十三話:師事してもらおう
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カァン、カァン……
朝、目が覚めて最初にそんな金属が打ち合う音が耳に入る。
ベッドから出て服のシワを整え、帽子をかぶった。
この世界に来てから二週間がたち、髪とか伸びてきてもおかしく無いと思うけど全然長さは変わらない。ゲームキャラの設定のままの長さ。これが俺だけなのか、それとも他の元プレイヤーたちも同じなのか。そういうことを調べる為にもやっぱり早くプレイヤーと思われる人たちがいるという王都に行きたいな。
部屋を出て音がする方へ歩く。気になるし。
音は宿の裏庭から聞こえてくる。今思ったけど裏庭がある宿って結構凄いよな。部屋も綺麗だし、なかなかに高級な宿なのかもしれない。宿代や防具とか、かなりお世話になってるよなぁ。……絶対いつか返す。
そんな事を考えているうちに目的地に着く。
目を向けると激しく動き回る陰が二つ。
ノーヴェさんとロナルドさんだ。
ノーヴェさんは二メートル余りの長槍を持ち、そこらの一般人、いや冒険者でもそこそこの腕が無ければその姿がはっきりとは見えない程のスピードでロナルドさんに向け突き出している。
対するロナルドさんは右手に九十センチ程のロングソードを、左手にロングソードより少しだけ短いフランベルジェと呼ばれる刀身が波打っている剣をそれぞれ持ち、ノーヴェさんの放つ槍を弾いている。
一見ノーヴェさんが連続で攻撃しており、押しているように見えるがノーヴェさんは顔を歪ませロナルドさんを睨んでいるのに対しロナルドさんはまだまだ楽だとでも言うように危なげなくその猛攻を防いでいる。
そして高レベルの魔法剣士のルークの体(というより目)だから分かるがロナルドさんは本気を出していない。その槍さばきの隙をいくらでも突けるのにあえて防御にまわっているのだ。
本来槍という長いリーチを持つ武器を相手に剣で戦うのは不利。事実剣で槍を持つ敵を倒すのには三倍の実力が必要と言われている。にもかかわらずここまで余裕をもてるのはロナルドさんがかなりの腕を持っている事の証だ。ちなみに何故俺がここまで武器に詳しいかというとゲームの関連で調べたから。
俺がそう分析した瞬間、ロナルドさんが突きを掻い潜り右手のロングソードをノーヴェさんの首に向かって切りつけようとして──寸前で止めた。
「……プハァ。参りました」
「しばらく見ないうちにかなり腕をあげたな。槍の腕なら敵わんぞ」
「余裕であしらっていたくせに白々しい……あなたには剣の二刀流っていう究極の一があるから他のを鍛える必要がないっていうだけでしょうが。生憎アタシはそういう才能がないから多芸を修めるしかないんですよ」
「そんな事はない。俺が才能のないやつを弟子にする訳がないだろうが。……まあ、まだまだなのはたしかだな。なんたって俺との戦闘に集中しすぎて、ルークの気配に気づかないんだから」
ロナルドさんは俺が来てから一度も俺を視界に入れていない。にもかかわらず俺がいる場所に寸分違わず剣を持ったまま親指を向ける。
ノーヴェさんは慌ててこちらを向き、俺の姿を視界におさめた。俺は軽く会釈する。
「おはよう、ルーク。え~と……起こしちゃったかい?」
「おはようございますノーヴェさん、ロナルドさん。大丈夫です。そこまで大きな音はしてませんよ」
気まずそうに言うノーヴェさんに挨拶と一緒にフォローを入れる。これは嘘ではなく、確かに剣と槍が打ち合う音は聞こえたが目が覚めてしまう程ではない。
だが俺の挨拶に不満を持つ娘がいた。
「え~、挨拶するのロナルドとノーヴェだけ?私には?」
その声は頭上から聞こえた。
しかし上を見ても木の枝が揺れている位で人の姿など微塵もない。
……気のせい?いや、何で枝が揺れている?今風は吹いてないし……。
ふにっ!
