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どうやら俺は異世界で聖女様になったようです  作者: 蓑虫
第三章 戦場とマッチョエルフ
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二十五話:ハルメラ襲撃事件・上

 使い魔を通して見ていた暗殺者と聖女様(ルーク)の戦闘が終わり、気絶した聖女様を慌ててマッチョなエルフが治癒魔法をかけている。

 少しずつ傷が治り出血がおさまったところで本格的に呪文を唱え出し、非常に強い光が少女を包み癒していく。魔法を唱えた張本人であるマッチョなエルフは目を逸らすが使い魔を通す事で光量や音量を調節出来る為ヴェルディはしっかりとその光景を観察する。



「それにしても『不沈艦』までこの世界に来ていたのですか。早いうちに気づいていればこちらに引き込んだものを……今からでも出来ますかね?」



『不沈艦』というのはゲーム時代にバドラーにつけられた二つ名で、他にも『マッチョエルフ』『筋肉ダルマ』など数多く存在する。それほどバドラーは有名だった。ヴェルディが知っているのも当然と言える。

 ルークも今は姿形どころか性別まで全くの別人になっている為気づく方がおかしいが、本来ならすぐに気づかれるほど有名なプレイヤーの一人だった。



「……まあそれはまた今度考えるとしましょう。今大切なのは聖女様の事だ。とりあえず、ここまでは順調ですね」



 送り込んだ暗殺者は返り討ちにあったが、成功か失敗かといえばヴェルディにとっては成功だった。

 実のところヴェルディにとってルークは死んでも構わないが、出来れば死なない事が望ましい。不確定要素や今後ミスをする可能性を考えればここで殺せた方が楽で確実だが、より良い結果を求めるなら今は生きていた方が良い。

 ルークが負傷しつつも生き残り、十分な情報を得られた今回はベストではないがベターな結果といえる。


 ヴェルディが今回得た情報として、ルークはかなりの剣の腕を持っている。生半可な技量だとすぐに殺されていただろう。ただ、身体能力はそこまで高くない。

 そして例外があるにしても剣を扱えるという事は魔法特化ではない。ならば魔法特化の元プレイヤーの魔法によるごり押しで十分勝機がある、という事になる。

 そもそも人族は良く言えばオールマイティー、悪く言えば特出した物が無いのが特徴の種族だ。見たところ彼女は人族。精霊族や妖精族の魔法の技量にはよほどスキル熟練度や素の能力値に差が無い限り敵わないだろう、というのがヴェルディの見解だ。


 そして彼には妖精族の()が居る。


 ヴェルディは左耳にピアスのようにつけている赤く透き通っている宝石のような物体に魔力を流す。すると赤からエメラルドのような綺麗な緑色に変色した。これが、この魔導機が正常に作動している証である。

 変色と同時に鼻歌が彼の耳に入る。まるでプロの歌手のように綺麗で不自然な音程は無く、透き通るような歌声のそれは無視して、



「ナナさん、聞こえますか。今どこに居ます?」



 そう声をかけた。

 その瞬間何かが爆発したかのような破壊音が鳴り響く。魔導機が音量を調節している為うるさい訳ではないのだが、何事かとヴェルディは思わず顔をしかめる。



『ヴェ、ヴェルディ!?びっくりするから突然声をかけないでよ!』

「……そう言われましても、コレは繋がった時に音を出す上に魔力を吸い取るのですから普通気づくでしょう。自分の鼻歌に紛れて聞こえなかったのですか?」

『ちょうど魔法を使ってたとこだったから……って鼻歌聴いたの!?』

「ええ。繋げた時に聴こえたので」

『っ~~~~~!』

「ナナさん?どうしました?」

 


 通話の相手である妖精族の女性──ナナは小さく奇声を上げたきり黙りこんでしまった。十数秒後にようやくコホンと咳をして会話が再開される。



『ごめんね、恥ずかしさに身悶えしてた。……さっきの鼻歌は忘れて』

「そう言われましても、あんなに綺麗で上手な歌はそうそう忘れられないんですが。私は貴女の歌好きですよ」



 そう言い切った瞬間再び爆発音が魔導機を通して辺りを震わす。しかも音からするとさっきよりも大規模だ。



『……なんで貴方はそういう事を平然と言えるの。まったく……勘違いしちゃうじゃない』

「何か言いましたか?もう少し大きな声で言ってくれないと聞こえないんですが……」

『なんでもない!それより何の用なの?』



 あまりにも露骨過ぎる話題のそらしかただったがヴェルディにはそこまで追及する理由は無かった為それに乗る事にすると決める。

 となればあとは自らの目的を果たすのみだ。



「少し頼みたい事がありまして。今どこに居ます?」

『今はなんか砂漠に居るよ。ザッカニアの西の方の国境を越えて違う国に入ったみたい』

「……そこからナハト、いえハルメラまで来るのにどれくらいかかりますか」


 

