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どうやら俺は異世界で聖女様になったようです  作者: 蓑虫
第一章 森と村と赤毛の女性
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一話:地球での話

異世界性転換ファンタジーものです。


私はかなり遅筆なので更新が遅いですが、どうかよろしくお願いします。

 俺、道添晴樹はどこにでもいる、普通で平凡で平均的な男子高校生だった。どれも同じような意味だって? それくらい普通だったってことだ。


 成績も運動能力も平均的。顔も中の中。すごく真面目でもなければ、ヤンキーでもない。俺の身長体重の値を聞けば、全国平均がわかる。……うん、我ながらここまで平均的だと逆にキモいな。

 強いて特筆すべき点を挙げるとすれば、反射神経が良い事と、ゲームが大好きなこと位だったな。


 さて、ここまで聞いて察しの良い人なら気づいた事だろう。俺は何度も「だった」という過去形を使っている。つまり今は違うということだ。


 なぜそう言えるかって? それは俺の目の前の光景を見れば一目瞭然だろう。

 数十人、もしかしたら百にとどきそうな、剣やら槍やらを持った厳つい漢達。彼らは俺に忠誠を誓い、片膝立ちで右手をその筋肉の塊である、分厚い胸に添えてうつむいている。

 まるで敬虔な信徒のごとく。祈りを捧げるかのように。



「聖女様、我らを率いてくだされ!」



 中心に座する彼らのリーダーのような漢が、一人顔を上げてそう頼み込む。声をあげる。

 それは間違いなく、俺に向けて言ったもの。

 今の俺は、聖女の名にふさわしい、絶世の美少女。


 肩にかかるくらいの流れるような銀髪。

 やや強気そうな、大きな碧色の目。

 身長百五十センチ程で、バランスのよいスタイル。


 そこには平凡な男子高校の面影など微塵もない。


 ……


 …………


 ………………


 どうしてこうなった!?


 話は、半年程前にさかのぼる……。



 ◇



「……さて、どうしようか」



 ふう、と息を吐く。学校の帰り道、俺は考え事をしながら歩いていた。

 いったい何を考えているかというと、今俺がはまっているGS(ゲーム・ステーション)3専用ソフト、「アセモス・ワールド」についてだ。


 アセモス・ワールドは今最も面白いゲームだと言われている。

 アセモスと呼ばれる世界が舞台の、魔法あり剣あり、エルフありドラゴンありのRPG。こう言うと、ごくありきたりなRPGのように聞こえるだろう。しかしそのシステムは、従来のRPGを大きく凌駕する。


 まずその自由さだ。プレイヤーは英雄になるもよし、そこら辺の農民として過ごすもよしと、いろいろなプレイができる。なろうとすれば国王にもなれる。その自由さが人気の理由の一つ。


 キャラのオリジナリティの高さも人気の理由だ。

 種族は基本人間、精霊種、竜種、妖精種、獣人種、魔族の七種類。そこから獣人なら猫、虎、犬など八種、妖精種に至っては十四種もあり、それぞれ基本能力、スキル熟練度の成長パターンが異なる。

 キャラの容姿はキャラメイクの時に数万のパーツから自由に変えられ、自分好みのキャラが作れる。

 ネタでムキムキマッチョのエルフを作ったプレイヤーもいた。

 

 そして人気の一番の理由は、家庭用ゲームなのにも関わらずオンラインバージョンがあることだ。

 オンラインでは多くのプレイヤーが集まり、常に新たなイベントやクエストが追加され、飽きることがない。

 もちろん、オフラインでも十分に楽しめる。だが、俺はオンライン派だ。というか、オンライン派の方が圧倒的に多い。


 緻密な設定、それでいて、バグがほぼない。かつ、面白い。そんなゲーム、人気が出ないハズがない。


 ちなみに、俺のキャラは人間のハンターで魔法メインの軽戦士。容姿は渋カッコいいぎり二十代の兄貴だ。片手剣スキルと強化魔法スキル、攻撃魔法スキルの熟練度が高く、基本能力は魔力と敏捷度が高い。

