ルベルーサの依頼(タルトス暦3624年)
タルトスに存在する都市国家の中でも、比較的大きな都市ルべルーサ。
都市の中心部には湖があり、ルべルーサの統治者は湖の中央に城を築き、そこから都市を治めている。
ルベルーサの依頼で、魔憑き狩り組織『ティレウ』から派遣された二人組が、先ほど都市に到着した。
一人は空色の長い髪を後ろに一括りにした、年若い女性。
もう一人は縮れた黒髪の、サングラスが印象的な、気だるげな雰囲気の青年だ。
「シア。今回はくれぐれも先走らないでくれよ?」
シアと呼ばれた年若い女性、本名シシアは、釘を刺してきた相棒に、不機嫌な視線を向ける。
「それ、ルベルーサに着くまで、百回くらいは聞いたんだけど? イソルこそ、途中でいなくなったら許さないから」
「百回は盛りすぎだろ」
視線をシシアから逸らして返答してきた時点で、イソルはいつものように調査の途中で消えるだろう。
シシアはため息を吐いたあと、今回の依頼内容を反芻する。
ティレウの中でも、異端に属するシシアたちをまとめる班長から伝えられたことは
『湖から遺体が複数回に分けて発見された。どの遺体も身元を確認できないほど損傷が激しかった。極めつけに、全ての遺体には心臓がなく、悪魔の従者である魂狩りが関与している可能性が高い。よって我々の班に解決するよう長から直々にご指名いただいた。頑張ってきてくれたまえ』
ということだった。
あまりにも手がかりが少なすぎる。
まずは、ルベルーサの統治者に直接会って、実物の遺体を確認し、警邏や都市の住民にも聴き取りをしないと、何にも分からない。
「俺は適当に聞き込み調査をしてくる。シアは城主と顔合わせでもしてきたらいい」
「そう? 分かった。宿屋で落ち合いましょう」
「りょーかい」
イソルが人混みに紛れて姿を消すまで、その後ろ姿を眺め続ける。
シシアが班長に、イソルを相棒として紹介されたときから約半年。
一緒に複数の事件を解決してきたのに、彼の性格はとらえどころがなく、接し方に悩むことが多い。
サングラスだって、魔憑きだと公言するような物なのに、頑なに着用し続けている。
なぜ着用し続けるのかと質問したとき、あの男は飄々とした態度でこういった「いかしてるだろ?」と!
意味が分からなかったし、今でも納得してないけど、それ以来サングラスについては放置することにした。
「あいつのことは置いといて、城主に会いに行くとしますか!」
シシアには目的がある。
その目的を果たすためにも、今回の事件が目的に導いてくれることを願いながら、城に向かって歩き始めた。