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どうやら俺は異世界で聖女様になったようです  作者: 蓑虫
第一章 森と村と赤毛の女性
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六話:試験

 



「ほらルーク!早く起きな!」



 俺は朝、ノーヴェさんのその声とドンドンと扉を叩く音で目が覚めた。



「起きないなら叩き起こすよ」



 ガチャガチャと掛けておいた鍵を開けようとする音がする。

 俺が急いでベッドの横に置いておいた帽子で髪を隠したのとノーヴェさんが扉を開けたのは同時だった。



「ノーヴェさん、なんで部屋の鍵持ってんですか」

「この部屋はアタシが借りたんだから鍵を持っているのは当たり前だろう。ていうかなんで部屋の中でも帽子をかぶっているんだい」



 あー、そりゃそうですよね。ノーヴェさんが借りたんですもんね。

 帽子は髪を隠して男のふりをするためです。

 それはそうとして、こんな早くに起こさなくてもいいだろう、と思う。窓(まだガラスはないらしく木の板を窓枠にはめたもの)を開けて外を見てもまだ薄暗く、日は少ししか昇っていない。多分4、5時位だと思うけど……。



「昨日この村の村長に依頼されてね。森の中の湖の近くにギフトバイパーが住み着いたらしいから退治してくれって。この村には冒険者ギルドはないから登録はできないけど、登録したあと私と共同で依頼を達成したことにできるよ」



 そんな俺の考えを悟ったのかノーヴェさんが説明してくれた。

 ギフトバイパーなら知っている。ゲームでも出てきた、大型の蛇モンスターだ。強力な毒を持っていて、噛みつかれると大変なことになる、厄介なやつだ。

 初心者が中級者と認められるための登竜門と言われているモンスターだ。だが、



「それがなんでこんな朝早く起きることになるんですか?」



 そう、それが分からない。なぜギフトバイパーを倒すことと朝早く起きることがつながるのだろうか。



「なぜかは分からないけど、ギフトバイパーは寒い時程動きが鈍いのよ。だからなるべく寒い朝早くに退治に行くの。これはけっこう有名な話なんだけど……そっか、ルーク記憶喪失だったっけ」



 ノーヴェさんは俺のあまりの無知さを訝しんでいたけど自分で納得してくれた。いろいろ聞いても怪しまれないし、記憶喪失の設定便利だな。……少し罪悪感あるけど。


 ギフトバイパーの性質については、そっか、ギフトバイパーは蛇だもんな、と思う。変温動物だから寒いと体温低くて動きも鈍くなるか。ゲームではそういう細かいことはなかったから気づかなかった。

 まあ、理由があるならいいんだけどさ。


 

「ノーヴェさん、だったら昨日のうちに言っておいて下さいよ……」

「ごめんごめん、忘れてた」



 ノーヴェさんをジト目で見て抗議してみるが、あっさりとスルーされる。そしてノーヴェさんは突然いつになく真面目な顔になった。



「昨日はあんたを連れていくって言ったけど、私は自分で自分の身を守れないようなやつを連れていく気はないよ。このギフトバイパー討伐はあんたの力を試すものだ。いわゆる試験。嫌ならやめてもいいんだよ」



 急に変わった雰囲気と鋭い眼光に一瞬怯んだが、すぐにノーヴェさんの目を見て「分かりました。その試験、必ず合格してみます」と答える。

 するとノーヴェさんは穏やかな、少し飄々としたいつもの感じに戻る。そして微笑しながら、



「朝御飯は向かいながら食べるよ。私は門の前で待っているから、準備できたら早く来なさい」



 そう言ってノーヴェさんは出ていった。

 準備、といっても別に寝間着とかないから普通にこのまま外に出られる格好だし、特にすることはない。せいぜいナイフを持っていく位だ。

 すぐに準備を終え、走ってノーヴェさんを追いかけた。



 ◇



 朝御飯としてさっき渡されたサンドイッチっぽいやつを食べながらノーヴェさんについていく。

 サンドイッチはハムっぽい燻製肉とレタスのようなしゃきしゃきの葉野菜を焼かれた少し固めのパンで挟んだものだ。燻製肉は少ししょっぱい位塩がふられているが、パンと野菜と一緒に食べる事で程よい味付けになる。少し噛みきるのが大変な位固いが食べれない程ではない。十分美味しい範囲に入る。


