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どうやら俺は異世界で聖女様になったようです  作者: 蓑虫
第一章 森と村と赤毛の女性
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八話:出発

 ギフトバイパーを退治した日の翌日である今日は朝早くから起こされることもなく、すっきりと目が覚めた。七、八時位だろうか。

 夜何もする事がないから早く寝たのだが、それでも元の世界で起きる時間より遅いのはなぜだろう。

 ギフトバイパー退治で疲れていたのか、それとも魔力を使いすぎたからか?


 とりあえず部屋に備え付けられている鏡を見ながら寝癖を整える。髪が長いせいかなかなかに大変だ。

 そのあといつも通り帽子をかぶって髪を中にしまう。

 そして昨日ノーヴェさんに今日村を出ると言われていたから荷物をまとめる。といっても服も多くないし、洗ったあとはたたんで鞄にいれているからすぐ終わる。寝癖を整える方が時間がかかったくらいだ。


 忘れ物がないかしっかりチェックし、宿の食堂へむかう。さっきからいい臭いが漂ってきているし、朝食が楽しみだ。やや早歩きで食堂に向かう。


 俺が食堂に入ると、すでにノーヴェさんがいて宿の主人の娘さんと話をしていた。

 俺の姿を見てこっちにこいというように手招きをする。俺はそれを受けてノーヴェさんの隣の席に座った。娘さんは「じゃあ朝ごはん持って来ますね」と言って厨房に入っていった。



「ルーク、おはよう」

「おはようございます、ノーヴェさん」



 共に挨拶をする。

 ノーヴェさんは少し眠そうだ。ちょっとだけだが隈ができているし時々あくびをしている。どうしたのか聞いてみると、



「これを書いていたのさ 」



 そう言って服のポケットから何枚かの紙を取り出す。

 よく読めないが、それにはびっしりと文字が書かれていた。



「それ、いったい──」

「お待たせしました」



 俺が何を書いていたのか聞こうとしたとき、娘さんが二人分の朝食を持ってきた。

 メニューは蒸しパンと魚のムニエル、ポテトサラダっぽい物、白いスープ。朝から豪華だ。



「魚は昨日の夜捕ったばっかりで新鮮ですよ。これもノーヴェさんたちがギフトバイパーを退治してくれたおかげです。ギフトバイパーが住み着いてから捕りに行けなかったものですから」

「ふふっ、そうかい。それはよかった。それにしても美味しそうだねぇ」



 俺もノーヴェさんと同意見だ。その白身はしっかりと張りがあり、かつ柔らかそうだ。焦げもなく、いい具合の焼き加減。



「それは私が作ったんです。他のはお母さんが作ったんですけど……自分でもいい出来だと思うんですよ」

「へぇ。凄いねぇ」



 ノーヴェさんはまずスープを飲む。この世界には食事の前に「いただきます」を言う習慣はない。最初は戸惑ったし、今でもたまに言ってしまいそうになるが、なるべく言わないように努力している。やっぱり不自然だと思うし。

 俺はまずサラダを食べる。少し味がついており、基本はもっさりとした芋っぽい食感だが時々あるシャキッっとした食感がいいアクセントになっている。うん、美味しい。


 この宿のご飯はいつも美味しい。女将さんが料理上手なのだろう。ゲームがないこの世界、食事が一番の娯楽だからなぁ。いつかこの村の近くに戻ってきたらこの宿に泊まるつもりだ。他に宿あるのか分からんけど。


 その後俺とノーヴェさんは同時にメインであるムニエルを口に運ぶ。

 そして、同時に固まった。



「あ、あれ?どうしましたか?」



 娘さんの慌てた声で俺たちは動きだす。俺はスープを飲み、ノーヴェさんは水を凄い勢いで飲んでいる。

 ……凄い味だった。とりあえず確実に塩と砂糖を間違えている。さらになぜか酸っぱい。

 とてもじゃないが俺にはこれを完食することは出来ないだろう。



「アン……これ一度自分で食べてみなさい」

「え、でもお客様のご飯を食べるなんて……」

「い ・ い ・ か ・ ら」



 娘さん──アンさんはノーヴェさんの迫力に負けてしぶしぶムニエルを食べる。そして俺たちと同じく固まった後、90°腰を曲げた。



「も、申し訳ありません!お客様にこんなものを出してしまって!すぐ作り直しますので!……って、キャア!」


 

 ガシャーンと食器が割れる音が食堂に響く。

 俺たちのムニエルをのせた皿を持ち、厨房に戻ろうとして──何もないところで転び、皿が割れ、破片とムニエルが飛び散った。



(か……完璧なドジっ娘だ!)



 おそらく塩と砂糖を間違えたのもドジだろう。

 俺は確信し、そして決意した。

 今後またこの宿に泊まることがあっても、アンさんの料理は口にしないと。



 ◇



 あの後宿の女将さんが来て事なき事を得た。アンさんは大目玉を食らっていたが。

 今俺はノーヴェさんが村を出る前に村長の所に行っているから門の前で戻ってくるのを待っている。…暇だなぁ。

 


「あなたがルークさんですか?」



 暇をもて余していた俺に、声がかけられる。

 声をかけてきたのは少し長めの金髪を後ろでまとめている、二十才前後程のハンサムな青年。

 背は高く、百八十㎝位。少しつり目なのにも関わらず穏やかな雰囲気を感じさせる。



「はい、そうですけど……なたは?」

「これは申し遅れました。私は秘書をやっております、ヴェルディと申します」

「えっと、ヴェルディさん。僕みたいな子供に敬語を使わなくてもいいですよ」

「これは癖なもので。どうかお気になさらず」



 そう言われても気になってしまうのだが…口調を改める気が全く無いことが分かってしまったからそれ以上言うのは止めることにする。

 そして秘書というのはこの村の村長の秘書ということだろうか。この村に村長の他に秘書を雇う必要がある人がいるとは思えないからそれ以外ないか。



「それでヴェルディさん、僕に何か用ですか?」

「特に用があるという訳ではないのですが………()ものギフトバイパーを倒した方にお礼を言いたかったのです。本当にありがとうございました。後、純粋にあなたに会ってみたかったのですよ。子供だと聞いていたのですが、凄い実力を持っていそうですから」

「いえ、五匹のギフトバイパーを退治したといってもほとんどノーヴェさんが退治したもので、僕は全然役にたちませんでしたよ」



 そう俺が言ったのを聞いて、ヴェルディさんは一瞬だけニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。

 だけどすぐニコッと朗らかに笑って「ご謙遜を」と言った。……あれ、あの嫌な感じの笑みは見間違い、なのかな?



「おーい。待たせたね、ルーク」



 その時、村長との話が終わったのかノーヴェさんが歩いてきた。



「おや、もう来ましたか……それではまたお会いしましょう。()()()()

「えっ」



 ヴェルディさんはノーヴェさんにはギリギリ聞こえない位の声でそう言って去っていった。

 ……お嬢さんって、ルークが女の子だとバレたのか?それにまたお会いしましょうって……。

 ヴェルディさんと入れ替わりにノーヴェさんが俺の目の前に立つ。



「ルーク、彼と何を話していたの?」

「い、いや、なんでもないですよ。それより早く行きましょう」


 

 俺は追及されるのを恐れて早く行こうと急かす。

 ノーヴェさんも反論することはなく、馬に乗る。

 俺も荷台に飛び乗り、馬車は走り出す。

 ゆっくりと俺たちは村を離れていった。

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