第10話 客人
《登場人物》
アラン・ダイイング 探偵
マリア・シェリー 探偵助手
モーリス・レノール シュゼット警察刑事部捜査1課警部
カール・フリーマン 同刑事 モーリスの部下
-被害者-
エリー・アンダーマン シュゼット国立中央図書館司書(第1被害者)
イーライ・ゲイル ブレーンスタイン博物館職員(第2被害者?)
-容疑者-
ジョルジュ・カイマン シュゼット国立中央図書館司書
シリル・プレヴェリネ 同 司書
エリック・シルヴァ 同 司書
クロード・モーマン 同 司書
アリス・パルマー 同 司書
ロビン・フィリモア 同 館長
― 午後8時 ダイイング探偵事務所 ―
「うううううー」
探偵はうなだれている。椅子の背もたれにおもいっきし背中の体重を預け、整った髪の毛が荒れるぐらいに掻きまくり、しんどそうに頭を抱えていた。
助手も疲れで不抜けた状態になり。キーボードの前で顔を机にくっつけている。
「大丈夫ですかー?」
腑抜けたようなマリアの声に、アランもそれと同じくらいの腑抜けた状態で返す。
「君は?」
マリアは、体勢を整える。
「チェス2を外した感覚です」
今日がチェス2というチェストーナメント決勝者の手数と勝利者を当てる賭け事の結果発表日をアランは思い出した。
「どっちが勝ったんだろうか? マリアはどちらに賭けたんだ?」
「ロバート・クラウトンに30ユーロ」
彼女もそれには乗り気だった。
「違ったな。僕はロブ・マディガンに30ユーロだ」
アランは、妙なやる気になり、結果を自分の携帯で見てみる。
「なるほど。賭けてきたな。結果は以下に……」
結果を見ようとした瞬間、事務所のドアを2.3回、叩く音が聞こえた。
ノック音は、人によって大きく変わるレノールの場合5回、一般の客であればゆっくり3回叩く。急いでいる客は、間がない連続した3回だとアランは考えている。
「おっと賭けは中止だ」
シルエットからして、男性だと予測する。案の定、正解だった。
事務所出入り口のドアが大きく開き、そこには学者風の冴えなさそうな男がカバンを左手に持ち、立っている。
表情はどこか苦そう。
「初めて来てみるとやはり、興味という物が……湧いてくるね」
嫌味っ気100%の咳払いに、助手は溜め息を付いた。
アランとマリア共々体勢を直して、ロビンを出向かい応対する。
「これは、国立中央図書館長殿。事件解決のご協力をありがとうございます。今、飲み物をお持ちしますから。ミス・シェリー」
「はい」
「いいや。時間がないのでね。飲み物は結構だ。単刀直入にいこう。今回は君が喜びそうな物を持ってきたよ」
カバンの中から、手を突っ込ませ、ロビンは、1枚のディスクを取り出した。
「これを……」
アランは手渡され直ぐにパソコンのある机の方に移動する。
一度、閉じたパソコンを起動し直してディスク挿入口に、ロビンから手渡されたディスクを入れる。
ロビンはディスクについて説明を始めていく。
「このディスクには、先月、ブレーンスタインで起きた強盗の一部始終が映った映像だ。公表できない物なのでね。内密にお願いしたいね」
アランは心配そうに見つめているロビンに気休めの笑顔で返した。
「ええ、勿論です」
パソコンに搭載された動画再生プレイヤーで再生する。映像は監視カメラ特有の見づらい状態で、薄らと強盗の一部始終が表示されている。
マリアも、映像についてよく見つめているが、拳銃の使い方、強盗のやり方から見て、分析していく。
ロビンは探偵の後ろに立ち、丸眼鏡を外して、埃を取り始める。
「どう思うかね? ミスターダイイング」
「うーん。専門外ですから、なんとも。この手の事は……ミス・シェリーはどう?」
アランは後ろに振り向いて一緒に映像を見ていたマリアに訊いてみる。
「映像に出ている強盗犯、どこに警備員が配置され、警備していたのかを前もって知っていたみたいですね。それにしても拳銃の使い方がいまいちですね。下手くそです」
拳銃使用の元プロが言っているという事は、強盗犯の正体は、《前もって博物館の経路を知っていた、打ち合わせていた者達の犯行》だと間違いない事を感じた。
その証拠に、カメラの映像は、2回、フラッシュを浴びた後に映像が途絶える。妙なポイントにアランは気付いた。
「被害者が出ていない事が不思議ですね」
アランの言葉に怒りを覚え、ロビンは声を荒げながら眼鏡を掛け直した。
「とんでもない! 被害は出ているぞ。芸術品と美術品だがね」
いきなりの豹変ぶりに、アランは彼に平謝りをする。
「ああ、そりゃすいませんでした」
ロビンは腕時計を確認して、時間がない事を確認し、帰路の準備をし始める。
「おっと、時間だ。そのディスク明日返してくれ。午後4時には頼むよ」
アランは立ち上がり、ロビンを見送ろうとする。
「え、ああ。分かりました」
「いや、見送りは結構だ。それではね。くれぐれも頑張ってくれ」
軽く微笑みをしてロビンは、事務所を出て行った。
アランは見送った後で、映像を見つめてみる。手がかりがあれば万々歳で喜べるが、手放しでは喜べないのが実情である。
すると事務所の固定電話が鳴り、受話器をマリアがとった。
「はい。ダイイング探偵事務所です」
『こんばんは。アリス・パルマ―です。アラン・ダイイングさんは?』
「少々、お待ち下さい」
マリアは、《3》を押して受話器を元に置いた。
「先生。パルマーさんから電話です」
「分かった」
アランは受話器を取り、《3》を押して、受話器を耳に当てた。
「代わりました」
「パルマーです。実はミスターダイイングにお話したい事がありまして……明日、お会いする事は出来ませんか?」
思わぬ相手にアランは少し、少々戸惑うが、すぐに直して、予定を確かめながら通話する。
「明日ですか? レノール警部とあってからなので、午後になりますが?」
「ええ、構いません。できたら午後2時に図書館でお話したいので……」
アリスも都合が良かったらしいよい返答が、回ってきた。
「では、マリアと共に伺わせていただきます」
「よろしくお願いします。では」
電話は切れ、通話が終了した。
「マリア、予定が増えた。明日、パルマーさんに会う。午後2時、図書館ね」
助手は手帳に予定を記し直した。
「わかりました」
《アリス・パルマー 5月3日 午後2時 シュゼット国立中央図書館》
「話したいことか……」
マリアは不思議そうにアランを見つめている。
「どうしたんですか? 先生?」
アランは背伸びをしながら、彼女の方に視線を向けた。
「いや、なんでもないよ。今日の仕事はここまで。閉めよう」
「はい」
事務所のドアに立てかけている看板を裏に返す。 《CLOUSED》
第10話です。 とうとう10話に突破です。これからもよろしくお願い致します!