 廃人程じゃないがけっこう強く、トップギルド「 アセモスの翼」の初期からのメンバーだ。



「はあ、どうしようかな」



 再度ため息。ガリガリと頭を掻く。

 何を悩んでいるかというと、最近発表されたイベントクエストについてだ。

 そのクエストは、女キャラしか参加できない。まあ、男限定のクエストも今まであったから、不公平だと文句を言うつもりはない。例えば相撲大会とかな。俺は筋力はあまり高くないから、すぐに負けたけど。

 うん。不公平だと文句を言うつもりはない、ないんだが……。今回のクエストの報酬、「風妖精の魔法剣(シルフソード)」は魔法剣士の俺としては凄く欲しい。



(やっぱりギルメンの誰かに頼むかな。でも誰に?)



 悩みながら、ふと、何の気なしに顔をあげる。すると視界に入るのは、俺を目掛けて飛んでくる白球。

 俺はそれを見て、避けなきゃという思考が脳裏をよぎる。そしてすぐさま移動しようとしたが、体がついて行かない。

 結果、見事に顔面に直撃した。



「いってえ!」

「すいませーん」



 痛みに悶えつつうずくまっていると、謝罪の声が聞こえてくる。鼻を押さえながらその声の方を見てみれば、広場で遊んでいる小さな子供達。どうやら、野球をしていたのは小学生らしい。

 小学生相手に本気で怒るのもあれなので、立ち上がってから、気を付けろよーと言ってボールを投げ返す。うーん、軟球で良かった。硬球だったらと思うと背筋が震える。


 あーあ。にしても、やっぱりゲームみたいには避けられないな。

 はあ、鼻痛い。早く帰ってアセモスやろう。勉強? そんなもん知らん。


 帰路を早足で歩き、家に帰ったら真っ先にGS3を起動。ソフトを読み込んでいるうちに制服から着替えて、鞄をベッドの上に投げ捨てる。教科書が散らばったけれど気にしない。


 テレビの電源を入れ、イヤホンマイクを装着してコントローラーを握りしめる。オープニングをすっ飛ばして、インターネットに接続。

 少しの間の後、画面には俺の使っているゲームキャラ、ルークが写しだされた。



「えっと、昨日はどこでログアウトしたんだっけ?」



 メニューを開き、ステータスやらなんやらを確認する。

 現在、クエスト受注中。HPはほぼ満タン、MPは三分の一程減っていて、状態異常はなし。アイテムストレージの中には、ウェアウルフという狼型モンスターのドロップアイテムが沢山。そして現在地は辺境の森、その安全地帯である小屋の中。


