桜川、白妙の梨 〜過ぎゆく季節と、止まらぬ流れ〜』第3話:十三年ぶりの再会
「この物語は、一人の男が再会したかつての恋人と、その娘の運命を最後まで見守る記録です。7話以降の展開は非常に重厚ですが、まずは1〜3話の穏やかな出会いからお楽しみください」
会議中に震えた携帯電話。画面に表示された見覚えのない番号に、僕は直感した。 夕方、折り返した電話の向こうから聞こえてきたのは、紛れもなく絵里子さんの声だった。
「……お久しぶりです。沙織がお世話になりました」
数日後の金曜日。小雨の降る中、僕はホテルNPNへと急いでいた。 雨に濡れたアスファルト、急ぐ足取り。かつて彼女の夫・晴馬が亡くなったと知らされたあの日も、今日と同じような雨が降っていた。
ロビーのソファに、楽しそうに談笑する二人の女性を見つけた。 立ち上がった絵里子さんは、十三年の月日を感じさせないほど、あの頃のままの明るい笑顔を僕に向けた。
「片瀬さん、ご無沙汰しております」
レストランの窓際に座り、雨に洗われた街のネオンを眺めながら、僕たちは懐石料理を囲んだ。 医学部を目指す沙織さんの横顔に、亡き親友・晴馬の面影を探す。女手一つで、この子をここまで立派に育て上げた絵里子さんの苦労を思い、僕は胸の奥が熱くなるのを感じていた。
「沙織さん。努力すれば、幸運は必ず来ます。何かあったら、遠慮なく連絡してください。僕に子供がいたら、きっと君くらいの年だっただろうから」
僕の言葉を、二人は静かに、慈しむように受け止めてくれた。 桜川のせせらぎのように穏やかな時間が流れていた。だが、この時の僕にはまだ見えていなかった。彼女たちの運命に、暗い影が忍び寄っていることを。
「13年という月日が、彼女たちをどう変えたのか。次回から、沙織の受験、そして避けては通れない家族の試練が始まります」