 彼は通信相手のあまりにも自由奔放な行動に一瞬頭を抱えたものの直ぐにいつもの事と切り替えてこれからの行動を組み立てるべく質問を重ねる。ナハトからハルメラに言い替えたのは小さな村であるナハトを彼女が覚えていない可能性を考えた為だ。



『う~ん……()()()二週間位かなぁ。疲れるからあまりやりたくないけど。緊急?』

「出来ればなるべく早くしてほしいところですね」

『了解。じゃ土蚯蚓竜(サンドワーム)を片付けたら早速向かうね』



 彼女がそう言い切って数秒後に彼女の側から魔力の供給が断たれて魔導機はルビーを彷彿とさせる赤色に戻り、通信が終了する。


 ヴェルディはまるで朴念人のような受け答えをしていたが、実際にはとても鈍感とは言えない人種だ。聞こえないと言ったところも普通に聞こえていたし、勿論彼女の気持ちにも気づいている。そもそもまるで小さい子供のように真っ直ぐな彼女の気持ちに気づかないのはよほどの馬鹿だけだ。本人は隠せているつもりらしいが。

 だが気づいていないフリをして気持ちを伝えるのを先送りにし、その心を利用して手下という訳ではない彼女を使っていた。女の敵と呼ばれても文句は言えないだろう。


 それはともかく、彼女の言い方からしてザッカニアの国境を越えてあまり移動をしていない。そこから東よりにあるハルメラまで二週間という事はそこからナハトまでは五日程、余裕を持っても合わせて二十日かかる。そうヴェルディは計算し、その二十日間で自らが何をするか、ほとんどの予定を決めた。


 土蚯蚓竜(サンドワーム)を片付けたらという事はさっきは戦闘中であり、聞こえてきた爆発音は魔法の音ですかね?などと益体の無い事を考えつつ意識を使い魔と同調させる。

 ルークにつけている奴ではなく、転移魔法でさりげなくハルメラに召喚しておいた小鳥の方だ。ヴェルディは空を飛べ、かつ目立たない小鳥を好んで使い魔としていた。


 ヴェルディの脳裏に直接ミノタウロスを筆頭に暴れる獣たちを、数十人で抑え込んでいる景色が写し出される。しばらく観察していたが、思わず「ホゥ……」と感嘆の息を洩らした。

 街はかなりの範囲が破壊されており、貿易都市としての役割はとてもじゃないが果たせそうにない。多数配備されていた兵士達も大きな被害を被っただろうし、目的通りザッカニアに多大なダメージを与えた。


 だがこれ以上は望めなさそうだと判断する。先程の感嘆は上手くミノタウロス達を食い止める兵士と冒険者達の技量に対しての物だ。

 特に二メートル程の槍と弓、剣を状況に合わせて使い分け遠距離・中距離・近距離全てに対応しつつ辺りに指示をとばす赤毛の女性。かなりの重量になるだろうに機敏に動き周囲にも気を配るその姿は見事と言う他ない。

 そして双剣を構え縦横無尽に動き回り、獣達の動ける範囲を狭めている青い毛並みの獣人の少女。その動きはかなり速く、本来ヒトに身体能力で勝る獣のスピードを凌駕している。

 先日までルークと共にいたノーヴェとエイミィ。この二人の働きが非常に大きかった。


 ミノタウロスは致命傷には至らないものの細かな傷かいくつもあり、赤黒い血をだらだらと流している。このままでは倒されるのも時間の問題。冒険者達が何か大きなミスをするか体力や集中が切れでもすれば分からないがそれを期待して待つのは下策だろう。

 かといって大きな障害である二人を排除するのも難しい。殺す事は出来るだろうがその後にヴェルディが生還出来る保証が無いからだ。



「ふむ……ならばここは恩を売っておくべく、あちらの手助けをするとしますか。それにしても、あの化け物(ロナルド・ヴィッセル)が居なくて良かったですね。彼なら瞬時にミノタウロスを殺しかねない」



 故に今後の事を考えてそう決断する。ノーヴェは彼の事をサミレスの村長の秘書と思っているしエイミィはそもそも彼を見た事すら無い。唯一彼の正体を知っているロナルドは既に死んだか、生きているにしてもハルメラに居ないと断言出来る。理由は先程彼が言ったとおりだ。一度見ただけだがそう確信させる程の実力を武神は持っていた。

 仲間とまでは行かなくとも、ハルメラを守る動機がある人間と彼女達に思わせておけば、これから動きやすくなる。


 そうと決まればあとは行動有るのみ。戦闘の準備として懐から十二センチ程まで折り畳まれた紙を取りだし広げる。広げきったそれはミノタウロス達を召喚したものと同じ、つまり転移魔法の魔法陣が描かれた一メートル四方の魔法の発動体。