 あーあー、確認する間にだんだん思い出してきた。昨日はウェアウルフの牙と毛皮を納品するクエストを受けていて、時間も遅くなったからここでセーブして落ちたんだ。


 アイテムストレージにある分だけじゃ、目標数には微妙に足りていない。という事は、もう少し狩る必要があるな。


 小屋から外に出て、辺りを見渡す。俺の他にプレイヤーは居ないようで、まったく見当たらない。

 普段は少しくらいは居るんだけどな……。やっぱり、皆次のイベントクエストに備えているのか。


 まあ、人が居ない方が楽で良いか。


 そんな事を考えつつ、うろついて見ればすぐさま見つかる目的のウェアウルフ。群れのようで、けっこうな数が居た。

 これは都合が良いや。こいつらは単体ならばともかく、群れとなるとけっこう厄介な存在なのだが、今の俺にとっては駄犬に等しい。

 コマンドを入力して、数匹を火属性魔法で焼き、残った奴らを切り殺す。戦闘はあっさり終わり、ドロップアイテムを手に入れる。


 そんな事を数回繰り返して、そろそろMPも尽きそうな頃。牙も毛皮も必要な分はとれたし、狩りはここまでにしようかと、一旦コントローラーから手を離して体をほぐす。

 そして俺は、モンスターとエンカウントしないように、慎重に街に向かった。


 しばらく歩いて、アセモスの中の国の一つ、ザッカニアの王都の酒場に到着する。そこで俺は豪快に大量の酒を頼んだ。

 今日の狩りでクエストを完遂したから、形だけでもお祝いしようとな。食事効果もあるし。



「おう、ルーク。久しぶりだな」



 そんな俺に機械音声の声がかけられる。プライバシー保護の為に、ボイスチャットの際に声が変換出来るようになっているのだ。

 その声の主は、耳の長い、筋肉ムキムキで鎧を身にまとった男。



「おう、久しぶりバドラー。クエストを受けて辺境の森に数日こもってたし、その前も各地に飛び回っていたからな。こっちに戻ってきたのは数週間ぶりだ」



 この男、バドラーは俺と同じ「アセモスの翼」の初期メンバー。

 魔力が全種族中最も高く、代わりに筋力と耐久が低い精霊種。その中でも特に魔法使いに向いているハイエルフなのにも関わらず、その肉体通り筋力と耐久力が異様なまでに高い。

 その高い筋力で体を全身鎧で包んでいる(アセモスでは装備の合計必要筋力が足りないと装備できない)重戦士で、更にハイエルフならではの高い魔力で回復魔法を使う壁兼ヒーラーだ。

 正直完璧なヒーラーよりは回復量は多くないし、元がハイエルフだから重戦士のわりには攻撃力はそこまで高くない。

 だが自分で自分を回復できるし魔法への耐久も高いからアセモス一落ちにくいと有名だ。通称マッチョエルフ。



「はっはっは。お前はいつもそうだな。宿に泊まっているのを見たことがないぞ。だが今しばらく王都に居てくれないか?」



 そう言って俺の隣に座る。俺はその理由がわからなかった。



「なぜだ?」

「……最近王都に居なかったから知らんか。実はここザッカニアと隣国のノーベラルが緊張状態にあってな。戦争がおこるかもしれん。我らアセモスの翼はザッカニアのギルドだ。俺もリーダーもこの国に思い入れがある。傭兵として戦争に参加したい。……もちろん強制することはできんがな」

「そういうことならわかった。……俺もザッカニアには思い入れがある」

「そうか。お前ならそう言ってくれると思ったぞ」



 バドラーはそう言って、ガッハッハと笑うアクションを起こす。その後は酒を飲みながらたわいもない話をしていたのだが、ある時女性限定クエストの事を切り出した。



「なあ、お前今話題の女性限定クエストについてどう思う?」

「なんだ突然……はっはあ、そう言えばルークは魔法剣士だったな。報酬の風妖精の剣(シルフソード)が欲しいんだろ」

「ご名答。誰かに頼もうかと思っているんだが…誰かいい奴知らないか?」



 それを聞いて、バドラーはニヤリと笑う。



「そんな必要はない。ルークが自分でやればいい」

「はあ? なに言ってんだバドラー。あれは女性キャラ限定だ。俺は男。受けられない」

「ルーク。『スタイルチェンジの鏡』というアイテムを知っているか?」



 バドラーは楽しそうに言った。俺は突然の話題の変化に戸惑う。



「いや、知らないが……なんだ?」

「それは最近新しくできたダンジョンの最下層にあるらしくてな。このアイテムの前に立てばキャラの能力はそのままで姿を変えられるらしい。性別を含めて、な」



 そこまで聞けば何が言いたいのか誰でも分かるだろう。つまり俺がそれを使い女キャラになって、クエストに参加しろと言ってるんだ。



「なるほど……で、そのダンジョンはどこにあるんだ?」



 さっそく興味を示した俺に、バドラーは満足気に頷く。



「本当に行く気か。やっぱりお前は面白い。だがあそこはけっこう強いモンスターが多い。一人じゃ無理だ。……仕方ない。俺がついていってやろう」

「何やれやれって感じだしてんだよ。実はお前が行きたいだけだろ。キャラ変えたいのか?」



 困った奴を見るかのように頭をふるマッチョエルフをジト目で見る。

 ジト目で見られた張本人はさも心外そうに、



「まさか。俺はこの姿を気に入っている。まったく人の親切を疑うなんて最近の若者は……」



 とかほざきやがった。



「……はぁ。じゃ、親切ということにしておくよ。……明日は日曜だから、朝からそのダンジョンに挑戦するぞ。予定は大丈夫か?」



 奴は分かったと言って去っていった。

 あれ? あいつ、酒代を払わずに行きやがったが……。あ、いつの間にか俺とパーティー組んでやがる。パーティーを組んでいると支払いが一括になる、このゲームの仕様を利用しやがったな。フレンド相手だとパーティー申請許可がスキップされるんだよな。