 俺がサンドイッチを食べきったところでノーヴェさんが歩くスピードを速める。ノーヴェさんは鍛えているからかなれているからなのか森の中にも関わらずかなり速い。 正直ルークの身体能力ではおいてかれてしまう。

 だからこっそり自分の身体能力を上げる魔法をかけた。ノーヴェさんにはかけない。絶対ついていけなくなるからだ。

 その瞬間一気に歩くスピードが上がり、ノーヴェさんを追い抜き木の根に足を引っ掻けて転んでしまった。



「ルーク……突然どうしたんだい……」

「ア、アハハ……」



 変な人を見るような目で見られたが笑ってごまかす。

 自分で魔法をかけたのだが、思ったより速くなって思考が体についていかなかった。

 すぐに立ち上がって服についた汚れを落とし、今度は集中して歩く。

 しばらくすると上がった身体能力にも慣れ、普通に歩けるようになる。あー、さっきまでよりかなり楽だ。



「そういえばルーク、あんた武器持ってないけど、それでギフトバイパーと戦えんの?」

 


 俺がかなり軽装なのを見てノーヴェさんが聞いてきた。

 まあ、試験だって言っているのに丸腰な俺を見たら本当にやる気があるのか?って思うよな。足手まといになったら迷惑だろうし。

 俺は手を差し出し、身体中の魔力を手のひらに集める感覚を意識しながら小さな炎が出るようイメージする。



「っ!」

「僕はこんな風に魔法が使えるので……あれ、ノーヴェさんどうしたんですか?」


 

 俺の手のひらの上に浮く拳大の炎を見てノーヴェさんは息を呑んだ。

 俺は何か変なことをしたのか?



「もしかして魔法って珍しいものなんですか?」

「い、いやそういう訳じゃないよ。ただルークみたいな子供が使ったのに驚いただけさ。いつ頃から魔法の練習をしてるんだい?」



 ……そういえばルークって何歳位に見られてるんだろう。14、5歳をイメージしたけど女の子だから背は高くないし、声も意識して低くしているとはいえ男にしては高い。そう考えるとかなり若くみられていそうだ。ノーヴェさんが俺を連れていくのを渋っているのはそういう理由もあるのだろうか。



「すいません。魔法が使えるっていうことは覚えてるんですけど、いつ頃から使えるかは覚えてないんです」



 そう俺は答える。嘘だけど。

 だって3日前からです、って言っても信じてもらえないだろうし、変に思われる。



「そう……」



 ノーヴェさんは何か考えているのか、そう言ったきりじっと黙り混んでしまった。

 少し気まずい雰囲気になったが、幸いその後すぐにギフトバイパーが住み着いたらしい湖の畔についた。


 俺とノーヴェさんは湖の畔でギフトバイパーの痕跡を探す。ノーヴェさんによると「多分この湖に水を飲みに来ているんだろうから何かしら手掛かりがある」らしい。

 そしてノーヴェさんの予想通り、巨大な何かが這って移動したように草が乱れているのを見つけた。



「ノーヴェさん、多分これギフトバイパーの通った跡じゃあないですか?」

「ああ、そうだね。これに沿っていけばギフトバイパーの巣が見つかるかもしれない。……ルーク、ここからは静かにね」


 

 無言で、なるべく音をたてないようにその跡に沿って森の奥へ進む。

 少しするとやや開けた、でも日はあまり差し込んでいない広場が視界に入った。

 そこには体長6メートル程、太さは1メートル位ある灰色の大蛇、探していたギフトバイパーが……




 五匹いた。




 思わず「はあっ!?」と叫びそうになるのをなんとか我慢する。騒いで気づかれるのはまずい。

 ってか、多すぎだろ!あんなでかいのがなんで群れ作ってんだよ!?蛇は普通群れ作んねえだろ!でかい蛇が五匹もいて気持ち悪いわ!

