チョコレートみたいな恋がしたい
放課後の教室で、机に突っ伏していた。
ドアが開く音がして、ドサリと近くで音がする。
「宮崎くん」
顔を上げて、思わず目の前にいる人の名前を呼ぶ。
「悪い、起こした?」
彼はそう言って、自分の机の荷物を取り出す。
机の中からは、いくつものチョコレート。それを持っていたエコバッグにポイポイと入れていく。
背が高くてバスケ部で、クールな顔立ちなのに笑うと可愛くて、いつも友達に囲まれている。バレンタインにたくさんチョコを貰うことなんて、彼にとっては想定内なのだ。
「それ、どうするの?」
「どうしよっかな」
エコバッグを準備するほどチョコレートをたくさん貰う心構えが出来ているというのに、貰った後のことは考えていないらしい。
「変なの」
宮崎くんは椅子に横に座って、わたしがクスクスと笑い終わるのを待っていた。
「林は? 誰かにあげた?」
あげた。そのせいで悲しい気持ちになって、放課後の教室で塾をさぼって悲しみに浸っているのだ。
無言でしかめっ面をしているわたしの顔を、宮崎くんがのぞき込む。
整った顔に心臓が跳ねる。
「振られた?」
「告ってないのに振られたのっ!!」
今度は宮崎くんが変な顔をする。
「同じ委員会の男子で、会えば話したりしてけっこう仲いいと思ってたから。友達にあげるチョコ作りすぎたから、友チョコのつもりで今日あげようと思ったの」
思い出したら悔しくてなんだか泣けてきた。
「そしたら『林のことそういう風に見たことないから、ごめん』てチョコ受け取りもしなくて、わたしもそういう風に見てないのに、こっちの話も聞かずに行っちゃうからなんか失恋したみたいになってすっごく悲しい」
机の端に置いたままのチョコを思わず睨みつける。
「これ、開けていい?」
宮崎くんはわたしが昨日結んだリボンをほどいて、中から小さな箱を取り出す。
「チョコ、大好きなのにな。今日の告ってないのに振られた事件のせいで、しばらくは嫌いになっちゃいそう」
宮崎くんは取り出したトリュフをわたしの口の前に持ってくるので、仕方なく口を開けて自分の手作りチョコを迎えいれた。
「おいしー。口の中で溶けるよぅ」
嫌うなんて無理だ。絶対的に美味しい。大好きだ。自分の手作りだと言うのに、心の中でチョコに向かって告白してしまう。
宮崎くんもチョコを一粒、自分の口に放り込んで「うまっ」と言った。
「でも口の中に入れた瞬間はちょっと苦かった」
「ココアパウダーかな」
トリュフをしげしげと見つめて「ふーん」と言いながら、宮崎くんはもう一粒食べる。
「告ってないけど振られた事件はその最初の苦みってことで。後はとろけて甘い幸せだけだな」
「溶けるような甘い恋だね」
チョコレートみたいな体温で溶けてしまうような甘い恋がしたいな。
二月の日暮れはまだ早くて、電気をつけていない薄暗い教室で、密かに憧れていたクラスメイトと二人きりなんて、まるでドラマみたい。
同じクラスになって、席が前後になって、少しずつ話をするようになって、もうすぐまたクラス替えで、寂しいなと思う。
「今日貰ったチョコは全部返すから、俺にこのチョコ、ちょうだい」
もう最後の一粒になってしまったトリュフを、わたしの返事を聞かずに、宮崎くんはパクリと食べた。
彼がチョコレートを食べ終える頃にやっと、わたしは小さな声で「いいよ」と言えた。
チョコレートみたいな甘くて溶けるような恋が、始まった。
告ってないのに振られて、告ってないのに付き合うことになったお話。
バレンタインに自分で買った美味しいチョコを食べながら書きました。




