表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

悲劇の夜(タルトス暦3598年)

集落(しゅうらく)が燃えている。


アストは木陰に隠れながら、家を呑み込む赤黒い炎を、ただただ凝視していた。


腕の中で息絶えた妹を抱え、どうしてこうなったのかと自問自答する。


原因は分かっていた。集落に訪れた旅人が珍しくて、教えてはいけない集落の秘密を伝えてしまったからだ。


父が魔憑(まつ)き狩りに抵抗し殺され、母がアストと妹のシシアを逃がすため囮になり、隣人のおばさんが惨殺され、近所の兄ちゃんが敗れ去り、妹の胸に銃弾が命中したのも、すべてが全部アストの軽率な行動が招いた結果だった。


十歳のアストには、話し上手で陽気な旅人が、魔憑き狩りだなんて、分かるわけもなく、そんなアストから言葉巧みに、集落の人間が魔憑きだという秘密を聞き出した旅人は、狡猾な人間だったのだと、手遅れになった今では、そう思う。


守り神の森に逃げ込んだアストは、息をしていない妹に絶望を感じながら、それでも一縷の希望を胸に、森の(ほこら)までやってきた。


祠の前に妹を横たわらせ、祈りの姿勢をとったアストは、全身全霊をかけて集落の神、いるかどうかも分からない存在に願う。


「僕の命を捧げます! どうか、どうか妹のシシアをお救いくださいっ! まだ、まだ八年しか生きてない妹です。集落で最年少の妹なんです! 多くは望みません。ですが、妹だけでもせめて!」


涙で視界が曇り、地面に擦り付けた額から血が滲むのにも構わず祈り続ける。


そして神はアストの願いに応えた。


それは神ではなく悪魔であったが、魔憑きのアストにはどうでもいいことで。


アストは妹を生き返らせて貰う代わりに、自身の名を捨て、悪魔の従者、魂狩(たましいが)りという存在になったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