考えこんだ俺の左右両方の頬を小さな棒状の何かがつつく。
振り替えると、少しムスッとした感じのエイミィちゃんが頬を膨らませ、両手の人差し指を突き出しながら立っていた。
「私もいたのに無視するなんて……ルーク酷くない?」
「いつの間に……あ、いや、ごめんなさい!気づきませんでした!」
慌てて謝る。
そんな俺を見てエイミィちゃんは思わずといったように吹き出し、さっきの怒った顔が嘘のように可愛らしい笑みを浮かべた。
「あはは、こっちこそ意地悪な事言ってごめんね。私は木の上にいて、しかも気配を消していたんだもの。気づかない方が普通。むしろ気がつかれてたら自信を無くしたよ」
事実冗談だったようだ。その言葉に俺はほっと息をつく。
そして枝が揺れていたのは俺が上を向いたのに合わせて飛び降りたから、と分かった。
「良かった。でも、何で木の上で気配消してたんですか?」
「木の上にいたのは気持ち良いから。気配を消していたのはルークが来たのが見えたから、いたずらのつもりで、ね。それと多分私の方が年下なんだから、敬語とか使わなくて良いんだよ。というか使っちゃ駄目。」
エイミィちゃんはテヘッと舌を出して笑いながらそう言う。今までと印象が違うけど、これが素なのかな?
これが仲間と認めた人に見せる姿とかだったら嬉しいけど。
「ん、分かったよエイミィちゃん。──エイミィちゃんもロナルドさんに戦い方とか教えてもらってんの?」
「名前も呼び捨てで良いよ。──うん、二年位前からね。ルークも指導してもらったら?いいでしょ、ロナルド」
エイミィちゃん……エイミィは視線をロナルドさんに向ける。俺もそれを追いかけロナルドさんを見る。
ロナルドさんはエイミィの台詞と俺達の視線を受け、苦笑しながら頷いた。
「ああ、別に構わない。……というかノーヴェにも頼まれていたし、元々教えるつもりだったがな。……それじゃあルーク、ちょっと待ってろ」
ロナルドさんは宿に向け走って行き、数分後、バスタードソードとレイピア、ダガーを持ってきた。
「ナイフは戦闘に向かない。あれは暗殺か鎧を着こんだ奴を押し倒した時鎧の隙間に刺すためのものだ。だから他の武器を使えるようになれ。……とりあえずこれを持って振ってみろ」
そう言って俺にバスタードソードを手渡す。
バスタードソードは柄が長く、重さもそこまで重くない、片手剣としても両手剣としても使える剣。
両手で受けとるが、重い。構えることは出来るだろうが多分振ろうとしても剣に振り回される。
(このままじゃ無理だな……。よし、『ブースト』)
頭の中で魔法をイメージする。
魔力が身体中の筋肉に浸透していき、強化される感覚。
強化されたおかげでちょうどいい重さになったバスタードソードを構え、体が覚えている動きを再現し、振り下ろす。
ビュン!
音をたてて振り下ろされる剣にブレはなく、初めて振ったとは思えない程綺麗な剣筋。
しかし一連の動作をみてロナルドさんは「駄目だな」と断じた。
「ルーク、今度はこれとこれを持て。……ああそうだ、今使ってる魔法は解けよ」
「っ!?」
俺からバスタードソードを受け取り、代わりにレイピアとダガーを渡したロナルドさんの言葉に、俺は驚きを隠せない。
「集中して見ていれば魔力の流れはなんとなくだが分かる。剣を持つ時からお前の体を魔力が巡っている。……魔法のアシストがなければ使えない剣は駄目だ。いざという時魔力切れで剣が振れませんじゃお話にならないからな」
集中すれば魔力の流れが分かるって……それじゃあ無詠唱で魔法を使ったってバレバレじゃないか!
俺はノーヴェさんにそう言ったが「大丈夫、そんな事出来る人はほとんどいないから。アタシも無理」と返された。確かにノーヴェさん程の腕を持つ人でも分からないのだから滅多な事ではバレないか。
とりあえずロナルドさんの実力がおかしいレベルで高い事がよく分かった。
幸いレイピアとダガーはブースト無しでもギリギリまともに扱えたため、軽く使い方を教えてもらう。
尤も、最初からかなり上手く扱えたけど。うん、魔法といい剣の技量といい本当にこの体はチートだなぁ。
そして、しばらく練習した後ロナルドさんは驚くべき事を口にした。
「それじゃ、ルークの実力も見たいし、エイミィと模擬戦をしてみてくれ」