 


「ルーク、さすがにあの数はまずい。……あんたは逃げな」



 やや混乱していた俺に、ノーヴェさんが小声で話しかける。そのおかげで気をとりなおせたが、



「ノーヴェさんはどうするんですか?」

「私はあれを倒してくるよ。依頼されてるしね。だけどあんたの試験にしては危険すぎる。試験はまた今度。早く村に戻りなさい」



 小声で聞いて返ってきたのはあの群れに一人で挑むという意思。

 正直逃げたい。だからそう言ってくれるのはありがたい。だけど俺にあんなに親切にしてくれたノーヴェさんを見捨てていいのか?



「ノーヴェさん、一人でギフトバイパー五匹を無事にたおせるんですか?」

「私を誰だと思ってるんだい。余裕だよ。だから早く「逃げません」っ!?」



 ノーヴェさんは、言い終わる前に重ねられた俺の言葉に絶句する。

 大丈夫だと言っているが、それは嘘だと分かってしまった。ノーヴェさんの実力を実際に見たことはないからそれは俺の勘違いで、実際には本人の言う通り楽勝なのかも知れない。

 だがもし俺を逃がす為にそう言ってくれるのだとして、俺が逃げたあとノーヴェさんが帰ってこなかったら、と思うと不安でしょうがない。



「それに、逃げるにはもう遅いと思いますよ」



 そう。俺たちを感知したのかギフトバイパーがこちらに移動してきている。逃げたところで捕まるのがオチだろう。



「……ごめんね、ルーク。試験って言ってこんなことに巻き込んじゃって」

「大丈夫です。だからそんなあきらめたようなこと言わないで下さい。……キューレ。」


 

 俺の呪文と同時に強い冷気がギフトバイパーを襲う。それにより一気に体温が下がり、動きが鈍くなった。

 


「諦めてなんかいないさ。ただ、覚悟はしておきな!」



 ノーヴェさんは腰にかけていた剣を構え、一番近くのギフトバイパーに切りかかる。俺はノーヴェさんに冷気が当たらないように調節しながら新たな魔法を唱える。



「ノーヴェさん、身体強化の魔法をかけます!バランスを崩さないように注意してください。ブースト!」



 その瞬間ノーヴェさんの動きが格段に速くなり、ギフトバイパーの噛みつきを避け、なおかつ剣の腹で叩きつける。普通突然身体能力が上がったら戸惑うことが多いのに それにすぐ対応できるのは凄い。

 慣れるまではフォローするつもりだったが、必要なさそうだ。だから俺たちから一番遠い所にいる、最も大きなギフトバイパーに狙いを定め、俺が使える一番威力が高い魔法をその一体に範囲を収縮してぶちかます。



「ラグナロク」



 北欧神話の最終決戦の名を冠するその魔法は、ギフトバイパーをもとから存在しなかったかのように消し飛ばした。

 最強の魔法を他の魔法を使いながら、かつ範囲を制限して使ったためか一気に魔力が減っていく。あと弱い魔法を一、二回使えればいいほうだ。



(思ったより冷静じゃなかったのか。ギフトバイパーにラグナロクなんてオーバーキルすぎる。魔力もろくに残ってないし、失敗したな)

 


 だが俺たちにとって幸運だったのはどうやら消し飛んだ大きめのギフトバイパーは群れのボスだったのか残りの三匹(一匹ノーヴェさんが倒していた)はうろたえ、逃げ出そうとした。


 当然逃がすわけにもいかないし、その隙を見逃すノーヴェさんじゃない。その後俺は役立たずだったが、あっという間にノーヴェさんが掃討。

 俺の初の依頼はこうして完遂されたのだった。



ルークのチート回。

まあ、古参で上級者のルークがギフトバイパー程度に負けるはずがありません。


ちなみにギフトバイパーのギフト(gift)はドイツ語で毒、バイパー(viper)は英語で毒蛇という意味です。毒がかぶっているのは気にしないで下さい。


おかしい、厨二のバイブルドイツ語を使ったのに微妙な名前になってしまった…。

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