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第1話 司る者の死

 ※この物語はフィクションです。


《登場人物》


 アラン・ダイイング    探偵

 マリア・シェリー     探偵助手

 モーリス・レノール    シュゼット警察刑事部捜査一課警部

 エリー・アンダーマン   シュゼット国立中央図書館司書

  



  ― 5月1日 シュゼット フィルストリート6番街駐車場 午後11時 ―



 この日の夜空は半分の月。その月の光はやけに眩しい。

「あなたは間違っているわ!」

 駐車場で、シュゼット国立中央図書館司書エリー・アンダーマンは相手に向けて叫ぶ。

 相手は沈黙を通して、エリーの言葉を聞いている。

 彼女は、憎悪が増したようなきつめの声で沈黙している相手に向けて告げた。

「悪いけど、私はあなたを許しません。告発しまっ……」

 エリーが言葉を発している途中で、彼女の体に激痛が走る。

「!?」

 お腹の付近で発生する痛みは、尋常じゃない痛みへと変化しつつある。

 エリーは、ゆっくりと体勢を崩していき、仰向けになって倒れた。

 綺麗なアスファルトで舗装された道が彼女の血によって黒から混ざり合うことのないワインレッドが逆に黒を染めていく。

 相手はその場を立ち去る前に、エリーの持っているカバンを拾い上げ、チャックを開けてから逆さにして中の持ち物を散らばらせた。

 エリーは既に虫の息。助かる見込みはない。

「ま、ま、待って」

 弱々しく相手の足を掴んだが、相手は力強く足で振り離した。

 散らばった彼女の所持品を拾い、彼女の手帳を自分の服のポケットの中に入れ、財布の中身を抜いてから下に投げ捨て、相手はその場を後にして走り去っていく。

 1人、アスファルトに倒れる女性。

 冷たい地面が、やけに激痛を走らせている感覚を鈍くしている気がして、苦しみから早く抜け出したかった。

 最後の力を振り絞るべく、彼女は自分のペンを探し、落とされた1冊の本を開き、真ん中のページに大きく記す。



 《F・56・A3TR》



 ペンを落とす。もう自分の命の期限が終りを告げようとしている。エリーは風で吹き飛ばされない様に本を、右腕の五本の指のうち親指以外を栞にして本を挟む。約500ページのある本を選んでおいて良かったと感じるところもあった。

「だ、誰か……」

 しかし、時間は来た。ただ1人だけ。ただ1人だけ。駐車場で倒れ、死期を待つ。せめてものの無念を誰かに……




 ― 5月2日 午前10時 ダイイング探偵事務所 ―




 いつもの探偵事務所とは違い、今日はやけにバタバタしていた。

 現在、事務所内の大片付け真っ最中で、2人は色々な書類や本を整理している。

「ったくもう! 先生! なんでこんなに書物をほったらかしにしていたんですか!?」

 と頭巾をかぶって、掃除具を片手に書物の片付けをしている元軍人らしからぬ姿のマリアが告げた。

 そんな元軍出身の探偵助手が、軽く後ろを振り向くとアランは、床で胡座をかきながら溜まった書物を手回しのシュレッダーで、1枚1枚丁寧に今までの過去の依頼歴史を処分していく。

 マリアはため息をついて、心の中に溜まっている事をアランに告げながら再び、旗箒で書物のホコリを取るという腰にそれなり負担をかける作業へ入る。

「あとで、チーズケーキおごってくださいね! ミルクティー付きで!」

「はいはい。分かったよ」

 2人は、そんないつも通りのやり取りをしながら、本棚に溜まった事件資料や書類を掃除していると、入り口のドアの窓から人影が写っているのが見えた。

 人影の形と大きさからして、アランは察しがつき、声をかける。

「鍵ならなら空いてるよ警部。事件の依頼を受けるかどうか分からないけどね」

 そう言うとドアが思い切り開き、レノールが入ってきた。相変わらず、無精ひげの濃さはいつ見ても変わっていない。

 左手には刑事らしからぬ黒いアタッシェケースを持っている。

「何故、分かった?」

 探偵は、掃除によって散らかっている床に座って、手回しシュレッダーを操作しながら勝ち誇っているかの様なムカつく顔をしていた。

「何年一緒に事件解決してきた? 警部よ」

 手回しシュレッダーを操作する探偵をやれやれと見つめながらレノールは即答して、近くの綺麗な応接用ソファーに座り、背もたれのお世話になる。

「お前との仕事については思い出したくない。それより聞いてくれ」。

「『嫌だ!』って言ったら?」

 子供の様なやりとりの中、必死に片付けをしているマリアにとって2人のやりとりは少し頭に来ていたのか、アランを注意した。

「早く掃除してくださいよ! 先生!」

 警部はため息をしてアランの態度に呆れている。

「やれやれ、小さいお子様の様な返し方はやめてくれないか?」

「はいはい」

 レノールは、アタッシェケースの鍵を開けて、1枚の写真を取り出し、アランに手渡す。

「これを見て欲しい」

「変な写真だったら帰ってもらうからな?」

 アランは嫌々ながら、手渡された写真に視線を当てた。

 写真は死体が綺麗に写っている。

 

 死体は女性。美しい。


 髪色は赤の長髪、耳にはそれなりに高そうなイヤリングついていた。

 左腕には、誰かにプレゼントされたのだろう……丈夫そうなデジタル腕時計。しかも最近発表された最新モデルの物である。

「ここを見て欲しい」

 だが、事務所内にいる人達にとって死体は見慣れており、なんとも思っていない。一番重要な所を警部が指で指し示す。

 レノールの左人差し指が示す場所は、アランの鋭い視線から、脳内へと伝わり、鈍器で後頭部を強く殴られた様な衝撃を受けた。

 それは死体の右手の下に本が置かれ、ページが開いている事。よっぽどの読書好きだったのか、どうかは分からない。だが、衝撃を与えたのはそれだけではない。

 警部の指が示した先。そこは丁度、死体の右手部分の本。本のページ真ん中に数字とアルファベットで無秩序に羅列された文字が写っていた。



 

    《F・56・A3TR》




「ほう。面白いな」

 マリアもアランの後ろで、暗号を見てみる。

「暗号ですか?」

「ああ。写真から見てこの数字とアルファベットがどんなものか察しがつくだろう?」

 アランはシュレッダーを置き、床から立ち上がった。

「ああ。ダイイングメッセージって事だね。マリア! 仕事だ。こんなところ出て、現場に行こう!」

探偵の言動に彼女は呆れている。

「えっ!? 先生! 片付けは?」

 今まで座って作業をしていたせいか、背伸びをし、今まで溜まった疲労感を発散させた。

「そんなのはいつでもできるよ? 警部案内してくれ」

「ああ、分かった」

 レノールもソファーから立ち上がり、すぐさま事務所の出入り口まで移動する。

 アランは、シャツを整え、チェック柄の赤いパーカーを奥の部屋にあるクローゼットから取り出してくる。

「さぁ、ミス・シェリー、仕事だ」

「あっ、待ってください! 私も行きます」

 マリアも掃除具を床に置き、エプロンをソファーの背もたれに向けて投げ、彼女も急いで自分の机から、探偵助手における必要道具を鞄に詰め込んで、事務所を出る。



 《捜査中につき CLOSED》








 はい。新作連載となりました。第1話です。


そして、あの探偵、アラン・ダイイングが帰ってきましたという事で! 


DYINGの第2弾となります! さて、どう展開されていくのか! 第2話をお楽しみに!!

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