げる。

「エリーさんの死の真相がやっと分かったんです。まさか、あなただったとはね」

 相手は、黙っている。

 一向に相手から言葉を発する事も喋る気は全くないのが理解できた。

腕を組み、自分が呼ばれた事について何か不満があるらしいが、彼女にとってそんな事はどうでもよかった。

「だんまりですか。あなたらしくないですね。彼女が遺した暗号を解いたんです。あの、《F・56・A3TR》をね。彼女を殺したのはあなたしかいなかった。そう。あなたしか……」

 それでも相手は沈黙を通している。アリスを見る目はすごく澄んでいる。

 沈黙を通す相手に対して、アリスは今までに対する怒りをぶつけた。

「あなたが! あなたがエリーを殺したんですね!? あのフィルストリートで! どうして……」

 すると初めて、相手は答えた。

「邪魔だったからさ。ビジネスに」

「えっ?」

 相手は、隠し持っていた刃を、アリスに突き刺した。アリスは予想もしていなかった事態を自分の体から発生する痛みで知る。

 銀色の刃がアリスの心と共に、胸へと突き刺さり、激痛の後からに赤く綺麗な液体が体内から自然と外の世界へ飛び出す様に湧き上がっていく。

 相手は胸に突き刺した刃を抜いた。

 刃の部分が銀から紅の銅を帯びたような色になっている。

「やれやれ。面倒なことをしてくれたね」

 アリスは膝を冷たいコンクリートの床についた。

 胸から流れる血液は勢いを保ちながら、下の固い床に流れ落ちようとしている。少々粘り気のある血は、両手で押さえている所から真っ赤に染めようとしていた。

「……待って……」

 アリスは胸を押さえていた両手を相手の腕へつかもうとするが、相手が離れようと少し後ろへ移動した為、掴む事ができなかった。

「彼女も邪魔だったけど、君も邪魔でね。悪いけど、今度は君が黙ってもらうよ」

 相手は、一回突き刺した刃を、彼女に近づいてもう一回、力強く突き刺した。

 鮮血が飛び散った。相手の顔にもそれがへばりつく。相手は顔についてしまった彼女の血をティッシュで拭き取り、丸めて近くのコンクリートに投げた。

「最後の最後まで厄介な事を……」

 激痛が彼女を襲う。

 苦痛にさいなまれている若き女性の姿に、相手は静かに笑みを送った。

 相手にとってこの笑みはアリス・パルマ―という若き女性に対する最後の挨拶。お別れの言葉属する

彼女は言葉を漏らすことはなかった。漏らす事ができなかったのだ。

 ゆっくりと相手を掴む事もできずに、ゆっくりとコンクリートの床に倒れていく。

 相手はマリアの腹に刺さった刃を抜き取り、数枚のティッシュの塊で綺麗に拭き取った。

「待って……」

 マリアは相手の足を力強く掴んだ。最後の力だと思っている。

 何としてでも奴を捕まえてやろうと、自分の命を犠牲にしてまで捕まえようと動いたがそれも虚しく、振り払われた。

「言っただろう。邪魔なんだよ。君は……迷惑だ。ずっと黙っててくれ。それに死ぬ前に教えてあげよう。運び出すんだよ。美術品を外へ……」

 マリアは相手の言葉を受けて、苦痛にさいなまれながら苦い顔をしている。

「!」

相手は、淡々と予定を倒れて苦痛に悶絶する女性に向けて述べていく。

「5月4日の0時に動くのさ。大金と多くの芸術品がね。これだから金儲けというのは好きなんだよ。ま、もう君には知らなくてもいい事実だったね。死ぬ前に一度だけ食事でもしたかったよ君と……ま、それもいいか。時間だ。じゃあね」

 相手は倒れているアリスに向けて、蔑んだ様に笑い、そのまま屋上を去って行った。場にいるのはアリスただ一人だけ。屋上に吹く風が激痛をさらに強くした。

 流れていく赤い血が光によって鏡となり自分の顔がよく映っている。せめて命が尽きる前に探偵に遺す為のメッセージを、血でなぞった。



《54・U4・TF/R》



 まさか、自分がダイイング・メッセージを書く事になるだろうなんて思ってもいなかった。

「間に合って」

 もうすぐで探偵が来てくれる最後だけでも自分がいる事を示す為に、鉄パイプを片手で近くの床に向けてぶつける。

 金属とコンクリートが織りなす音がアリスの耳で響く。

「届いて……届いて……」

 アリスはそのままコンクリートの床を叩き続けていく。アランに気づいてもらう為に……



第12話です。 さてどうなってしまうのか? 次回の話が気になってくるのではないでしょうか?


次回をお楽しみに!!

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