 その魔法陣に呪文を唱えながら魔力を流し込む。限界まで魔法陣を小型化した為魔法陣のみでは転移魔法が発動しないからだ。

 持ってくる物の大きさ・量的に開く門は十平方センチもあれば十分なのだが、それでも転移魔法はヴェルディが知る最高の魔法使いであるナナが全魔力の八割を使わなければ発動させられない程の超高難度の魔法だった 。


 呪文を唱え終え、魔法陣のアシストがありながらヴェルディの全魔力の三割を持っていった転移魔法が発動し魔法陣から一本の剣が出てくる。否、片刃で刀身が反り返っている事を考えれば刀と言う方が正しいか。

 彼が腕は最高だが気難しく自分の気に入った人物にしか剣を造らない事で有名なドワーフの名工の試験をクリアし気に入られて彼に合わせて造り上げられた特注品。凄まじい切れ味を誇る彼の愛剣だ。


 刀の概念が無いこの世界で常備していると目立つ為、ノーベラルにある彼の家に保管しておいたそれの柄を左手で握り、一瞬で鞘から出して軽く斜めに振り下ろす。

 ビュッという空気を切る音を発しながら常人には目視も難しい速度での素振り。一度ピタッと静止したのちより速度を上げての三連撃。そして更に速い剣速で五連撃をして鞘に収める。


 ──調子は悪くないですね。


 刀を振った感覚からそう判断し、微かに笑みを浮かべた。その後自らにブーストをかけ直し、強く地面を蹴ると同時にウィンドを使用、大きな推進力を得て体を浮き上がらせる。

 たった一歩で五十メートル程の移動をしてハルメラへと向かう。街に近付くごとに逃げ惑う人々が増えていくが、それには目もくれず人がごった返す門を飛び越えて街に入り一軒の宿の屋根の上に着地した。ミノタウロス達とザッカニア兵士と冒険者の混合軍の戦闘場所から二キロメートルは離れているが、戦闘によりその周囲の建物が崩れ去っており、彼が視力を強化している事もあいまってはっきりと視界に捉える。


 先程と同じ要領で屋根から屋根へ移動して戦場へ向かい、移動しながら呪文を詠唱し魔法の準備を進める。

 戦場の半径約三百メートルの建物が全て倒壊している為ギリギリのところで立ち止まった。彼の計算通りそれと同時に詠唱があとは魔法名(キーワード)のみ残して終わる。



「それでは行くとしますか。──皆さん離れて!『首切風刃(ギロチン)』」



 より強く長くウィンドを使う事で一気に距離を詰めながら警告の声をあげ、呪文の最後の単語を口にする。警告のおかげで一部の反応が遅い者達を除いて退避した。魔力を感じられる魔法使いやかなりの実力を持つ戦士はそれを発した人物(ヴェルディ)から流れる強い魔力の奔流を確認したからでもある。


 魔力が膨大な空気を圧縮し、凍った水蒸気等も含む巨大な刃を造り出して狙うべき敵(ミノタウロス)の首目掛けて飛んでいく。

 それを察知したミノタウロスが手に持つ大斧で防ごうと振り回した。一瞬空気の刃と大斧が均衡し、その一瞬の後に大斧が真っ二つに両断される。ただそのおかげで刃の軌道が首から逸れ角が切り落とされた。その際離れていなかった一部の者達が巻き込まれて体の一部が分離していたが魔法を放った張本人はまったく気にしない。



「ヴモォォォオオオ!」

「煩いですよ、牛。黙りなさい」



 痛みに吼えるミノタウロスの右目を、既に刀の間合いに入っていたヴェルディが左手に持つ獲物で突き刺す。その後ミノタウロスの顔を蹴り飛ばして空中で旋回、華麗に地面に着地した。



「あんたは……」

「話は後です。今は早くこのでかぶつを片付けましょう 」

「……それもそうだね。じゃ、さっさと倒しちゃおうか」



 抵抗勢力の中で特に目立っていた二人のうちの赤毛の女性の方──ノーヴェが驚きを隠さず話しかけてきたが、ヴェルディはミノタウロスを見据えたまま丁寧な言い方で素っ気なく答え、ノーヴェも納得しヴェルディが見る相手と同じ相手を見る。

 他の兵士や冒険者はそれぞれ近くにいる獣を倒し、残りはミノタウロスのみ。彼らも武器を構えたまま立ち止まって最後に残った敵を睨みつける。



「ヴガァァァアアア!」

「あんたら行くよ!」

「「「おう!」」」



 膠着した状況はその最後の相手の咆哮によって終わり、皆がノーヴェの指示を受けて急造にしては見事な連携を見せながら突っ込む。

 ヴェルディの乱入で一旦静止した争いだったが、再び戦端が開かれた。

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