 まあいい。情報代として払ってや ろう。

 俺も酒を飲みほし、代金を払って店を出る。さあダンジョン攻略の準備だ。



 ◇



  翌日、日曜午後二時。

 俺たちは予定通りダンジョンの最下層を目指していた。

 確かに出てくるモンスターはなかなかに強く、ダンジョンの長さを考えてヒーラーがいなければ俺はとっくに攻略不可能になっていただろう。

 ゾンビを切り殺し、バドラーに訊ねる。



「なあ、けっこう奥まで来たけど後どれくらいだ?」

「今二十八層だ。最下層は三十層だから後二層だな。二十九層にボスがいるらしいからMP回復しておけ」



 ボスか……いったいどんな奴なんだろう。そんな事を思いながらダンジョンを突破していく。

 そして午後二時半、俺たちは目的の最下層につき、鏡の前に立っていた。……ボス戦、予想外にあっさり終わったなぁ。ホント、バドラー硬ぇ。壁が居ると楽だわ。



「じゃあルークを女にするか。どうせクエストが終わったら元に戻すんだ。容姿は適当でいいだろう」



 鏡に触れてそう呟く。すると、バドラーに何言ってるんだと怒られた。



「せっかく女の子にするのだから、時間をかけて好みの子にしろよ」

「でも時間かけてたらお前はどうするんだ? 真面目に作ろうとしたらけっこうかかるぞ」

「大丈夫だ。お前のキャラメイクを見ているよ。お前がどんな女の子が好きなのか気になるしな」



 そう言うバドラーの声は、明らかに楽しんでいた。直接は見れないけど、画面の向こうの彼のプレイヤーは絶対に笑っている。



「……もしかして最初からそれが目的か?」

「まさか。お前の為に俺が一肌脱いでやっただけだ。俺って優しい」



 もちろんそんなことは信じない。が、ここでそれを追及しても意味がない。それに、別に知られても構わない事だしな。

 仕方ないから、自分の好みの女の子を作るとしよう。そう決めて頭の中でイメージを固めながら、鏡に写るキャラの容姿を変えていく。そして俺は三時間かけて理想の女の子を作り上げた。


 身長は百五十センチ程とやや小柄。

 顔は小顔で整っていて、目は大きくつり目ぎみで気の強そうな感じ。

 髪は肩にかかる位の長さのセミロングの銀髪。

 足はスラッと長く、ウエストはしっかり引き締まっている。

 胸は貧しくはないが巨でもない。

 これからの成長に期待というイメージの、十四、五歳の美少女だ。


 我ながらいい出来。ウンウンと頷く。

 バドラーは完成した女の子を見て、ぎりロリコンと呼ばれない位か、って言いやがったが。


 だが、どうせクエスト終わったら元に戻すのにこんなに時間かけて何やってんだと思っていたら、バドラーはさも今思い出したかのように告げる。



「言い忘れてたが、鏡でキャラを変えられるのは一度だけだぞ」



 俺はその言葉に、ピシッと凍り付いた。

 ちょっと待て。ってことはもうカッコいい兄貴のルークさんは帰って来ない……?



「バドラー騙したなてめえぇぇぇぇぇ!」

「失礼な。俺がいつお前を騙したというんだ。俺は一言も嘘をついてないぞ」

「なんで鏡は一度しか使えないって最初に言わねえんだよぉぉぉぉぉ! 確かに嘘はついてないから余計たちが悪いぃぃぃぃぃ」



 俺の嘆きを聞いてバドラーは満足気だ。

 こいつ……ドSか!



「まあその可愛いキャラで頑張るんだな。ルークちゃん」

「ふ ざ け る なぁぁぁぁぁ!」



 ◇



 その後、俺は失意の表情でアセモス・ワールドを終えた。

 あぁ、ルークさん……。

 ヤバい。しばらく立ち直れそうにない。

 俺はその夜、枕を涙で濡らしたのだった。


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