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第7話 恭子おばさんの想い

たしか莉子と葵が『こっくりさん』をしていた時、十円玉が用紙の外へと動いて、机から床へと落ちたんだった。


俺が学校でのことを思い出していると、雄二が突然立ち上がり、両手を広げて訴える。


「ちょっと待ってくれ! 皆、渉の言うことに納得しているようだけど、おかしくないか! 今の時代に本当に幽霊がいて、憑依や霊障があるなんて信じるのかよ!」


「落ち着け雄二、さっきと言ってることが違うぞ! 雄二も渉のことを信じてくれって、恭子おばさんに言ってただろ!」


「私もおかしいと思う。だって莉子が倒れて、その原因が霊の仕業なんていきなり言われても、とても信じられもの」


雄二と俺が言い争いをしていると、凪沙が雄二に賛同する。


雄二は幼い頃からスポーツが大好きで、体を動かすことが大好きな脳筋系だからな。


中学に進学してからは、部活に入りながらも、それなりに勉強するようにもなったが、基本的には雄二は、自分が夢中になっているモノしか深堀しない奴だ。


凪沙が近くにいることで、学生達の間での流行りや、少しの雑学ぐらいは持ち合わせているが、ホラーやオカルトについては女子と話せる程度の知識しかないだろう。


凪沙は社交的な勝気な性格で、いつもクラスの女子達の輪の中心にいる。


勉強もできるし、世話好きな面もあり、感情も豊かで、男子生徒達からの人気も高い。


最近の巷の流行りや、女性特有の流行を追いかけるのが大好きで、そういった情報を集めることを得意としている。

色々な雑学は知っているが、方向性が違うというか、ホラーやオカルトを信じる、オタク的要素を持ち合わせているタイプではないんだよな。


どちからというと陽キャラの二人が、心霊現象をおかしいという気持ちは理解できる。


しかし、古来から現在に至るまで、日本には多くの意味不明な心霊現象に関する情報が溢れている。

それを科学的ではない、信じられないと、簡単に否定することは、俺にはできないんだよな。


俺も半信半疑だが、莉子の様子を見てしまったからし。

あれは普通の病気じゃない。


渉の話を最後まで聞くには雄二と凪沙を説得しないと。

でも二人は心霊現象を信じたくないのだから、強引に話を進めるのも無理がある。


俺がアゴに握り拳を当てて悩んでいると、葵が小さな声で言葉を紡ぐ。


「私は渉君の話を聞きたい。莉子がどうなっているのか知りたい。だって部屋の中にいた莉子は普通じゃなかった。ただの病気のように見えなかった。私は莉子を助けたい……」


「私も葵ちゃんと同じ気持ち。莉子が治ってくれるなら、莉子がおかしくなっている原因が、病でも霊障でもどっちでもいいわ」


恭子お母さんの言葉に、娘を助けることが全てという、母親の強い意志を感じる。

やはり両親の愛情というのは深いものがあるんだな。


すると雄二が気まずそうな表情をして渉に頭を下げる。


「俺も凪沙も少し混乱していたようだ。すまない、話を続けてくれ」


「私もごめんなさい」


雄二も凪沙も落ち着いてくれたようで助かった。

葵と恭子お母さんのおかげで話を進められそうだな。


場の空気が穏やかになったのを感じたのか、渉は柔らかく微笑む。


「今回、僕が霊障だと推測した理由が二つあります。一つ目は、莉子と葵が『こっくりさん』をしている時に、十円玉が勝手に動いて床に落ちたこと。これは十円玉に霊が憑依し、場に留まりたくて暴走したとも考えらるんだ。通常の『こっくりさん』では起こらない現象だ」


「もう一つは?」


「二つ目は、この家に来て、莉子さんを見た時です。通常の病気では、体や精神が病んでも、何かに強く恐怖したり、何かに耐えられなくなったり、何か強烈な衝撃を心に受けない限り、突然に錯乱、発狂することは稀だ。それに莉子は体調不良で家にいたのだから、それはあり得ない。なので彼女を霊に憑依された、もしくは霊障を起していると判断し、処置をしたんだ」


すると凪沙が大きく頷く。


「渉が何かしているのは私も雄二も見ていたわ。渉が何か色々なことをしていて、それで莉子が落ち着いて静かになって、寝ちゃったのよね」


「それは俺も見ていた。渉が何かを施したことで、莉子が落ち着いたのは事実だな」


どうやら凪沙も雄二も、莉子のことは霊障の類だとわかってくれたようだ。

渉、雄二、凪沙の三人の話を聞いていた恭子おばさんが、不安そうな表情で渉を見る。


「莉子を落ち着かせてくれてありがとう。それで娘は治ったの?」


「いえ、緊急で簡易敵に処置しただけです。僕には除霊とか霊を払う力はありませんから。でも霊障を抑え、霊が憑依を解くまでの時間稼ぎならできるかもしれません」


「幽霊って日にちが経てば、莉子から放れて消えていくものなの? 心霊現象なんて初めてだから、何も知らないの。娘のためなら何でもするわ。だから詳しく教えてちょうだい」


恭子おばさんは、真っ直ぐに渉を見つめ、ゆっくりと頭を下げると、大粒の涙を零し始めた。

宝のように大切な自分の愛娘が霊現象に遭っているのだ。

恭子おばさんの心痛は深く、身を切るような思いだろう。


俺も莉子を助けたいが、しかし俺には渉ほどの心霊についての知識がない。

そのことが少し悔しくて歯痒い。


俺は気持ちを切り替えて、渉に話を促す。


「そんなに霊障って質が悪いのか?」


「霊によっても色々あるのさ。浄化されたいだけの霊なら、それ程悪さはしない。但し人に恨みを持っている霊、現世を呪っている霊、怨念だけになっている霊もいる。それに霊ならまだマシさ。忌み地に巣う怨霊、古来から祀られている土地神などもある。悪意のある霊でも、生半可な技量しか持たない僕には、手に負える代物じゃない」


「それで莉子に憑りついてる霊は何なんだ? 予想はついてるんだろ」


「『こっくりさん』で呼び出される霊としては動物霊が多い。でも必ず動物霊と決まっていないんだ。それが厄介でね」


渉の口ぶりでは、莉子に憑依している霊が何なのか、判別がつかないってことだな。

それに、霊の正体がわかっても、渉では対処が難しいということか。


渉の俺達を見回して話を続ける。


「でも霊障に対して手も足も出ないってことじゃない。部屋の四方にも霊符を貼って、部屋の中を清めているし、莉子にも破魔のお守りを持たせてある。それに彼女にお神酒を飲ませ、僕が祝詞を唱えて、霊の力を弱めてもいる。今莉子が眠っているから、彼女の霊障を抑えるのに一応は成功したといえるね」


「それはわかった。俺も見ていたしな。これからはどうすればいいんだ?」


「僕が恭子おばさんに、霊を抑える方法を教える。それに僕が時々、莉子を見舞うようにする。これで数日は大丈夫だ。その間に除霊やお祓いをしてる神社やお寺に連絡して、早く彼女を連れて行ったほうがいい。僕ができる助言はここまでだ」


説明を終えると、渉は深く息を吐き、少し疲れた表情で微笑む。

すると莉子のお母さんはソファから立ち上がり、渉の近寄ると、彼の手を両手で握り締め、床に崩れ落ちた。


「ありがとう……ありがとう……娘のためにありがとう……」


凪沙と雄二の二人は怯えの表情で、いつの間にか肩を抱き合っている。

そして葵は深く俯き、体をブルブルと震わせていた。

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