銃を撃つ男
改札を押し出されるように抜け、家路をたどる。
大学はかったりーし、電車の隣のオヤジは口くせーし色々めんどくせーなあ。
ポケットに手を突っ込み、ぼんやりとそんなことを思いながら駅の構内を歩く。
コインロッカーの前を通り、何気なくそちらを見るとスーツを着たサラリーマン風の男がロッカーに物を預け、立ち去るところだった。
急いでいるのか?
鍵をズボンのポケットに入れる様子があまりに無造作だった。
当たり前、とでも言うように鍵は先っちょをちょろっとポケットに触れさせただけで地面へと落ちた。
鍵がリノリウムの床を叩く。硬質な音はオレのところにまで届いたが男は落としたことに気づかずに行ってしまった。
ぼんやり見ていたオレの視界には置き去りにされた鍵がぽつんとあった。
今開けられ、閉められたばかりのロッカーをいくばくかのお金を投入してオレは再び開けた。
鍵を落とすほうが悪いんだ。
辺りを一度だけきょろっと見て、ゆっくりと開ける。
茶の油紙に包まれた何かがそこにはあった。ぱっと見、なんだか分からず取り出してみて思わず取り落としそうになった。
拳銃だ!
驚いたのももちろんだが、思ったよりも重かったから落としそうになったのだ。
もう一度辺りを見回す。先程より念入りに見渡す。
幸いこちらを見ている者はいなかった。
ほっと胸をなでおろし、迷いなくオレは自分のバッグにそれを仕舞った。
迷っている暇などないじゃないか。
少し重くなったバッグを慎重に肩にかけなおして足早に駅を出た。
歩きながら迷う。
バッグに拳銃を仕舞ったときは選択肢はそれしかないように思っていたが、改めて考え直すとそのまま置いてきて見なかったことにするという手もあったじゃないかと。
終わったことを考えても仕方ない。
いまさら戻るのは危険すぎる。
サラリーマン風だったあの男が本当にサラリーマンとは限らないのだ。
冬だというのに体にじわりと汗がにじんでくる。
警察に届けるというのもよぎったが、ロッカーを勝手に開けてしまったことがばれてしまう。そう考えるとその案も却下せざるを得ない。
結局家に持ち帰るしかなかった。持ち帰ってからゆっくり考えよう。
家のドアの前に立つ。辺りを見回す。人影はまったくなかった。鍵を開け室内へと入った。
しっかりとドアに鍵をかけ、狭い部屋の中央にゆっくりバッグを置き、腰を下ろすと急に落ち着いてきた。
つけられている様子はまったくなかったし、オレを特定することは不可能なのだ。
そう思うとなにも怖いことはないのだと思えた。
バッグから拳銃を取り出し、油紙も取り去り、目の前に置く。
しげしげとひとしきり見た後、手に取ってまたしげしげと見る。
いざ安心して、こうして実際になんの障害もなく触れてしまうと途端に特別さが失われてしまう。
なんだかつまらない気がしてくる。
ひょいひょいと、右手左手と移動させてもてあそぶ。
何の問題もない。手の中で拳銃はいたって静かだ。
こめかみに移動させてみる。
よくあるよなー、こういうの。
撃鉄を起こしてみる。
起こしてみたら無性に引き金を引きたくなった。
テレビとかでよく見るシーン。
とにかく引いてみたくて仕方なくなった。
引いてみる。
バン!
とはならなかった。
弾は入っていなかった。
オムニバス形式であと2話書く予定。
1話1話で読めるような形にしていく予定。
なので、連載ではないけど続けて読んだほうがもしかしたら分かりやすいのかも。
次を書いたらアドレスこちらに張ります。
というわけで書いたので張ります。
http://ncode.syosetu.com/n1957s/
(お手数ですがコピペで。ごめんなさい)