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横顔をプレゼント

作者: 愛田雅

あなたの横顔は、どこか寂しい。

同じクラスの一番後ろの窓際の席で、いつも校庭を頬杖をつきながら見ている。

友達と休み時間に他愛もない会話をしながらも、あなたの横顔が寂しくて仕方がなかった。


あなたとは、都築祐司。

「都築君」と心の中で言ってしまうと、顔が赤くなりそうだから、何時の間にか「あなた」と心の中で表現するようになった。


窓を開け、汚れかかった白いカーテンも開けて、あなたはいつも校庭を見ている。

私は、横目でちらちらとその様子を盗み見る。


どうして、そんなに悲しい顔をしているの?

どうして、そんなに悲しい風を作るの?


心の中で私は尋ねる。



夕立に遭い、靴下がぐっしょりとぬれた日。

脱衣所で靴下を脱ぎながら、あなたの顔を思い浮かべた。


今日も悲しそうな表情で、休み時間に校庭を見ていた。

あなたにだって、友達がいないわけじゃない。

前の席には友達がいて、一応は話の輪に入っているはずなのに、あなたはなぜか一人物悲しい表情を毎日浮かべている。


私は、どうだろう。


たくさんの友達に囲まれて、いつだって誰かが私の傍にいる。

いつも私は一人ぼっちじゃない。

・・・・・・はずなのに、どこか寂しい気がするのはなぜだろう。


誰もいない自分の家。

どこからも音のしない私のマンション。

靴下を脱ぎ捨てると、脱衣所を出て、裸足で廊下をぺたぺたと音をさせながら歩き、自分の部屋に入った。

すぐに制服から部屋着に着替えて、湿った制服をハンガーにかけた。


机に向かい、引き出しからスケッチブックを取り出した。

絵を描くのが得意な私は、真っ白いページを広げると、鉛筆を手にした。

ゆっくりと目を瞑ると、あなたの寂しげな横顔を思い浮かべた。

鮮明に思い出せるあなたの横顔。

パッと目を開くと、あなたの横顔を描き始めた。


物悲しい雰囲気の横顔を描いていると、その悲しさが私に伝わってくるような気がした。

私は、寂しいのだろうか。

自分では、よくわからない。


共働きで、両親ともに毎日帰りが遅い。

食事は、昼以外、平日は一人で食べている。

休日は、なるべく家族そろって食べるようにしているけれど、たまに父がいなかったり母がいなかったり私がいなかったり。


考え事をしていると、寂しいと悲鳴が聞こえそうなあなたの横顔の絵が出来上がった。

鉛筆だけで描いたせいか、モノクロのあなたはより一層寂しさを物語っている。

寂しそうな横顔・・・・・・って、私は人のことが言えるのかな。


次の日、いつもより早めに学校に着いた。

薄暗い空の下にある校庭を、窓もカーテンも開けて、あなたは頬杖をついて見ている。

教室には、私とあなたしかいない。

まるで空気に溶けているかのように、あなたはぴくりとも動かずに頬杖をついたままでいる。


「おはよう」


廊下側にある自分の席から、あなたに声をかける。


「あぁ・・・・・・、おはよう」


気だるそうな声で、あなたは少しだけ顔をこちらに動かして返事をしてくれた。

スケッチブックに書いたあなたの絵を鞄の中から取り出し、あなたの前に差し出した。


「あげる」

「え?」


怪訝な顔で、あなたは自分が書かれた絵に目を落とした。


「私、絵を描くのが好きだから。都築君の絵を描いてみたんだ。どう?似てるでしょ」

「へぇ、水野って絵が得意なんだ。でも、何で俺の絵なんだ?」

「なんとなく・・・・・・表情が、創作意欲をかきたてたんだ」


クスリとあなたが笑った。


「俺の表情が? そうなんだ。これ、もらっていいのか?」

「うん」

「ありがと」


照れ笑いを浮かべると、あなたは私が描いた絵をまじまじと手にとって眺めた。

私は自分の席に戻り、鞄の中のものを自分の机に入れた。

ようやく次のクラスメイトが教室に入ってくると、あなたは急いで私が描いた絵を机の中にしまった。

たったそれだけのことなのに、なぜか私はドキッとした。

その直後に、安堵感が私の体を走りすぎた。

一気に書き上げた作品です。

人間の心のつながりをテーマに書いてみました。

読んだ方が、それぞれに何かを感じ取ってもらえたら良いなと思います。

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